第23話 何して遊んでたんだい?
ガゼット領の侵攻を阻止した!
「く……くそう」
「まいったケケ……」
悔しがるガゼット領主父子。
彼らは兵の3割を失った時点で降伏。
その場で和平交渉に入った。
「ざまぁみやがれ!」
「コロセ! コロセ!」
戦前はあれだけビビっていた悪ガキ軍団がそう騒ぎ立てる。
アホばっかだ。
「るせー! 黙ってろ!」
そう怒鳴ると静まる。
ガゼット領主父子を殺しても、厄介なだけだ。
そこまでやればガゼット領側もあくまで徹底抗戦するだろう。
こちらは相手を滅ぼすまでやらなきゃいけなくなる。
こちらも傷つくし、そこまでして滅ぼして得られるものは、滅ぼしているだけにわずかだ。
「あ、あのう」
「どうか命だけは……ケケ」
ただ、悪ガキどもの野次も、いい脅しにはなったようだ。
「領土の一部をよこせ。それから賠償金だな。そしたら水に流すよ」
「ケケ……(汗)」
「……仕方ないケ」
領土は、ダダリから見て北西、今回ガゼット領が攻めてきた側の土地を一部割譲させた。
これでヤツらが急にダダリを攻めて来るなんてことはかなり難しくなる。
賠償金は交渉の末、1500万ゴールドと決まった。
ガゼット領主は領土割譲の契約書と、1500万ゴールドの小切手を書いて、すごすごと帰っていった。
「やれやれ、疲れたぁ」
さて、俺はやっと家に帰ってソファにぐでーっとかける。
マジの戦争は体を動かすので、ゲームでやるように楽ちんではないのだ。
「おやおや、ずいぶんボロボロじゃないかい」
そこにおふくろがやって来る。
「バタバタしていたようだけど、何して遊んでたんだい?」
「遊んでたんじゃねえよ。大変だったんだぞ」
「その様子だと、忙しいのは終わったようだな」
と、全身鎧の女騎士が言った。
そうだったナディアを待たせてたんだった。
「で、はるばる王都からなんの用だったんだよ?」
どうせまた勝負しろとか言ってくるんだろうけど。
「実はな。ダダリの周辺で不穏な動きがあるとのことで、リゼッタ様から仰せつかったのだが……」
「え……?」
ナディアが言うには、『周辺の領地がダダリを攻めようとしている気配がある』と情報があったので、応援に来てくれたのだそうな。
「ま、マジか……」
そういうことなら戦ってもらえばよかった。
「しかし、相手がガゼット領ならばそなた一人で十分であったであろう。ふふふ」
本人は至って上機嫌である。
「では本題に入ろう」
「本題?」
「うむ。アルト殿、今こそ決闘を……♡♡」
ああ、やっぱり(汗)
「イヤだよー。お前と戦っても意味ねーし」
「ほらね。言ったとおりだろう。ナディアちゃん」
そこでおふくろが割って入る。
「うちの息子は生粋の面倒くさがりなんだ。何か得るものがなければ戦おうとしないのさ」
「ぐぬぬ……ではどうすればよいのだ? カネか? カネを払えばいいのか?」
「ヤメろよ! 友達なんだから」
カネ払って戦ってもらうって発想、どんだけだよ!
「じゃあ、こういうのはどうだい?」
そこで再びおふくろ。
「もしうちのアルトが勝ったら、ナディアちゃんがお嫁に来るっていうのは」
「なんだと!?……♡」
「ふふふ、うちの息子はスケベなところだけが取り柄だからね。ナディアちゃんみたいな美人が嫁に来てくれるっていうなら、きっと全力で戦うさ」
お、おふくろ、俺のことそんなふうに思ってたのか……
「全力で……か。うむ、いいだろう」
「いいのかよ!」
彼女はこれでもナイト爵。
一代限りの爵位とはいえ、王国騎士団に所属しているのだから王都での勤めもあるだろう。
「だいじょうぶだ。問題ない」
「問題ないって……」
「負けたらそなたの嫁になる……つまり勝てばよいのだ」
なんかギャンブル中毒みてえなこと言ってるし。
まあ、しかし。
そこまで言うなら勝負してやらないワケにはいかないかな。
「でも条件がある」
俺はそう言って続けた。
「俺は『女を殴るんじゃねえ』というオヤジの体罰も辞さぬ教育によって、女を殴ることができない」
「なんだと!?」
「そこでこの砂時計の砂がすべて落ちるまで、あんたの攻撃をすべて躱したら俺の勝ちってことにしてくれ」
砂時計は大体一時間のモノである。
「いいだろう。しかしこちらも条件を出したい」
と、今度はナディアが条件を出す。
「もし攻撃を当てることができたら、その時はそなたも剣を取り、御父上の遺言を破り私に攻撃を打ち込むのだ」
「……いいよ。約束する」
というワケで、俺はとうとうナディアとの決闘にのぞむこととなったのだった。
◇ ◆ ◇
「クソ! あのトルティの息子なんぞにしてやられるとは! ケケ……」
敗れたガゼット領主親子は、トボトボと馬を引いて森を引き返していた。
「あんなクズ、いつでも殺してやれる! 今回は運が悪かっただけだ。次は兵を倍にして……」
「父上、ダダリを攻めるのはもうあきらめましょう」
「なにイ?」
息子はうつむいて答える。
「王権が弱まってきて、我々は格下の領地を攻めようとしていた。しかし、一方でダダリはライオネ対策をしていたのです。それだけでもダダリの新領主は侮れぬ男と言えましょう」
「キサマぁああ! ワシがトルティの息子より下だと言いたいのか!」
「それは……」
――ヒヒーン!
そこで馬が嘶いた。
ふと森にひとりの少年が立って、彼らの進路をふさいでいるのが目に入る。
「な、なんだキサマ……」
唐突なことに、言い争っていたことも忘れてキョトンとするガゼット領主。
「僕はアルト兄ちゃんの弟。名はセラム」
「ダダリの……?」
「うふふ、兄ちゃんは甘いからさ。ダダリを攻めたキミらを生かしたまま許しちゃったけど……」
少年は銀に光るサーベルを抜いて言った。
「……僕は許さないよ?」
「くせもの!」
「捕らえろ!!」
護衛の兵が少年を止めに入ったその時、その姿が消えた。
いや、消えたのではない。
「か……こ……かはッ!」
少年の剣は、すでにガゼット領主の胸を貫いていたのである。
「父上!」
「ガゼット領主は落馬してお亡くなりになった……」
剣の血を払いながら、少年はそう言う。
「は?」
「ガゼット領主は落馬してお亡くなりになった。でしょ?」
可愛らしい顔でニッコリと言う少年に、その場の全員が凍りついた。
カタカタと大勢の足の震える音が響く。
それは『恐れ』である。
年端も行かぬ子供の笑顔に、その場の大人たち全員が恐怖して動けずにいるのだ。
ガゼット領主の息子は思わずコクリコクリと頷いてしまう。
「うふふ。いい子だね。じゃあ、僕は帰るから。アハハハ……ハハハハ!!」
森に響く少年の笑い声は甲高く、まるで死神のようであった。




