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 べルタから聞かされた女魔導師と国王の話は、何と言っていいのか、現実味がなかった。

 長時間の話を慣れていないベルタの話は、内容が右往左往していたが、ルドルフは頭の中でどうにか処理し切れた。


(……そんなことが本当にあるのか? いや、ないだろう。仮にも一国の王がそんなあからさまに怪しい提案に乗るわけないだろ)


 ルドルフは頭ではそう考えているものの、目の前の少女が嘘を付くとは思えなかった。

 もう一つの可能性として、ベルタの知識が間違っていることも考えた。


 しかし、自分の今の体を思い返すと、

(……本当の話なんだろうな。現状の理解できない現象は、錬金術師のあーだこーだ理屈めいたことよりも、魔法というトンデモ現象の方がまだ納得がいく。まぁ、理解はできないけど。なら、内容三の〈聖宮内では聖宮から特殊な能力を与えられる〉っていうのが、この鎧だったりするのか。食品がわんさか湧いて出てくるのも聖宮のおかげってことか。……なんだこの超展開……。もともとぶっとんだ展開だとは思っていたが、ここまで振り切りるとは……はぁ)


 心中でため息をつくルドルフだが、すぐに頭は切り替わっていた。


(つまりあの建物は敵の拠点で、最低三十人の王族とその従者がいるのか。この子を、ベルタを死なせないためには、戦うしかない!)


 ルドルフが決意を再び固めていると、話しつかれていたベルタもようやく復活していた。


「そ、それでね、わたしは、ルドルフに謝らなければならないの」

 なんのことだと、ルドルフは首を傾げたが、ベルタの深刻な表情を見て彼女の真剣さを知った。


「あ、あなたがここにいるのは、わたしのせいなの……」

(どういうことだ?)

「わたしが、聖宮から与えられた力は、〈守護者〉。だ、だから、あなたが、ルドルフこそがわたしの能力によって、召喚された人なの」

(…………)

「そ、それで、召喚された時、あなたには、いろんな、いろんな力と、その影響がきているの。あなたに与えられた力は〈狂化〉と〈守護〉。狂化は圧倒的なまでの暴力を。守護は他者を守るための力をふよするの。た、ただし、〈狂化〉は精神を野獣の如く狂暴にし、〈守護〉は無条件で人を守ろうとするの。……ごめん。ごめんなさい。あなたには、そのどちらの影響もあるよね。ごめんなさい。ごめんなさいっ」


 

 ルドルフは悲痛な面持ちで打ち明けてくれたベルタを慰めてやりたい。

 確かにそう思った。

 だが、同時にこれは与えられた感情だということが頭から離れない。

 この気持ちは偽りだと。

 ルドルフの優しかった手はもうベルタのは乗らない。

 

(……狂化に、守護。確かに思い当たる節はある。あの激痛と記憶喪失、それに言葉もか。これはきっと狂化のせいだな。それで……ベルタを守ろうとしたのは守護のせいか。……与えられた感情、か)



 なら俺は誰なのだ。

 ルドルフは答えてほしかった。誰でもいいからこの体の中を猛烈に蠢く何かを吐き出したかった。



 感情は偽物で、記憶はない。

 ベルタを守ろうとしたのも偽り。力によって操られただけ。

 俺を知る者はいない。俺が知っている者もいない。

 ならいったい俺とは何だ。

 与えられた心で生きていくのが俺なのか。

 過去もなく、今もなく、未来もない。

 それが俺だとでもいうのか。

 ふざけるなっ!

 俺は俺だ。

 ベルタを守ろうとしたのだって、俺の意思だ!

 なんで、なんでそれをお前が否定するんだっ……。


 これじゃあ、本当に俺の意思がないみたいだろう……っ。


 なあ、答えろよ。

 俺に感情はあるのか、意思はあるのか、心はあるのか!


 この怒りも狂化によるものだとでも言えばそれで終わりだ。

 誰も俺を肯定できない。

 感情も記憶も言葉も、心まで奪われた俺に何が残っている。

 俺は偽物によって作られているんだ。

 本当なんて一欠けらもない。


 

 ……そんな、そんな、俺が生きている意味なんてあるのか……。


 もう俺は俺を自分だと認識できない。


『人は他人の心なんて理解できない』

 それはそうだ。

 だって俺の心は偽物なのだから。

 そんな偽物を理解できる奴なんていないし、偽物が理解できるものなんてない。


『言葉がなくても心があれば、俺たちはやっていける』

 ああ、やっていけるだろうよ。

 意思とは関係なく、ベルタのためにと俺の体は動くだろうから。

 敵を壊そうと、ベルタを守ろうと、勝手に動いてしまうからな。




 ああ。

 ああ……

 もういい。

 もう、どうでもいい。



 全部、壊れてしまえ――――。



 

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