第12話 二度目の1月10日
吸血鬼の住む家 永野家 AM6:30
携帯のアラームに起こされて目を覚ました。
携帯を手に取ると、昨日と同じようなメールが茉莉からきていた。
眠気を堪えながらベッドから這い出て、ぼうっとしていたら母が部屋にやって来た。
「未来、起きなさい。朝ごはんできたわよー」
「いま、行く」
窓からカーテン越しに差し込んでくる朝日にやられながらも、制服に身を包んで下に降りてくと、香ばしいパンと焼けた目玉焼きの匂いが空腹を刺激した。ひどく眠い。油断していたら再び夢の中に旅立ってしまいそうな意識を現実につなぎ止めながら、他愛ない世間話をしてくる母の言葉に生返事して、家を出た。
そして、昨日とまったく変わらない冬の寒さに凍えながら、待ち合わせ場所に向かっていく。
対して新鮮味のない朝の風景。
ひどく見慣れた物に違和感を感じつつも、曲がった交通標識の元へと辿りつくと、そこに幼なじみの少女が立っていた。
「未来、おはよー」
「ああ」
「すごく眠そうー。寝ちゃうー?」
「この寒さの中外で寝たら凍死するだろ」
俺の眠気は幼なじみである少女には一発でバレたようだった。
何が面白いのか楽しそうに笑う茉莉の顔を見ながら、俺はため息とついた。
「えへへ、今日はいったい何日でしょー」
「さあな」
「むー。その返答は不満です。未来って鈍感ー?」
「朝から俺にケンカ売ってるのか。オヤツ抜きになるか?」
別に買ったりはしないし、いたいけな少女をこてんぱんにして楽しむ様な趣味は俺にないが、いたずらっぽい笑みを浮かべるこの幼なじみは調子に乗らせておくと必ずどこかで失敗する経験則だ。
だから俺は長年の付き合い方で、会話の中で逐一相手の釘の差すような話し方を覚えてしまった。
「いいもん、オヤツ抜きでもー。未来のいじわるー」
子供っぽく頬を膨らまして抗議する茉莉は、早足でこちらを追い抜いて、ぐんぐん先へと歩いて行ってしまう。
そして、いったん振り返って舌を出すのも忘れない。
「何拗ねてるんだ」
「拗ねてないもん」
どこからどうみても拗ねてる様にしか見えないからそう言っているんだろ。
しかし、今日が何の日かなんて、特に重要そうには思えないんだが……。
「……あ」
そこまで気が付いて考えた。
本日1月11日は、茉莉の誕生日だったのだ。
出会い頭におめでとうの一言もなければ、それは普通怒るだろう。
「……あー、茉莉?」
恐る恐る声を賭けてみるのだが、それで怒りが収まることはなかったらしく。
「べー。未来なんかきらーい」
そんな風に言って彼女はさっさとその場から走り去ってしまった。
やらかした。
いつもあっている幼なじみの誕生日を忘れるとかどうかしてる。
頭をかかえていると、メールの着信音がした。
携帯で、茉莉から何か届いたようだ。
『あたしはとっても怒りました。明日の本番まで忘れたままだったら承知しないです』
「本番?」
説明文みたいな怒りかたをする茉莉の言葉に首をかしげていると、ふと携帯の時刻表示が目に入った。
朝起きた時には寝ぼけていてよく見ていなかった。
そこにあった表示は。
1月10日。
昨日と同じ日付だった。




