ギルバート夫妻の夕食
前回短編の逆サイドです。
「そろそろ出られるか?」
「ごめん、もうちょっと」
ドレッサーの前に立つエミリアは仕事中は上げている長い髪をサイドに下ろし、体のラインに沿うように流れる黒の丈の長いドレスを纏っていた。
背中は大きく腰まであいていて、彼女の滑らかな白い肌が露わになっている。
思わずその後ろ姿に近づいて、鏡を見ながらピアスをつけているエミリアを後ろから抱きすくめた。
彼女が手にしているピアスも俺が昨年か一昨年の結婚記念日に渡したものだ。
「綺麗だ」
耳元に唇を寄せて囁くと、エミリアが「あなたの妻だもの」と静かに言いながら、得意げに笑った。
体に回した俺の腕にそっと置かれた彼女の手には、俺の目と同じ色をした黄色のトルマリンがはめ込まれた指輪が光っている。
エミリアの綺麗な瞳と同じエメラルドにしなかったのは、俺の醜い独占欲だ。彼女は俺のものだと知らしめたくて。
エミリアはそんな俺の胸の内に気づいているのかいないのか、その右手を見下ろしながら「素敵ね」と目を細めた。
エミリアと結婚して4年。
当日に休みを取れない時もあるが、毎年記念日は一緒に祝うことにしている。
今年は彼女が先日友人と訪れて、気に入ったと話していたレストランを選んだ。
馬車から降りて、エミリアの腰に手を回して中にエスコートすると、彼女を見た他の客や従業員がうっとりと見惚れるのが分かった。
本人は周囲の視線に気付きながらも凛と前を向いていて、その姿に彼らはなおさら目を奪われている。
そんな様子を見て、俺もあの中の一人だったなと、昔を思い出して思わず笑みが溢れた。
「どうしたの?」
ふっと笑った俺を不思議そうに見上げてくるエミリアに「いいや、何でもない」と首を振った。
案内されて席についた俺たちは彼女の好きなコースを注文して、シャンパンが入ったグラスを鳴らした。
運ばれてきたオードブルに手をつけながら「やっぱり美味しい」と頬を緩める彼女の愛らしい表情にここを選んで正解だったと心の中で自賛する。
それから前菜、スープと続いて、空になったシャンパングラスにワインリストを手にした時、サーバーが近づいてきたのに気が付いた。
「こちら奥様からです」
結婚した年のラベルが貼られたワインとワイングラスがテーブルの上に置かれた。
一瞬目を見張ってから、エミリアの方に視線を向けると、彼女が満足げに目を細めた。
白いワインが注がれている透き通った2つのグラスはそれぞれエメラルド色と黄色に色付いていて、同じ細工が施されている。
自分の前に置かれたエメラルド色のグラスを見て、俺は思わず小さく息を漏らした。
「……お前には敵う気がしないな」
エミリアは眉を落とす俺の顔を見ながら、「あなたの妻だもの」と口にしながら艶やかな笑みを浮かべている。
「これじゃサプライズにならないだろ」
「良いじゃない、朝の指輪には驚いたんだから」
「メインはアルの好きなアクアパッツァなの」とにこりと笑った彼女には、俺の彼女を喜ばせるための計画も胸に秘めた思惑も全てお見通しなようで、手のひらで転がされていたことに少しだけ屈辱感を感じつつも、何もかも受け入れられているようで悪い気はしなかった。
ただ、敵わないと分かっていながら、そんな彼女の夫として、次の記念日こそは、と心に決めた。
読んでくださってありがとうございます。
冬編は少し頭を悩ませているため、更新までお時間頂くかもしれません。ごめんなさい。
ほんの少しでも皆さんをイケメンで癒せるように頑張ります。




