ギルバート夫妻の朝食
初サイドストーリーで団長とエミリアの短編です。
「エミリア、朝飯できたぞ」
体に纏ったシーツの中、気だるい体で寝返りをうって、寝室の入り口から声をかけてきたアルフレッドの方を見る。
「大丈夫か」
「……立てない」
口を尖らせて彼をきっと睨みながら言うと、アルフレッドが困ったように笑いながら近づいてきた。
「悪かったって」
「ほんとに信じられない」
「仕方ないだろ、それだけ愛してるってことだよ」
アルフレッドはベッドに腰掛けながら身を屈めて、片手で私の顎を持ち上げ、口付けると、ふっと笑ってそのまま指の腹で頬を撫でた。
「……反省してないわね?」
「まあな」
満足げに笑う彼の表情を見て咎めるように問いかけると、アルフレッドが悪びれる様子もなく答えた。
そんな彼を見て、短くため息をつく。
「腹は?」
「空いてる」
「じゃあ、ここに持ってくるか?」
「そうして」
素っ気なく口にした私の言葉に「了解」とゆっくり返事をしながら目を細めた彼は私の頭をぽんっと優しく叩いてから、腰を上げた。
週に一度、共に過ごす休日。
一緒に暮らし始めてから何度目かわからないやりとりをしたところだった。
窓から見える太陽はすっかり天辺近くまで昇っている。
少しして、アルフレッドが食欲をそそる匂いをさせて、朝食をのせたトレイを運んできた。
今日の朝食は、ふっくらきつね色に焼けた厚めのパンケーキと自家製のドレッシングがかかった色とりどりのサラダにブルーベリーソースがかかったヨーグルト。
アルフレッドは一度キッチンに戻ると、自分用のコーヒーと私用のフルーツジュースを持ってきて、ベッドサイドに置いた。
彼は、朝食にコーヒーしか飲まないのだが、毎朝私のために朝食を準備してくれる。
結婚した当初は私も新妻として頑張ろうとした時もあったのだけど、彼から全力で止められたので渋々断念した。
シーツを胸まで引き上げて、ヘッドボードにもたれかかるように座った私は「ありがとう、いただきます」と声をかけて、いつものようにサラダから手をつけた。
「こんな姿、お母様に見られたら三日は外で立たされそう」
「だな」
くすりと笑ったアルフレッドは私を抱くように肩に手を回して、腰まで伸びる長い髪を左手で弄んでいる。
口に運ぶ新鮮なレタスは人参と玉ねぎが擦り下ろされた甘酸っぱいドレッシングとよく合っていて、思わず「美味しい」と小さく呟くと、彼が私の額に唇を寄せた。
「今日天気良いな」
「そうね」
「買い物でも行くか?」
「んー……」
雲ひとつない秋空に少し開けられた窓からは心地良い風が吹き込んできていて、アルフレッドが言うように絶好の買い物日和だ。
ただ、彼と過ごす穏やかな朝が心地よくて、ずっとこの時間が続いて欲しいと少しだけ億劫に感じる。
サラダを食べ終わると、器を私から取り上げて「次は?」と聞いてきたアルフレッドに「パンケーキ」と答えた。
ベッドサイドに置いたトレイの上で食べやすい大きさに切った彼はひとかけらをフォークに刺して、こちらに向けた。
「ほら、口開けろ」
彼の顔と目の前に向けられたそれを交互に見て、食べさせてくれるなんて、といつも以上に優しいアルフレッドを不思議に思いながら、口を開けて頬張った。
「……っ!」
すると、口に含んだパンケーキを噛もうと歯を合わせた時に、がちりと硬いものが音を立てて、予想外の食感につい顔を歪めた。
怪訝な顔のまま、恐る恐る口の中のそれを取り出す。
「何これ」
その表情を見たアルフレッドが吹き出して、声を立てて笑いながら、私の手からそれを取り上げるとトレイの上のフキンで拭った。
それから、私の右手を優しく掴み、人差し指にそれを通した。
一連の流れに目を丸くしていると、アルフレッドが「今日は結婚記念日だろう」とふっと目元を緩ませた。
彼に緩く持たれた右手にもう一度視線を落とすと、人差し指には小さな黄色の宝石が埋め込まれた金色の指輪がはめられていた。
私は光り輝くそれにアルフレッドの言葉を理解して、シーツが肌蹴ることも気にせず彼の首に両腕を回した。
「飲み込んでたらどうしたのよ…」
その胸に飛び込んだ私を両腕で抱きすくめた彼は「面白かっただろう?」とまだくすくす笑っている。
私はそんな彼の肩越しに指輪を見て、口元が緩まるのを感じながら、「好きよ、アル」と呟いた。
ふっと笑って「夜はお前の好きなレストランを予約してるよ」と低く囁きながら、私をベッドに沈めるアルフレッドに、行けるかしらと少しだけ不安になりながらも、心は彼への愛しさで満たされていたのでそのまま身を委ねることにした。
いつもと同じだと思った朝は特別な一日の始まりになった。




