第22話 泣いて謝れば許してやるぜ
ダダリ領の周りは森に囲まれた平坦な土地である。
このような平らな森では進軍が容易で、外敵は木陰に潜みながら近づけてしまう。
そこでモンドたちに命じて『堀』を築いていたのだが……
以下は領地の北西部の拡大図である。
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ガゼット領 川
川
川
v□□□□□□川□□
v□□□□□□川□□
ライオネ領 v□◎◎□□□川□□
v□◎◎□□□川□□
v□墓□□□□川□□
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□=ダダリ領
◎=館
V=堀
このように堀は西側しか作っていない。
これは周辺で最も勢力の大きなライオネを警戒して、そちらを優先的に築いたからである。
つまりガゼット領側の『北』はまだガラ空きということになるが……
裏を返せば、敵がどこから攻めてくるのか絞れるということでもあった。
「ケーッケッケッケ! あいかわらず攻めやすそうな領地だな!」
「本当ですねえ、父上……ケーッケッケッケ!」
そう思って待ち構えていると、北の森の茂みから敵が姿をあらわした。
この二騎は親子っぽい。
変な笑い方がそっくりだ。
そして、父親らしき獣の毛皮をかぶった方が、待ち構えている俺に気付いた。
「おっと、そこにいるのはダダリの新領主じゃあないか?」
「……そうだけど?」
俺は挑発するように首をかしげ、聞き返す。
「あんたはガゼット領の領主だよな? なんか用?」
「ケーッケッケ! あいかわらず間の抜けた野郎だぜ。聞いて驚け? オレたちはなあ……なんと! このダダリの地を攻めに来たんだ!!」
「兵もこのとおり400連れてきたぞ。なあ! お前ら!」
森の中から軍勢のざわめきが響く。
「ケケケ、どうやらキサマらも兵をかき集めたようだが……」
「それっぽっちの兵で何ができる! 降参するなら今のうちだぜええ! ケーッケッケッケ!」
笑い方がうざい親子だ。
俺はため息をついて返答する。
「やれやれ、それはこっちのセリフだな」
「なにィ?」
「ダダリを攻めるなんて愚かなことを考えたものだ。今ならまだ泣いて謝れば許してやるぜ」
「……まさかザコのくせに自分の立場もわからねえ阿呆だとはな! お前ら、やっちまえ!」
――ケッケー!!
こうしてガゼット領の兵たちが森から出て来た。
が、その瞬間。
ウチの弓士たちの放つ矢が一斉に飛んでいく。
「ぎゃー!」
「矢だと!?」
ガゼットの歩兵たちがピタリと足を止めた。
そう。
敵の歩兵は近距離でしか攻撃の術を持っていない。
対してこちらはリーチを重んじて弓矢部隊に力を入れてきた。
「戦争は数だけじゃ決まらない。攻撃が届かなきゃいくら頭数があっても烏合の衆だぜ」
「ケッ……騙されるな! 数で押せば潰せる!!」
うっ、敵もさすがに領主をやっているだけあるな。
たしかに数で押されれば矢は抜けられてしまう。
事実、敵がそこまで迫ってきた。
「今だ、放て!!」
命じると、メタルキャタピラーを捕らえたあの網が投じられる。
「ぎゃあ!」
「なんだこりゃー!!」
一度に十数人がかかるが、その網をゴードンがまるごと持ち上げ、敵兵の方へ投げつける。
十数人は空を飛び、投げつけられた敵兵を巻き添えに、一斉に倒れた。
「う……」
「……な、なんて力だ」
一歩後ずさる敵兵。
「ガラン。もっと脅かしてやれ」
そこで俺はガランという顔に傷のある男に魔道具『火の杖』を渡した。
ガランはこう見えて魔法勉強中で、魔力がある。
つまりこれで火魔法が使えるってワケだ。
――ボぅッ……!!
「ギャー!」
「そ、そんな……魔法なんて聞いてねえべ」
「こんなもんやってられるかッ!」
「んだんだ! 逃げるっぺ!!」
魔法はそれほど多くの人間が扱えるワケじゃない。
王国直属兵でも数人使えるかどうかである。
もちろん『火の杖』での火魔法は大したことない。
あわよくば魔法を見て降参してくれれば、と思ったんだけど……
「ケケ! 怯むな! 近寄ればどうってことない! 突破するんだ!!」
叱咤するガゼット領主の声。
兵たちは鞭に打たれたかのように突っ込んでくる。
ヤツらもダダリのような弱小を攻めて失敗するわけにはいかないんだろう。
文字通り死に物狂いである。
「やった! たどり着いたぞ……ぐふッ」
しかし、矢と網と魔法をくぐり抜けてくる敵兵はわずか。
あとは槍の得意なボーズという男が特に活躍して一掃した。
うん、圧倒している。
ガゼット領主は兵の数を誇っていたけど、兵の内訳は農民に毛の生えたような連中だ。
もちろんこっちも立派な兵隊さんとはいかないが……
悪ガキなだけド根性ではこっちが勝っていた。
こちらがほぼ無傷なのに対し、敵兵はおよそ100は減っている。
でも、いいのだろうか?
このまま続けても敵はジリ貧だと思うんだけど……
そんなふうに思って見ていると、ガゼット領主の横にいる息子らしき男がなにやらコソコソと兵50ほどを連れて森に消えた。
「若ッ!」
で、しばらくするとリッキーが斥候から帰ってくる。
リッキーの報告によると、ガゼット領主の息子は別動隊を編成して西から攻め入ろうとしているらしい。
「どうするでやんす?」
「……ちょっと行ってくるよ。ここの戦線は任せた」
そう言って、俺は館へ向かった。
「ただいまー!」
家に帰ると、おふくろとナディアはあのまま仲良くお茶をすすっていた。
「おやおや、バタバタとあわただしいねえ」
「アルト殿? どうしたのだ? 息など切らせて」
そう言えば彼女らにはガゼット領が攻めて来ていると説明していなかった。
でも、今は説明しているヒマはない。
「……別に。ちょっと水」
俺は台所の甕から水を汲んで飲んで言った。
「ヨルセン、セラム、ちょっと来てくれ!」
「に、兄さん?」
「わーい! 戦争?」
こうして、いざというときの館の守りにつかせていた弟二人を連れてまた家を出る。
これで三人の別動隊ってわけだ。
領地の西側に沿って探していると、堀の向こうで驚いている若い男が見えた。
ガゼット領主の息子だ。
「おーい!」
「ぬっ!? キサマはダダリ領主!」
「西側は堀を掘っているぞ! ライオネ対策でな!」
「ライオネ対策だと……」
深く掘り込まれた堀を見下ろすガゼット領主の息子。
「別動隊を作って挟み撃ちにしようという考えは悪くなかったけどな。50程度でこの堀を超えて来ても、俺らだけでやっちまうぜ!」
俺がそう言うと、セラムの放ったナイフが彼の足元に刺さり、ヨルセンの魔法がゴオオっと空を焦がした。
「あきらめて降参しろー!」
そう勧告すると、ガゼット領主の息子はがっくりとうなだれた。




