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第19話 スパイってのは花形なんだぜ?


「うおりゃー!」


「どっせいい……!!」


 男の汗が霧のようにけぶる。


 ひどく暑っ苦しく、むさっくるしいが、ここは訓練所である。


 そう。


 村の悪ガキども30名ほどを集めてここで鍛錬させているのだ。


「でやあああ!!」


「アチョー!」


 コイツらはまだ俺が前世の記憶を取り戻す前から俺の子分だった連中だ。


 ひとクセもふたクセもあるヤツらで、フツーは兵隊になんかなれない。


 指示は通らねえし、集団行動もできないからな。


 でも、俺ならコイツら一人一人の性格や能力もよくわかっている。


「待てー! リッキー」


「イヤでやんす~」


 ふいに、訓練所にそんな声が響いた。


 リッキーが模擬戦で逃げまくっているのだ。


 だけどヤツは足が速く、跳躍力もすごい。


「おい、リッキー。ちょっとこい」


「ひえー、あっしでやんすかぁ?」


 ――ワハハハハ……!


 悪ガキどもはリッキーが逃げてばっかで俺に怒られるものと決めて笑っている。


「まあ、入れ」


 俺は訓練所の事務室にリッキーを呼び入れて話を始めた。


「そう言えば、オマエって宿屋の息子だよな?」


「へ? そうでやんすけど」


「じゃあ、商人や冒険者から色々な土地の話を聞いて育ってきたわけだ」


 そう言って、机に地図を広げた。


「これはチンコネンタル大陸の地図だが、クレーター島はどれかわかるか?」


「ええと……」


 リッキーはしばらく地図を眺めて言った。


「クレーター島はこの地図にはないでやんす」


「うむ」


 正解だ。


「では、この地図の下には何が置いてあった?」


「はい……? そんなの覚えてねーでやんすよ」


 そりゃそうか。


 中野学校みたいにはいかないよな。


「まあ、合格だ。リッキー、オマエは偵察をやれ」


「なんでやんす、それ」


「敵の陣や領地へ入って情報を取ってくる役目だよ」


「えー、あっしは剣で敵をバタバタ倒したいのに~」


「るせー。人には向き不向きってのがあんだよ。それに……スパイってのは花形なんだぜ?」


 というと、リッキーはまんざらでもない様子で、あっさりと了解した。


 他の悪ガキどもにもいろんなヤツがいる。


 我が強いが槍が得意なヤツ、ヒョロヒョロだけど弓が得意なヤツ、臆病だが力だけはやたら強いヤツ……


 そんな凸凹なヤツらへできるだけ特性の合ったポジションを与えていく。


 こうして、なんとか30人で隊として戦えるようにしたい。


 で、次に装備だ。 


 この悪ガキ部隊が使う武器や防具について。


 コイツらの武器や防具を全部よそから買いそろえるなんてカネはない。


 ある程度、自前でそろえる必要がある。


 そこで重要なのが工業である。


 内政ブーストで「工」へ500を割り振っておけば、武器や防具を作れる。


 もっとも、木製、石製に限るんだけど、そもそも他に素材もないしな。


 工業に関しても、この領地には職人もいないので、イモ農民の中で手先の器用なヤツやちょっとした道具を作るのが上手いヤツを20人ほど集めてモノ作り集団とした。


「オマエら。農作業はいいから、とりあえずココで好きにモノを作れ」


 そう言ってある。


 ただ、こちらがどんなモノを欲しているかだけは伝えておくのだ。


 すると彼らが作り出すもののうちに、「木の槍」や「石の矢じり」などが混ざってくる。


 他にも石の斧、弓、木槌、木の盾、木のプロテクターなど。


 最初はこんなものでも十分ありがたい。


「これだけあればリッキーたちも魔境へ連れていけるかもな」


 俺は石の矢じりの先端を見つめながら、そうつぶやいた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 王都の城にて。


 女王リゼッタは玉座へ身を沈め、先の戦争のことを思い出した。


(わたくしは……またウソをつきましたわ)


 そう。


 女騎士ナディアの言に偽りはないはず。


 事実に反する報告など決して行わない人物である。


 リゼッタには確信に近いものがあった。


 それでも……


 諸侯たちの老獪な言い回しに、自分の信念を通すことができなかった。


 ナディアの言葉が真実だとすれば、ダダリの新領主アルトには武勲においてひどく不公平な裁きをしたことになる。


「お父様……」


 と、つい弱い声でつぶやく。


 その時だった。


「失礼致します!」


 全身鎧の女騎士ナディアが王の間へやって来た。


「ご報告申し上げます。アルト殿について」


「アルトさまの?」


 その名に、胸中で罪悪感がよぎる。


 ナディアは戦争後のアルト・ドワイドの情報について、事細かく報告をした。


「――というわけでライオネ令嬢周辺における調査によると、アルト殿には女装趣味があるようです」


「は、はあ……?」


 リゼッタはきょとんと首をかしげて、青い瞳をぱちくりさせた。


「それが一体どういたしましたの?」


「はっ、アルト殿についてわかったことがあれば随時知らせよとおおせでしたので」


「そ、そうですの……」


 ナディアは優秀で実直な騎士であったが、融通が効かないのが玉にキズだと思った。


(それにしてもあのお方にそんなご趣味が? わたくしのドレスを着せたらお似合いになるかも。じゅるり……)


 思考があらぬ方向へずれた。


(い、いけませんわ)


 ティアラを戴せた頭をブンブンと振る。


「そ、そんなことよりも。お庭番の報告によると、ダダリ領周辺で不穏な動きがあると聞いておりますのよ」


「不穏な動き、ですか?」


「ええ。これは極秘の情報なのですが……あの御前試合でのアルトさまのご様子を見て、周辺諸侯がダダリ領へ侵攻しようと考えている情勢なのですわ」


「なんと!」


 さすがの鉄仮面の女騎士ナディアも思わず面を上げて叫ぶ。


「領土とはしょせん弱肉強食の結果。しかし……同じ王国の領主が相争うなど、わたくしは好みません」


「陛下……」


 リゼッタはせめてもの罪滅ぼしと、こう続けた。


「ナディア。あなたにはしばらくダダリへ応援に行ってもらいたいのです。あなたがいるとなれば、周辺領もダダリへの侵攻を思い止まるかもしれません」


 そう命じると、全身鎧の女騎士はぴたりと動きを止める。


「か……かしこまりましたぁぁあああ♡♡」


「な、ナディア?」


「ふふふ、アルト殿。今度は逃さんぞ……」


 やはり別の者に命じた方がよかったかも……と思った時には、すでに女騎士の姿は消え去っていた。


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