第三章「そして夜が明ける」その七
随分と空きましたが久々の投稿です。
放課後。
森尾さんの特訓もひとまず終わってその帰り。
三組に香奈がいない事を確認してから帰路につく。
あまり体は動かさなかったと思うのだが妙に疲れた。
慣れない事をしたから、それからくる精神的な疲労だろうか。
それに違和感も原因か。
教室を出て、校門まで来た今でこそ違和感を感じられなくなっているが、少し前、特訓をしている時にも感じられて少々落ち着かなかった。
気になって堪らないのに全然わからない。そのおかげで、違和感のなくなった今でも違和感に苛まれている。
まあ、わからないものをいつまでも考えていたって仕方がない。早く帰ろう。
いつもと変わらない通学路の景色。変わらないはずの景色が少し物寂しく感じられるのは、僕の心持ちが原因か。
一人で下校なんていつ以来だろうか。
思えば登下校はずっと誰かと一緒だった。
小学、中学、高校では香奈と。
中学の時の下校は清も一緒だった。
今思えば気を遣ってくれていたのかもしれない。
家に帰っても一人だし、せめて登下校は誰かと、という事か。
それともこちらに引っ越して来る前の事か。
きっかけは些細な事だったが、それでも僕は学校に行きたくなくなって、家に引きこもった。
僕が引きこもった事が理由かは知らないが今住んでいる潮町に引っ越し、転校した。
引っ越してきてからもしばらくは引きこもっていたのだが、毎日のように潮町を案内する為に連れ出されて、外に出る事の耐性が付いたのか一ヶ月もしないうちに学校へ行くようになった。
そういえば香奈と初めて出会ったのも町案内の時だっけ。
見るからに活発そうな少女は、気を抜いたら置いていかれそうな歩調と凄まじい体力で僕達を連れ回し、帰る頃には毎回ヘトヘトになっていたのは良い思い出だ。
思えばその時から身長は負けていて、いつかは逆転すると思っていた身長差は、年を重ねるごとに開いていき、今では目を合わせる時に軽く見上げないといけないくらいだ。
もう身長で香奈に勝とうだなんて思……っている。
まだ大丈夫。
僕は成長期だ。
まだチャンスはある。
きっと来年か再来年には香奈を見下ろすくらいになっているはずだ。
……そうだ、戦争に勝った時の願いで身長を伸ばしてもらおう。
……いや、流石にないわ。
もう少し有意義に使おう。
何にせよ、僕が今こうして学校に行けるのは町案内をしてくれたおかげだ。感謝しないとね。
「ただいま!」
自分の家の扉を開けて少々大きめの声で言う。帰ってきた時に家に誰かがいるなんて久しぶりだ。
少しばかり気持ちが昂ぶる。
が、しかし返事が返ってくる事はなかった。
もしや、家を出ている間に襲われて、倒されてしまったのではないか。
嫌な予感を抱えながらベランダに出る。
「アカネ⁉︎」
ベランダには柵にもたれ、驚いた顔でこちらを見る少女の姿があった。
「どうしたの? そんなに慌てて。もしかして敵⁉︎」
大丈夫みたいだ。僕は安堵の息を零しながら答える。
「ううん、大丈夫。ただいまって言ったのに返ってこなかったから誰もいないんじゃないかって思ってさ」
「驚かさないでよ。ずっとここに居たわ。まあ、あまりにも暇だったからお布団は取り込んで押し入れに戻しておいたけど」
言われてみれば今朝干したはずの布団が竿にない。
「良かった……聞こえなかっただけなんだね」
「んー……それじゃあ改めて。おかえり、紅太」
満面の笑みを浮かべながらの挨拶。
思わずこちらも笑顔になる。
「ただいま、アカネ」
普通の事、当たり前の事なのかもしれない。だけどなんか良いな、こういうの。
「そうだ、アカネ? 一個確認なんだけど」
夕飯の準備を終わらせて、洗濯物を干しながら尋ねる。
「どうしたの?」
横で一緒に洗濯物を干しているアカネが答える。
「妖精の戦いでは無関係な人を巻き込んじゃいけないんだよね?」
「そうよ、無関係な人を傷つけると監視役がルール違反の罰を与えに来るわ」
「てことはさ、戦うのは他の人を巻き込む危険が少ない夜になるよね?」
「えぇ、主に深夜になるかしら。それがどうかしたの?」
「うん、途中で眠くなるといけないから今のうちに寝ておこうと思ってさ」
「……? いいんじゃない? どんなに緊張していても眠くなる時はあるでしょうし、それで判断が遅れて致命傷、だなんてシャレにもならないわ」
今さっき浮かんだ事を口に出しても、きっちりと答えてくれる。
帰ってきてからずっとこんな調子だ。
思い付いた事を聞いて、アカネがそれに答える。
聞いても聞かなくてもいいような他愛の無いものから戦争の事まで。
戦争の事に関して言えば、昨晩アカネが話してくれた事の確認ばかり。
聞いて、答えて、お礼を言う。
せっかく妖精と話せるのに話が全然続かない。
まあ、理由は簡単だ。
僕が本当に聞きたい事を聞けていないから。これに尽きる。
アカネは僕の事をずっと見てきたと言っていた。
僕に取り憑いて空気を冷やす悪戯をしていたのがアカネ。それはアカネの力を見ればわかる。
妖精が悪戯をするのは、構って欲しかったり、気付いて欲しかったり、遊んで欲しかったりするからなのだろう。
悪戯されるのは別にいいんだ。実際、全く見る事ができなくなっていた僕が、妖精を感じられたのだから。むしろ嬉しかったくらいだ。
一番気になるのは何故僕に取り憑いたのか。いや、取り憑き続けたのか。
僕が知る限り、妖精はあまり人に取り憑かない。
妖精が憑くのは基本的には場所だ。
公園、森林、川や海、寺社、家屋等、様々な場所にいて、たまに近づいてきた人に取り憑き、悪戯をして、一週間もすれば飽きて離れていく。
何年も一人に憑き続けるのは僕以外には知らない。そもそも僕以外に妖精に憑かれた人を知らないけど。
僕が憑かれやすいのか? ならどうしてアカネが憑いている間、他の妖精に憑かれなかったんだ?
一回で三体に憑かれた事もあるから一体だけしか憑けないなんて事はないだろう。
もしかしてアカネが他の妖精から守ってくれていたのか?
でも、妖精の悪戯は害を与えるものではないからそれもおかしいと思う。
一応、悪戯の例を少し挙げるが、物が一人でに動いたり、勝手にテレビが点いたり、肩を叩いてきて振り返ると誰も居なかったり、そんな程度。無言電話が掛かってきたりもしたっけ。
挙げていけばキリがないが、パッと思い付いたものはこんなところ。
けれど所詮は悪戯。くだらなかったり仕様もなかったりする、取るに足りない可愛らしいものばかりだ。
そんなだから悪戯されても気にしなかった。話しかけたって返事が返ってこないから、気にしたところでどうしようもなかった、とも言うが。
まあ、昔がどうであったとしても、とりあえず話を今に戻そう。
アカネが僕に憑き続けたのには訳がある。これは確実だろう。
けれど、もしそれが話しにくい事、言いたくない事だったら?
自分から言わないって事は、つまりそういう事なのではないか?
だったら僕から聞くべきではない。自分から話してくれるのを待つべきだ。
そういえば……言っていない事と言えば、学校で感じた違和感の事をアカネに言ってなかった。
僕自身が気にしすぎだとか気のせいと考えているし、原因もわかっていない。
確証のないものを伝えたところで困らせるだけだと思う。
きっと今日の学校だけで感じる事だから。
明日には何も感じなくなっているはずだから。
だからとりあえず保留。
混乱を避けるために情報の公開をしない事も必要……ってテレビで言っていた。
さて、自分の中で一応の区切りをつけたし、ご飯食べてシャワー浴びて寝よう。
お疲れ様でした。
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「妖精のことがら」を今後ともよろしくお願い致します。




