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第20話 そのために準備してきたんだ


「おい! 勝手に離れるんじゃねえ!」


 俺は悪ガキ軍団を魔境に連れて来ていた。


 だが、統率なんてあってないような連中なので苦労が絶えない。


「す、すいません若(汗)」


 まあ、言うことを聞くつもりはあるので、注意してみていればいい。


「でも若。魔境って言うわりにはちっとも魔物があらわれませんぜ」


「こんなもんなんすかァ?」


 確かに、ヤツらの言う通り、この辺には魔物の姿がない。


 弟のセラムが頻繁に通っているらしいけれど、魔境で魔物の数を減らすまで倒しまくるなんて無理だろうしな。


「たぶん瘴気の変化だろう。もう少し行けばきっとあらわれるよ」


 そんなふうに話していると、やがて一匹の銀色の巨大イモムシがあらわれた。


 メタルキャタピラーだ。


 ――キシャー……!


「わー、魔物だ!」


「怖え~!」


「ぎゃー!!」


 アホばっかである。


「るせー! 黙れ!」


 そう言うと黙った。


「練習通りやれ! 4番だ!」


「へ、へえ……(汗)」


 命令を受けて、弓矢部隊がようやく火矢を放った。


 続いて槍部隊が長槍で一斉に突く。


 もっともメタルキャタピラーは硬いので、木と石の槍では貫けない。


 でも、動きを制限することはできる。


「今だ!」


 号令で網が放たれた。


 敵はこれに絡め取られ、地面でもがいている。


「ゴーグル、行け!」


 そこで一番の力持ちゴーグルが木槌を持って進んだ。


 コイツは主力級なんだが、ただ、一つ問題があった。


「う……うう」


 めちゃ臆病なのである。


「だ、ダメだ……これ以上抑えきれねえ」


「た、頼むゴーグル……」


 網を引いている連中が限界のようだ。


 どうしてもゴーグルがやれないようなら俺がやるしかないな……と、そう思った時。


「お、おおおおお!」


 ゴーグルの大木槌が、メタルキャタピラーへ向かって振り下ろされた。


 火で柔らかくなった装甲ごと、敵のボディはぐしゃりと歪む。


 動かない。


 倒したのだ。


「おおお! やった!」


「スゲーぜ、ゴーグル!!」


「それ、わっしょい! わっしょい!」


 悪ガキどもはゴーグルを胴上げし始めた。


 やれやれ、のんきなもんだ。


 ――だが、魔境に来た目的は訓練だけじゃない。


 魔境は領土にすることもできるのだ。


 一定領域を支配するボスを倒し、『ほこら』を建てれば魔物が出なくなる。


 素材や資源を採ることもできるようになるってワケ。


 となると、気になるのが建設集団に任せていたほりである。


 悪ガキ軍団の初陣としては上出来だ。


 まるで遠足のような魔境探索を終えると、俺は反対側の西境へ向かった。


 堀の現場にて。


 建設集団の棟梁モンドが、ねじり鉢巻きを締め直しながら言った。


「今のところ西側はひととおり掘りましたで」


 西側のおおよそ1kmくらいの区間を見回ると、領地境に沿って延々と穴が続いている。


「水は入れますか?」


「いいや、とりあえずこれで十分だ」


 穴の深さは2メートルくらい。


 幅はバスケットボールのフリースローくらいある。


 マイケルジョーダンくらい跳躍しないと越えられない。


 空堀だから一度下に降りて登ってくればこちらにこれるけど、そんなことしている間にやっつけることができるだろう。


 大事なのは堀で足止めさせることなのだ。


「よくやったな。ちょっとみんなには休日をくれてやれ」


「へえ」


 よし。


 これで魔境でボスを倒したらいつでもほこらを建ててもらえるぞ。



 ◇



 戦争から帰って来てからもずっと働き詰めだったので、俺も一週間ほど休みを取ることにした。


 平和だった。


 弟たちと遊んだり、おふくろとオヤジの話をしたり。


 放っていた嫁たちとも、夜だけじゃなく、昼間も一緒に遊ぶ。


 晴れの日が続いた。


 木登りや鬼ごっこをしたり、川で水遊びなんかもやった。


 内容があまりデートじみてないかもしれんけど、うちの嫁たちはそういう遊びで十分嬉しそうにしてくれるのでこちらも嬉しい。


 ただ、これではあまりにも友達時代と変わらないと思って、ちょっとイチャイチャなんかもしてみる。


 イモを揚げているノンナの乳を後ろから揉んでやったり、弓矢の練習をしていたリリアのふんどしのお尻を触ってやったり。


 二人ともそういうちょっとしたスキンシップを大変喜んだ。


 俺が彼女たちをただの友達としてではなく女として見ている感じが最もあらわれるかもしれない。


 ちょっとキモいからね。


 そんなある日。


 庭のベンチでリリアとノンナと交互にキスをしていた時のこと。


「好き好き、チュッチュ♡」


「あたしもしてー。チュッチュ♡♡」


 二人の唇の厚さや形が違うので、俺はそれに合わせた唇の形でそれぞれ交互に口づけしてやる。


 そんな時。


 近ごろすっかり偵察が板について来たリッキーが、木の上から降ってきた。


「若ー! 大変でやんすー!……って、うっひょー??」


「キャー!」


「ヤダ、エッチー!!」


 と言って、俺に抱き着いてくる嫁たち。


 むっ、可愛いヤツらめ。


 俺はよしよしと二人の頭をなでてなだめてやる。


「あんたら何やってんでやんすか!? こんな真っ昼間に!」


「悪い悪い。それよりなんだ? 大変なことって」


「……あ、そうだ! 若、女の口なんて吸ってる場合じゃねえでやんすよ!!」


 リッキーは飛び上がって報告を始める。


 報告によると、北のガゼット領がダダリ領に攻めてくるそうだ。


「……ガゼット領が? 確かな情報か?」


「間違いねえでやんす。この目で森を進軍してくるヤツらを見たんでやんすから」


「敵の兵力は?」


「おおよそ400。もうじきやってくるでやんすよぉー!!」


「……わかった。すぐに悪ガキ軍団を集めろ」


 そう命じるとリッキーは「御意ぎょいでやんす!」と言って消えた。


「あ、アルト。だいじょうぶなの?」


 気づくと、いつも気の強いリリアが俺の腕の中で震えている。


 戦争は怖いからな。


「せっかく幸せだったのにー……」


 と、ノンナも目を伏せる。


「だいじょうぶさ。そのために準備してきたんだ」


 俺はそう答えてベンチを立ち上がった。


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