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「ねぇさま!?」
「姫様?!」
「マリーン?!」
朝食を食べたあと急に走り始めた私を驚きの声をあげる3人の声が耳に入るがフツフツとした怒りのようなモヤモヤ感が抜けず、3人の声を無視し、そのまま昨日訪れた工房までやってきてドアを激しく開け放った。
「あぁん?誰でぇ、俺の工房だと分かってんのか?
…て、昨日の姫さんじゃねぇか。」
昨日見かけた腕だけマッチョの気持ち悪いオッサンが出てきたので高圧的に聞いてみた。
「あなた、15才くらいの美少年を知ってるわね?出しなさい。」
「ん~…姫さんのおっしゃってる、びしょうねん?ってのが誰だか分かりませんが、この村には王子や姫さんみたいな綺麗な奴は居やしませんで。」
オッサンの言葉を聞きハッっとし言い直した。
「間違えましたわ。昨夕この工房の裏で見かけました無臭で体は細く髪はくすんだ茶色の少年を探してますの。知りませんこと?」
「あいつと会ったんですかい?あいつはワシの倅で今は部屋に居るんじゃないですかね?
少し待っててくだせい。」
オッサンは嫌悪感を露にし工房2階に登っていった。2階から怒鳴り声が微かに聞こえ暫くすると美少年を引き連れたオッサンが戻ってきた。美少年は青い顔で俯いて私には見向きもしなかった。
「おい、姫さんがおめぇに会いたいらしいが何しやがった。この穀潰しが。」
オッサンの美少年への言葉にイラッっとするも、それどころじゃない私は美少年に抱きついた。
「お兄ちゃん、マリーンと一緒に遊ぼうって言ったのに…。」
目に涙を浮かべ美少年を仰ぎ見ると美少年は驚いた顔のあと、視線をさ迷わせた。
『うげぇ~!気持ち悪っ!マリーン熱でもあるの?』
【煩いわよリク!もう帰る時間がせまってて、なりふり構ってる場合じゃないのよ。】
『あっ、〝金の〟じゃん。めっちゃ怒ってる。』
『ちょっと、あなた!待ってても全然会いに来ないし、私のノットに抱きつくんじゃないわよ!』
〝へ~、美少年の名前はノットって言うのか〟と脳内で考えながらも精霊たちの言葉を無視し私はノットから離れなかった。
「お兄ちゃん、マリーンと遊びたくないの?お兄ちゃん、マリーンと一緒にマリーンのおうち行こう?」
昨日のノットの話を聞いて思ったんだ。こんなネグレクトな家庭と村に彼を置いておくのはどうなんだ?名目は私の話し相手として引き取っていいんじゃないかと。
しかし、夜にノットは来てくれず時間がない私は暴挙にでるしかなく今にいたる。
「えっ?いや、あの…」
どうすれば良いのか分からないのか驚きと不安で視線をさ迷わせるノットが返事をする前に横やりが入った。
「ちょっといいですかい?今の話だと倅を姫さんが望んでるって事でいいんですかい?」
オッサンに水をさされノットに抱きついたまま睨みながら私は答えた。
「えぇ、そうです。私は彼を気に入りました。年も近そうですし話し相手として王城に来てもらいたいですわ。」
ニヤニヤ顔のオッサンの考えが読めて嫌気がさす頃に後ろの方でバタバタした足音が聞こえドアからヤン、アニータ、エヴァンが入ってきた。
私はアニータの目を見て、チラリとオッサンを見た。それだけで察してくれたアニータはオッサンの方へ向かいオッサンを連れて出て行った。
「ねぇさま!誰です、彼は?
お前、ねぇさまから離れろ!」
エヴァンが駆け寄ってきてノットを睨みながら言うが、彼は少しも私を掴んでおらず、ガッチリ私が抱きついているのだから困った顔をするしかなかったようだ。
今の私たちは、ノットに抱きついてる私、私に抱きついているエヴァン、困惑顔のノットとヤンだ。
「とりあえず、ここではなんですので一度宿屋に戻ってはいかがですか?」
私の突拍子もない行動に慣れてるヤンが一番早く解決に動き、ヤンの言葉で、この混沌とした状況から一先ず終わりが見えた。
私の周りを怒りながら飛び回ってる金属性精霊を無視し、右手にはノットの手を離してなるものかと握りしめ、左手はエヴァンに強く握られ、後ろから複雑な表情で頭をかきながら着いてくるヤンを引き連れて宿屋に戻るのだった。