第6話 剣
俺の剣が折れてしまった。
銅製なのでそりゃ仕方ないが……
「王都へ行くための一張羅だったのに!」
そうショックなど受けていたのがよくなかった。
――ゴアぁアアアッ……!
茫然自失の中。
躍りかかってきたオーガは、両手で左右から俺の身体をまるごとつかんだ。
「しまった……」
オーガはさすがに怪力である。
そのままヤツは砲丸投げのようにグルグル回り、その遠心力でもって思い切り俺を投げつけた。
「うわッ!」
すごい、飛んでる……と思ったのは瞬間。
俺の身体は馬車の幌にぶち当たって、そこで止まった。
――パラ、パラパラ……
「きゃー!」
「お、おい、キミ。しっかりしろ!」
乗客たちは吹っ飛んで戻ってきてしまった俺にびっくりする。
「あ、すいません。馬車壊しちゃって(汗)」
俺は土埃を払いながら、壊れた幌をめくり避けた。
「車輪とかは大丈夫だよなぁ……?」
「そ、そんなことよりキミの身体は……」
もちろん俺の身体にもダメージは加わっていた。
でも、あれくらいならあと十発喰らっても問題なさそうだし、ちゃんと避けようと思えば『身躱し』の技能で掴まれることもない。
問題は決定力……っていうか武器だよな。
銅の剣は折れてしまっている。
どうしよう?
そう頭を悩ませていると、地面に転がる銀色の剣が目に入った。
あれは鋼鉄の剣?
冒険者たちのものか。
「悪いけど、これ貸してくれ」
俺は倒れている冒険者のところへ行ってそう頼み込む。
「つ、使ってくれ。すまない……」
冒険者はそう言って気を失った。
――ゴアアアア!
そうこうしていると、オーガは俺への警戒を解いて、いよいよ馬車を襲おうと歩を進めていた。
「させるかよ!」
しかし、好機でもある。
俺は駆けて行って高く飛び上がった。
そして、オーガのうなじへ鋼鉄の剣を突き立てる!
「うおおおおお!」
――ゴアアアア! ゴアアアア……
刃がヤツの急所にヌルぅっと入ってゆく。
モンスターはその巨体をゆっくりと倒し、ずしん……と地に伏した。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
さて、魔物が倒れたのを見ると、乗客たちはバンザイバンザイと俺を取り囲んだ。
「助かったよ。すげえな、アンタ」
「すごいね!」
「素敵♡」
なんか照れるな。
「あ、そうだ」
俺はハッと思い出すと、倒れている冒険者の方へ行く。
そして、回復魔法マリッジ・ヒールで彼らの回復をしてやった。
パアアア……☆
「すまない。回復まで……」
「キミのおかげで助かったよ」
申し訳なさそうにするが、この冒険者たちは根性あったよね。
でも……
「そう思ってくれるなら、あんたたちに頼みがあるんだけど」
回復した彼らにそんなふうに持ちかける。
「頼み?」
「ああ。話は簡単さ。このオーガを倒したのはアンタたちってことにしてくれないか?」
と言うのも。
俺はカネの節約のために庶民用の馬車に乗っていたワケだけど、本来これはおおっぴらにしない方がいいことである。
仮にも貴族だからな。
俺がオーガを倒したってことになると、そこらへんバレちまう。
彼らの手柄にしてくれたら好都合だ。
まあ、冒険者たちは固辞したが、重ねて頼み込むと、やがて了承してくれた。
その代わりと言ってはなんだけど『鋼鉄の剣』をもらったよ。
剣は四次元BOXの亜空間へ大切にしまっておいた。
――さて。
オーガが倒れたのち、砦の兵が到着して現場検証を始める。
そのせいもあって馬車の出発はさらに遅れ、王都についたのは夜遅くのことであった。
「……困ったなあ」
こんな時間じゃ城の門はもう閉じているだろうし、空いている宿もあるかわからない。
どこに泊まろう……
「坊や。よかったらうちに泊まったらどう?」
そう言ってくれたのは乗客の母娘だった。
彼女らは王都に住んでいるらしい。
「あんなに必死に助けてくれたのだもの。遠慮はいらないわ」
そりゃ助かる。
野宿もイヤだったので、お言葉に甘えることにした。
「お邪魔しまーす」
「うふふ、どうぞお好きに掛けて」
そう言うと、母の方は料理を始める。
俺はテーブルの前で待ち、娘の方としゃべっていた。
「そう言えば、この家のオヤジさんは?」
「お父さんはいないの。死んじゃったのよ」
「そっか……」
娘は俺のひとつだけ年下で、そんな境遇も似ていた。
「お待たせ〜」
やがて、母がせっせと料理を運んで来た。
この小さな家を見るに彼女らの生活は決して楽ではなさそうだが……ここは王都。
さすがに食材がバラエティに富んでいる。
「うふふ、たくさん食べてね」
明日は城だな。
そんなことを考えながらも俺は母娘の家で夕餉を楽しむのであった。
◇ ◆ ◇ ◆
鉄仮面の女騎士ナディアは、王直轄地の街道沿いに魔物があらわれたと報告を受け、馬を走らせた。
「ここか、オーガがあらわれたという道は」
「はッ! そうであります。ナディア様!」
ナディアが尋ねると、かしこまった駐在がそう答える。
魔物は人里であってもしばしば出現する。
だからこそ領内にも砦があり、駐在がおり、町々にも冒険者ギルドが設置されているわけだが……
しかし、オーガのような巨大モンスターが街道沿いなどに出現するのは極めてまれなことだった。
「オーガは決して弱いモンスターではない。どのように倒したのだ?」
「それがたまたま馬車に冒険者が乗り合わせていたようでして……」
駐在が言うには、その冒険者三人がオーガを倒したという。
「冒険者が? 彼らは名が知れているのか?」
「いいえ。しかし、今回のことで名をあげることでしょう」
「ふむ……」
女騎士は鋼鉄の顔をキラリと光らせて考えこむ。
(ヤツに違いない……)
彼女の脳裏には先日関所で出会った男が浮かんだ。
「いかがなさいましたか、ナディア様」
「いいや、なんでもない。ご苦労だったな」
「はッ!」
どちらにせよ行く場所はわかっている。
戦争があり、召集がかかっているのだ。
城へ行けばきっとまた会えるはず。
「ククク、アルト殿。逃れられぬぞ」
女騎士はそうつぶやいて馬で駆けて行った。




