第3話 嫁ブースト
胸を張って仁王立ちするリリア。
ショートヘアーのサラサラした前髪越しに、ノンナをジトっと睨んでいる。
「リリア、どうして……?」
「リッキーたちから聞いたのよ! あんたがアルトの秘密の修業場に行ってるって」
つーか、ひょっとして俺の秘密修業場ってバレバレなのか?
「それよりなんの用? オマエ、怒ってるんじゃなかったのかよ」
「ち、違うのよ、アルト」
リリアは小麦色の太ももをモジっとさせて言った。
「私はみんなが秘密を知っていたことがアルトのせいだなんて思っていないわ」
「え、そうなの?」
「あなたがそんな人じゃないことくらいわかっているもの。昨日川岸で帰っちゃったのは、隣にノンナがいたから……」
ノンナがいたからなんだっていうんだよ……とは思ったが、そんなことより大事なことがある。
つまり、リリアが俺のこと信用してくれてないってのは、俺の勘違いだったってことじゃん?
でも……
「じゃあ、なんで怒ってたんだよ」
瞬間、リリアの瞳が揺らめいた。
「そ、それは……うまく言えないんだけど。でも、あなたに『結婚してくれ』って言われた時、本当はとても嬉しかったの」
「……え? なんで?」
「だって……その……す……ッ……すぅ」
しばらく次の一言がどうしても出ないという様子だったが、リリアは俺をキツく睨むようにして言った。
「す……好きだったから! あなたのこと。ずっとずっと言えなくて、隠してたけど……」
「リ、リリア……?」
俺の手を両手でギュッと握るリリア。
「男友達みたいに見ないで、私をお嫁さんにしてください……」
意外だった。
リリアにこんな女らしい一面があったなんて。
「待ってよ!」
と、そこでノンナが叫ぶ。
「アルトと結婚するのは私なんだから」
「はあ?」
気の強いリリアがノンナに詰め寄る。
「何よ、それ?」
「アルトが言ってくれたんだもん。結婚してくれるかって」
ノンナも負けじと三つ編みを震わせて言い返す。
「バカ言わないで! あたしの方が先に言われたんだから、あたしが結婚するの! ノンナは引っ込んでなさいよ!」
「……でも、リリア。一度拒否したんだよねー? アルトが可哀想って思わなかったの?」
「うッ、ノンナには関係ないでしょ! 元はと言えばあんたのせいでこじれちゃったんじゃない!」
「別に。私、ウソはついてないもん」
やがて二人の少女はつかみ合いを始めた。
襟をつかみ、髪をつかみ、頬をつねり、エスカレートしていく。
「よ、よせよ……!(汗)」
俺はなんとか間に入って止めようとするが、収拾がつかない。
くそッ……なんでこうなっちまうんだ。
思わず、こうつぶやいた。
「もうやめようぜ。結婚なんて……」
「「アルト??」」
二人の目線がこちらを向く。
「俺はもうダダリの領主だからな。領民どうしをケンカさせるワケにはいかないんだよ。そんなんだったら、どちらとも結婚しない」
「え……?」
「……そんな」
「恋愛結婚である必要はないんだ。時間はかかるかもだけど……見合いでもするよ」
呆然とする女二人に背を向け、俺は剣を担いで帰路につく。
「待って、アルト! もう喧嘩しないから!」
「そうよ。あたしたちずっと仲良しなんだから。ねー?」
そう言って手を握り合う少女二人。
「……本当?」
「本当よ! 信用して?」
「じゃ、じゃあ……」
ノンナは横目でチラリとリリアを見ると、続けた。
「じゃあ、こうしよう? 私とリリアで二人ともアルトのお嫁さんになるの」
ノンナの提案に、リリアが「えッ……」と一瞬たじろぐ。
「だって、アルトはもう領主さまなんだから、それでも全然おかしくないでしょ?」
「それでお前たちが仲良くやれるなら一番だけど……本気なの?」
「う……」
しかし、リリアは少し二の足を踏む。
一方で、ノンナは雰囲気に反して腹が座っていた。
「え、私はいいよ? アルトのお嫁さんになれるなら……」
目がマジだ。
そこまでの覚悟を見せられたら、その気持ちにはちゃんと向き合わなくちゃいけない。
「ノンナ。仮にそうなっても、本当にいいの?」
「うん」
ノンナは迷いなくうなずいた。
「……わかった。ノンナ、結婚しよう」
「アルト……うれしい♡」
「ま、待って……ッ!」
しかし、話が決まりかかると、リリアは悔しそうにふんどしのお尻をよじって言った。
「待って。そ、それでいいから……あたしとも結婚して」
「やめとけよ。無理はよくないって」
「いいえ。悔しいけど、ノンナの言う通りよ。アルトはもうこのダダリの領主さまだもの。独り占めにはできないわ」
リリアは頬を俺の胸へ寄せて続ける。
「邪魔になりたくないけど……でも、そばにいたいの」
――そういうわけで。
俺はリリアとノンナを家へ連れて行くのだった。
おふくろ、何て言うかな……
◇
「へえ、あんたもなかなかやるもんだねえ!」
リリアとノンナを家へ連れて帰ると、おふくろはそんなふうに感心していた。
「怒らねえのかよ」
「なに言ってんだい。息子がモテて嬉しくないはずがないだろ?」
そう言って俺の尻をペンペンッと叩くおふくろ。
「クソババアめ。てめえ母親だろうがよ」
「ははは! 女好きは男の勲章のようなもんさ。お父ちゃんも若い頃は……ポッ」
ポッ……じゃねーんだワ。
「なにはともあれ、結婚式をしないとね!」
「ふん、勝手にしやがれ」
――結婚式当日。
ざわざわ……ざわざわ……
俺んちの庭は大勢の領民であふれかえっている。
「わーキレー!」
「本当!」
右を見ればリリア。
活発なショートヘアに可憐な花の髪飾りを身に着け、女らしいスカートが慣れないのかお尻をモジモジよじらせながら少し恥ずかしそうにしている。
左を見ればノンナ。
いつもはおしゃべりな彼女も今日ばかりはそのうすピンクの唇をキュッと閉じ、大人っぽく姿勢をスッと正して、白銀の花嫁衣装にまるまると乳房の形を実らせていた。
「さ、アルト。神木へ向かって愛を誓うんだよ」
と、おふくろがうながす。
神木とは、館の前にそびえる千歳の巨木であり、神として領民土着の信仰を集めている。
新郎はこの神木へ向かって結婚の誓いをするのだ。
そう。
この世界の結婚とは婚姻届けを提出することではなく、『人知を超えた神的な何か』に誓うことを言うのである。
「ええと、俺……じゃなくて私アルト・ダダリ=ドワイドは……ええと……」
俺は青くなりながら、徹夜で覚えた結婚の儀式の文言を口から出していく。
「アルト……♡」
「嬉しい♡♡」
ふたりは感激して俺に寄り添ってくる。
「よーし、アルト。誓いが終わったのなら新郎は花嫁へ口づけするのが慣例だよ」
と、おふくろ。
「ええー、みんなの前でなんて恥ずかしいよー」
「ゴネるんじゃないよ。キンタマついてんだろ?」
キンタ……
我がおふくろながらなんて言いぐさだ。
「チッ、しょうがねえな……リリア」
「は、はい!」
俺はまずリリアの肩を寄せて唇へ唇を重ねた。
プニ……☆
弾力があってみずみずしい。
気のせいか、電気が走ったような気がした。
―――――――――
嫁の人数: 0人→1人
戦闘能力: 5(G級)→55(E級)
内政ポイント: 0→700(農 / 工 / 建設)
特殊能力:
◇回復魔法マリッジ・ヒール【New!】
◇四次元BOX【New!】
―――――――――
き、来たぁぁぁ!
嫁ブーストだ……ッ!!
ちなみに「55(E級)」は、小規模な野盗集団なら単騎で撃滅する程度の能力である。
「じゃ、じゃあ、ノンナも」
「うん……」
続いてノンナの肩をよせ、口を吸った。
ぷにゅ……♡
女の子らしくて、ぽってりとしてやわらかい唇だ。
ちょっとエッチな気分になる。
―――――――――
嫁の人数: 1人→2人
戦闘能力: 55(E級)→255(C級)
内政ポイント: 700→2000(農 / 工 / 建設)
特殊能力:
◇回復魔法マリッジ・ヒール
◇四次元BOX
◇風陣魔法カイザー・ガスト【New!】
◇身躱し【New!】
―――――――――
あまりの急上昇に気が遠くなりそうだ。
ちなみに「255(C級)」は、数百騎の兵団を単騎で撃滅する程度の能力である。
「さすがアルト様! オレたちのできないことを平然とやってのける!」
「そこにシビれる、憧れるぅ!!」
周りからそんな男たちの声があがる。
同年代の女子の中でもとりわけ器量のよい二人をいっぺんに嫁にしてしまったのだから、ひょっとしたら村の男衆から反発されるかとも心配したが……そんなこともないようだ。
「兄ちゃんモテモテだねー!」
「ボク、兄ちゃんみたいになりたい!」
弟のヨルセン(13)とセラム(11)もそんなふうに言って俺へ尊敬のまなざしを送っていた。
儀式をしっかりこなして兄の面目も立ったというもの。
この後はみんなで食って飲んでの宴会だ。
――王都から戦争の知らせが来たのは一か月後のことだった。
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