第27話 岩窟
「は……い?」
女王リゼッタは自分の耳を疑った。
「……ナディア。もう一度おっしゃってくださる?」
「はッ、ご報告いたします。私、ナディア・エルゾーナは、ダダリ領主アルト殿と結婚いたしました」
ナディアは鉄兜を外した素顔でハッキリと答えた。
「け、結婚……あの、アルトさまと?」
「はい。つきましては、ナイト爵を返上し、騎士団を退役したく存じます」
「そ、そうですの……」
驚いた。
あの武一筋の硬派な女性騎士が、なんとも晴れやかな、少女のような顔をしている。
その素顔は、青空へ飛び立つ蝶のように自由に見えた。
胸の奥がチクリと痛む。
(羨望……ですの? 女王であるわたくしが……)
リゼッタは唇を噛みながらも、その矜持を持って内心をあらわさなかった。
「おめでとう、ナディア。あなたの幸せを祝福しますわ……」
せめて祝福だけは本物であろうと、ほほ笑んでみせる。
ナディアに対する確かな親愛の情も、また本心であった。
「はッ……ありがたき幸せ!」
ナディアは深々と礼をすると、意気揚々と去っていく。
その背中を見送りながら、リゼッタはこっそりため息をついた。
「陛下!」
そんな時、脇に控えていた髪の短い女兵士が進み出る。
「何故ナディアさまをお引き止めにならないのです?」
「引き止める?」
女はヴェダと言って騎士団の副団長である。
「ヴェダ。もうよいのです。本人が決めたことに、どうして口を挟めましょう」
「しかし、ナディアさまがいなくなってしまえば、王権にとってその損失は計りしれません。ただでさえ、革命派の動きが不穏なこの時局に」
ヴェダは短い髪を逆立て、鋭い瞳で扉をにらみつつ続けた。
「それに私は我慢がならないのです。ナディアさまの武人としての道が台無しになってしまうことが! それもあんな、ダダリの領主のごとき取るに足らない、フザけた男になど……」
「黙りなさい!」
リゼッタはふいに声を上げて、自分の声の大きさに驚いた。
(わたくしとしたことが、なにを苛立って……)
「陛下……?」
「……下がりなさい、ヴェダ。少しひとりになりたいのです」
リゼッタがそう命じて目を伏せると、さすがの副団長も恐れ入って退出した。
◇ ◆ ◇ ◆
「うらぁあああ……!」
俺は魔境の第一地区のボス、人喰いトロールへ向かって剣を振りかぶった。
――グルオオオオ……!
剣は敵を真っ二つにし、森を青い血に染めた。
戦闘能力「1005」の身体は軽く、しなやかだ。
「す、すげえ……」
「さすが若」
悪ガキ軍団は言葉を失う。
「よし、これでこの地区の魔物はしばらく出現しないぞ。今のうちに祠を作ってしまうんだ」
「へ、へえ!」
俺は連れてきた建設集団の一部にそう命じた。
魔境ではボスを倒すと、その区域の魔物が一時的に出現しなくなる。
さらに祠を建てれば、永続的に安全地帯となるはず。
これで魔境は領土化。
安全に資源を採取できるというワケだ。
人喰いトロールの地区には、薬草が自生しているので、これを採取し、回復薬を作ったりできるはずだった。
「今日はこのへんで切り上げですか?」
「いいや。もう少し先まで行こう。目当てのものがあるんだ」
そう言って、俺は悪ガキ軍団と一部の建設集団を連れて魔境を進んだ。
さらに行くと、しだいに森の木々は衰え、岩が目立つようになってくる。
やがてまるで草木も生えない地区へ出ると、そこには急峻な岩山が立ちはだかるのであった。
「ここだ。目当ての場所は」
岩山にくりぬかれたような大穴がある。
昼だというのに、闇がこちらを覗いてくるような暗さ。
俺はその岩窟へ足を運んでいった。
「うッ……」
「……こりゃあ」
コワモテの悪ガキどもも後ずさる。
「オマエら、ひょっとしてオバケが怖いのか?」
「……ひっ」
「オバケ!?」
どうやら図星らしい。
「バカやろう! オバケが怖くて兵隊ができっかよ。早くたいまつ焚いてついてこい!」
そう怒鳴ると、みんなようやくベソかきながらついてきた。
「……ったく、オマエらの顔の方がオバケよりよっぽど怖えよ」
炎に照らされた顔に傷のある連中を振り返ってそうぼやく。
「そりゃねえっすよ、若〜」
さて、この岩窟でオバケには遭遇しなかったが、モンスターは出現した。
メタル・リザードや吸血コウモリ、ストーン・スパイダー……などなど。
こういった通常モンスターは悪ガキどもの経験のため、ケツを叩いて倒させる。
30人でかかれば問題なく倒せた。
森ほどではないが、割と広い空間だからな。
やがて、この岩窟のボスがあらわれる。
――ゴゴゴゴゴ……!
岩ゴーレムだ。
「で、でけえ!」
「あんなの無理だよぉ」
と、さすがに恐れる。
俺はみんなを下がらせ、言った。
「ゴーグル。悪いけど、お前の大木槌を貸してくれ」
「う、うん……」
俺が大木槌を受け取り振り向くと、岩の巨人と視線が合う。
「うおッ……」
岩ゴーレムの拳が、俺の頭上に振り下ろされた。
間一髪、避ける。
それは岩窟の岩を砕き、激しく土埃を立てた。
攻撃力だけ見ればあのゲオド中将と同等かそれ以上かもしれない。
だが、身躱しは発動していたぞ。
「おらッ! よそ見してんな!」
俺は土埃から飛び上がり、木槌を振り上げる。
――ゴ、ゴゴゴゴ(汗)
木槌が岩ゴーレムの脳天を直撃!
ヤツの頭が、メリメリと胴へめり込む。
首のない岩ゴーレムは膝をつき、ゆっくりと地へ伏した。
「よし、ここにも祠を建てよう」
「わ、わかりましたんで」
建設集団が祠の建設に取り掛かった。
一方、悪ガキどもが尋ねる。
「やれやれ、これで終わりですか?」
「まあ、戦いはな。だが、もうひと作業あるから手伝え」
俺はそう言って、四次元BOXからツルハシを三本出して言った。
「これは?」
「王都で買ったツルハシだよ。カネがなかったから三本しかねえけど……」
「何をしろってんで?」
「岩窟には石炭と鉄鉱石が埋まっているんだ。とりあえずの量でいいから、ちょっと掘っていくぞ」
こうして採掘した鉱石を四次元BOXへ収納し、引き上げた。
さて。
魔境から帰り、村へ行くと、今度はモノ作り集団の作業場へ向かった。
「この中で金属を扱ってみたいヤツはいるか?」
そう募集すると、10人ほどが立った。
5人を『製鉄師』に、5人を『鍛冶屋』として任命する。
また、彼らを活かすためには『高炉』と『鍛冶場』という施設が必要だ。
建設集団から10人ほど連れてくる。
「この事業にはダダリの興亡がかかっているからな。頼むぜ!」
「おおおお!」
「やってみせますぜ!!」
こうして鉄アイテム用の20人チームが完成した。




