第三章「そして夜が明ける」その二
すみません、また遅れてしまいました。
お昼寝って結構な魔力を持っていますね。恐ろしい。
思いのままに書き殴ってしまったので少々読みにくくなっているかもしれません。その時は質問していただければ答えられる範囲でお答えします。
さてと、まずはこの寝汗で濡れた服を着替えてしまおう。
パジャマから部屋着へ。そのまま洗濯機まで行き、昨日の洗濯物と洗剤と一緒に放り込んでスイッチオン。
せっかくの休みなんだから布団のカバーと敷きパッドも洗濯してしまおう。
敷き布団からカバーと敷きパッドを剥いて二回目の洗濯の準備だ。
後は布団を干して、一回目の洗濯が終わったら取り込もう。そう思ってベランダに出たのだが僕は違和感を覚えた。
妙に風が冷たいのだ。
曇っているわけでも雨が降っているわけでもない。むしろ快晴。
だから陽の光が当たる場所は暖かい。梅雨入り前の暖かさ。油断していると熱中症になりそう、とまで言うと盛りすぎだがもう少し気温が上がればそうなってもおかしくはないだろう。
「気温は高そうだし風は妙に冷たいしでよくわからないや」
例えるなら、真夏の日中に冷蔵庫を開けた時の感覚が近いだろうか。
……冷凍庫を開けた時くらいかもしれない。
布団を持ちながらぼんやりと考え事をしていると、横から声がかかる。
「おはよう、紅太。お日様はもう高いけど、昨日は金曜日だったっけ?」
……アカネだ。ベランダの端にアカネが立っている。
いや、ここまで強調する必要はないのかもしれない。だけど強調したくなった。
僕は正直に言って昨日の出来事が夢なんじゃないかと思っている。
いや、今アカネを見るまで思っていた。
昔は見ることができた妖精。
それこそ一日に一人か二人は見ることができた。
いなくなる、なんてことはないと思う。
実際、時折感じた冷たい風が昨日にはアカネの仕業なのだとわかった。
だから、妖精がいなくなったわけではない。
当たり前に見えていたものが見えなくなっただけだ。
いつから見えなくなったのか。
徐々に見えなくなったのか。
急に見えなくなったのか。
それすら覚えていない。
僕は見えなくなってからずっと妖精に会いたかった。
一目見たかった。
会ってこの疑問を解消したかった。
出会う妖精が知り合いとは限らない。
それでも知りたかった。
何かがわかると思った。
アカネとソラに出会って話をした。
しかし、わからない、思い出せない。
思い出そうとしてみると少し頭が痛くなる。
僕は思い出したくないのだろうか。
きっと大丈夫。
何かがわかる。
アカネやソラは殆ど初対面みたいなものだ。話をするうちに色々なことがわかるはず。
それに他にも五人の妖精が参加している。監視役も含めれば六人だ。
全員と会うことはないかもしれないけれど、それでも何人かは出会うと思う。ヒントは得られるはず。
僕はこの時をずっと待っていた。妖精が見えるようになるこの時を。
見えるようになっただけで何も思い出せはしないけど、それでもこれから妖精と関わっていけば、長い間胸に刺さったままの棘を取り除くことができるはず。
だから僕は妖精たちの戦争に参加する。他の誰でもない、僕自身のために。
「アカネ」
「な、何? そんないきなり神妙な表情になって」
取り乱した様子だが僕は気にせず続ける。
「僕ね、妖精の戦争に参加するよ。勝つとか負けるとか、殺すとか殺されるとかは実感が湧かないしよくわからないけど、誰かに流されるんじゃなくて。僕自身の意思で」
真っ直ぐにアカネを見据える。
「そう思った経緯は聞かないけどね。それでも自分から参加するって言ってくれたのは嬉しいわ。顔にも出してなかったつもりだけど、実は内心いつ捨てられるんじゃないかってビクビクしてたのよ? ちゃんと言葉にしてくれてありがとね」
安堵の表情。
この場の空気感と一緒に風の冷たさも和らいだ気がする。
「でも紅太? そういう決意表明って何回か戦った後に言うものじゃないの?」
そう言って苦笑いを浮かべている。
「そうかな? 最初にしておくくものでしょ、多分」
真面目なことを言った反動で返事が適当になってしまった。
緩く軽く話すことが普通だったから少々気恥ずかしい。
「それよりも紅太?」
「何? どうしたの?」
「早くそのお布団干しちゃえば?」
「あはは、そ、そうだね」
なんだかなぁ。締まらないなぁ。
布団抱えたまま考え事していたし、その状態で真面目なこと言ったしで、傍から見たら相当シュールな光景に映っているのではなかろうか。
そう思うと恥ずかしさで死にそうだ。顔全体が熱くなっていくのがわかる。
俯いているけれどこれ、身長差的には逆効果ではないか?
もういい、早く干してこの場から離れよう。
抱えていた布団を干し、別の布団を干そうと部屋に戻ろうとしたらアカネが声をかけてきた。
「ねぇ、ちょっと屈んで頭下げて」
「え、うん。何か付いてる?」
素直に頭を差し出す。糸くずでもくっ付いていたのだろうか。
「よしよし」
「んっ、急にどうしたの⁉︎」
僕は今頭を撫でられている。
僕よりも小さな女の子に、突然に。
……今の状況こそ恥ずかしさで悶えそうなのだが。
「ね、ねぇアカネ?」
「あまり動かないで」
「……ごめんなさい」
とりあえず撫でられておけということだろう。
頭を撫でられるなんていつ以来だろうか。小学生くらいの頃は撫でられることもあったっけ?
小さく、ひんやりとした手の感触。強いわけではなく、かと言って弱すぎるわけでもない絶妙な力加減。長く寝たはずなのに眠ってしまいそうな心地良さ。
僕の頭を撫で続けているアカネが静かに言葉を紡ぐ。
「そのまま聞いていてね。私はね、真面目なままでいるのって難しいことだって思うの。結果が出なかったり、周りの人が付いてこなかったり、反発されたり。挙げ句の果てにはそれに流されちゃったりね。だから真面目でいること、真面目であり続けることは素敵なことなのよ。誰も彼もが真似できるわけじゃない美徳なの」
一呼吸置いて、また呟く。
「怖がらないで? 今と昔に嫌な思いをしても、未来に貴方の武器となる。例え全てに裏切られたとしても、貴方自身は裏切らない。紅太が紅太を信じ続ける限りね」
「なんだか説教みたくなったわね。さ、ちゃっちゃとやること済ませちゃいなさい」
そう言ってアカネはベランダの柵に座って空を眺めている。
僕は布団を干して、食事や家事をしながら思考を巡らせる。
僕はそんなに真面目じゃない。
緩くて軽くて適当。それが僕だ。
そんな僕が真面目にしたって空回りするだけ。僕はそう信じている。上手くいくはずがないって信じている。
だけど、空回りし続けたとしても、百のうち一は上手くいくかもしれない。ほんの少しは良いことがあるかもしれない。
まずは一歩。
まずは一つ。
できることを少しずつ。
あの時みたいに逃げないで。
「……学校行くか」
そう言った時には、僕は制服に着替えてバッグを持っていた。
お疲れ様でした。
次は学校ですね。頑張って書きましょう。
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「妖精のことがら」を今後ともよろしくお願い致します。




