第4話 女騎士
初夜から一ヶ月。
一夜たりとて欠かさず15の少女と16の少女を交互に、あるいは同時に相手をしていると、二人を長年友達とのみ思っていた自分の無垢な少年性が、女として見る情に上書きされてゆく気がして、ほのかな寂しさすら覚えていたけれど、生来、愛することに関して男は女の足元にも及ばぬのであり、彼女らには、俺のことを好きなのは仕方のないこととして、あまり好きすぎて依存的なのも不健全であり、また、こちらはいつ戦争で命を落として来るか分からぬ身であるから、仮に夫の訃報を聞こうと涙の一雫でもこぼせば翌日から問題なく再起できるような、ほどほどの惚れ方にとどめよ、と教育せねばならぬこと再三であった。
ただ、それも今日で最後かもしれない。
「でも……戦争なんてめんどうくせえなあ」
俺は着替えを済ませ、荷物を担ぐと、そんなふいにボヤいた
「ったく、大人の男がふにゃふにゃしたコト言ってんじゃないよ!」
と、おふくろ。
「誇り高いことさ。お父ちゃんだって立派にお務めを果たして来たんだよ?」
「チッ、わかったよ……」
と返しつつ玄関で靴を履いた。
「せっかく結婚できたのに寂しいなあ……」
「無事で帰ってこないと承知しないんだからね!」
リリアとノンナは、やはり涙ぐんでいる。
あれだけ言ったのにとは思ったけど、まあ、新婚だけに無理もない。
「兄ちゃんカッコいい!」
「お土産お願いねー!」
弟たちはそんな感じだ。
「お前らがおふくろを守るんだぞ? じゃあ、行ってくる」
こうして俺は王都へ旅立った。
オヤジの代わりに、兵力1として。
◇
王都ははるか西。
俺はとなりのライオネ領を通過すると、いくつもの領地を越え、西へ西へと歩いていった。
やがて1日半ほどで立派な『関所』が見えて来る。
時刻は日暮れ。
「またれよ! キサマ何者だ!」
さて、関所に着くと衛兵にそう尋問される。
俺は王の召集に馳せ参じるところであると説明する。
「ウソをつけ! そのわりに引き連れる兵がおらぬではないか!」
そりゃもっともな疑問だが……
ウチの領地は田舎だから兵は俺以外いないんだということを丁寧に説明する。
「兵力1だと? いくら弱小でもそんな不憫なことあるワケなかろう!」
「あやしいやつめ! それ、引っ捕らえろ!」
ひ、ひどすぎる(泣)
関所の兵たちは縄を持ち、俺を囲んだ。
「待ちなさい!」
そこで響いたのは、一喝の勇ましい女の声であった。
「ナ、ナディアさま……!」
「王国ナイトがどうしてここに!?」
衛兵たちがかしこまる先には、全身鎧の騎士の姿があった。
顔から爪先まで刃のような金属で覆われているが、勇壮ながらソプラノな美声と、腰や乳房の形に沿った装甲の造形によって女騎士であることがわかる。
「そちらの殿方は領主とおっしゃっているのだ。証文を確認すれば事足りることではないか?」
「はッ、たしかに……おっしゃるとおりで」
という話なので、俺はダダリ領主のあかしである証文を取りだし、衛兵に見せてやった。
「やや! この証文はまさしく本物……たいへん失礼いたしました!」
俺はホッとして証文をしまう。
そこで女騎士が言った。
「本日はもう日暮れだ。領主殿には関所にお泊まりいただこう」
「かしこまりました」
衛兵が返事をすると、俺は関所の寝所へ案内されたのだった。
「やれやれ、足が棒のようだ」
関所ではパンとスープ、それからふかふかなベッドが用意された。
ありがてえ。
メシが終わると、俺はベッドにゴロンと横になる。
でも、ここまで来ればあとは王都までの馬車が出ているはずだ。
明日は歩かなくていい。
「あ……馬車の時刻を聞いておかなきゃな」
そう気づいてすぐにベッドから起きると部屋を出た。
窓の外は月夜。
その月明かりに照らされた石畳の廊下を歩いていくと、宿泊施設の管理人室がある。
「すみませーん」
部屋に入るとランプの下で爺さんがひとりうつらうつらとしていたので、可哀想だが起こして馬車の時間を聞く。
「若いお人よ。旅ですかのう?」
「まあ、そんなところだよ」
これが気のいい爺さんで、なんでも若い頃は冒険者をしていたらしく、いろいろなモンスターとの冒険譚、各地で出会った女や博打の話、果てはダンジョンで受けた膝のケガで引退を余儀なくされた話など聞かせてくれた。
「ところであなた様、かなりの強者のご様子……ワシの若い頃を思い出しますのう」
爺さんがしみじみとそう言った時。
廊下の石畳にカシャン、カシャンと硬質な足音が響くのが聞こえ、管理人室に鉄仮面の騎士があらわれた。
「……そなた。そこにいたか」
「あ、あんたはさっきの?」
そう。
さっき俺を助けてくれた女騎士だ。
「うむ。談笑のところ悪いが、そちらのアルト殿に用があるのだ」
「俺?」
思わずすっとんきょうな声を上げてしまうと、女騎士はうなずく。
フルフェイス鉄兜で表情もわからないのが威圧的だ。
「少しお付き合い願おう」
えー、まだ爺さんと話していたかったんだけど……
でも、さっき助けてもらった手前断ることもできないか。
「じゃあ、爺さん。またな」
俺はやむをえず女騎士に連れられ管理人室を出ていくのだった。
◇
「ええと、その……さっきはありがとうな」
関所の中庭に連れ出された俺はまず頭を下げた。
女騎士は鉄兜の仮面でこちらをにらむ。
「礼を言われるようなことではあるまい」
「いや、助かったよ」
「そうか。そう恩に思っていただけるのなら、頼みがある」
「頼み?」
「うむ。ひとつ……私と戦っていただこう!」
鋼鉄の顔はそう言うと、おもむろに腰の剣へ手をかけた。
「ちょ、ちょっと待て(汗)」
俺はあわてて両手を上げる。
「なんであんたと戦わなきゃいけないんだよ。急すぎるだろ……!」
「そうか。申し遅れたな」
すると騎士はカチャリと鉄兜を取り、美しい黄金色の髪をふわりと舞わせながら言った。
「私はナディア・エルゾーナ。ナイト爵を賜っている。以後お見知りおきを」
若い女の整った顔立ちが月明かりにまざまざとする。
「あ、アルト・ドワイドです」
「よし。これでよいな?」
か、顔が近い。
こちらをジッと見つめる瞳は宝石のように青く、百年の恋でも打ち明けられているかのような視線に、少しドギマギする。
「それではいざ尋常に……」
「よくなーい!」
兜をかぶり直した女騎士がまた決闘を始めようとするので、叫んだ。
「なんで戦おうとするんだよ!」
「それは……私が武人だから。武人は常に『強き人』との戦いを望むもの」
な、なんだこの女……
戦闘狂か?
「だったらお門違いだよ。弱っちい俺はあんたに殺されるだけだし、あんたも満足しない。不毛だって」
「むっ、とぼけても無駄だ。私の『強さ』を見分ける眼力はごまかせぬぞ」
確かに……
俺は嫁「2」のブーストにより戦闘能力「255」に達している。
つまり、数百騎の兵団を単騎で撃滅する程度の能力はあるのだ。
でも、そこらへんバカ正直になることもない。
女は殴れないし。
小さな頃、『女は打つんじゃねえ』って、オヤジにボコボコにされた覚えもある。
「待てって。あんたは自分の武力で勝ち取ったナイト爵。俺は寝ててもなれる世襲貴族だ。勝てるワケねーから」
「ふん、いらぬモノサシだな。大切なのは強いか強くないか……。では参るぞ!」
女騎士ナディアはついに剣を抜いた。




