第23話 逃げたせい
そうか、基地の雰囲気があんな風になってしまったのは俺のせいなのか。
俺が変わる事を恐れていたから、逃げていたから。
何でこんな大事な事を忘れていたんだろう。
それで俺はずっと……。
茉莉の気持ちにも、先輩の気持ちにも、円の気持ちにも向き合おうとしなかった。当然だろうな。関係がぎこちなくなるのも頷ける。
それにしても、茉莉だけでも驚きなのに、先輩と円までか。
何で俺なんかにそんな気持ちを抱いてくれるのかは知らないけど、さすがにそれは逃げちゃ駄目だっただろ。
何考えてるんだ昔の俺。
「ねぇ、ちょっと。ちょっと。アンタ、いつまでそんな所でぼーっとしてるのよ」
「円?」
不意に背後から声を賭けられて振り返ればそこには円が立っていた。
彼女は携帯をこちらに見せながら、呆れたように言う。
「メール。こんな樹海で学校サボって何やってんのよ」
茉莉に聞いて、知ったのか。
それを言うならお前もだろ。
しかし茉莉に森に行く事なんて、伝えたか?
織香のことは聞いた記憶があるんだが。
「警察の関係者から不審者が樹海に入っていったって。まったく……ひやひやしたわよ。特徴がアンタにそっくりだし」
なんだ、そっちからか。
いや、そっちもどうやって聞いた。
円は眉をしかめながら、こちらを睨みつけてくる。
これでも、心配してくれているのだろう。
とてもそうには見えない表情だが。
「アンタは知らないでしょうから言っておくけど、ここはホントは立ち入り禁止の場所なのよ。最近不審者がうろついているって話だから特に警戒してんの」
「そうなのか」
「じゃなきゃ、あたしはここにいないわ」
強い口調で断言された。
どうやら嘘ではないらしい。
結構気安いノリで数年前はうろついていたから、特に深く考えもせずに歩き回っていたが、結構まずいことだったんだろうか。
しかしそうなると、困る。
調べ物が進まない。
「ほら、用がないならさっさと出た出た。黄昏れたいならもっと別のとこにしてちょうだいよね」
このまま収穫なしでは、色々と困るので、俺は慌てて口を開いた。
急かす様に追い出す円に駄目元で尋ねてみる。
「なあ円。この森のこととか、災とかいう奴のこととか知らないか」
だが、期待せずに聞いたその言葉に、円の声音は警戒の色に満ちていく。
「……何それ」
「隣町の織香って奴から聞いた。この森には、大昔の災害だの不作だのを、何とかする為にたくさんの人が、災という神の生贄にされて埋まっている。そうだろ」
「……ええ、その通りよ。とんでもない歴史学者さんがいたものね。この町の黒歴史を暴こうだなんて」
歯噛みをするような表情で応える円からは演技の気配は全く感じられない。
いつもはちゃらんぽらんな奴だが、さすがにこういう時に適当な事を言う奴じゃなかったか。
「事実なのか?」
「証拠はないわ。そう言われてるだけ。でも、そうとしか思えない痕跡はたくさんあるのよ」
なら、限りなく黒に近い白ということか。
陰惨な過去の事件は、町への風評被害などに繋がりやすい。
だから、今までお偉いさんたちは隠してきていたのだろう。
「だからかこの森は、罪人に厳しい森だって噂がある。人の口には、完全に戸を立てることは出来ないって証拠よね」
織香だけから聞いた情報なら、半信半疑だったがこうして円からも聞いたなら、少しは信ぴょう性も増してくるな。




