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第18話 施設


 翌日。


 現場へ行くと施設『訓練所』と『魔法研究所』が立派にできあがっていた。


 以下は、現状のダダリ地図である。



―――――――――――――――――――

      林◎◎★林川☆林

      林◎◎■■川林林

【ライオネ】林△△■■川■林【魔境】

      林△△△■川■林

      林△△△■川■林

―――――――――――――――――――

 ◎……領主のやかた

 ■……ジャガイモ畑

 △……領民たちの村

 ☆……訓練所(効果:領民の戦闘能力を上げる)

 ★……魔法研究所(効果:領民が魔法を覚える)




「へえ! 二つともよくできてるなァ!」


 俺が褒めると、ダダリの建設集団は言った。


「エへへ、最近なんだかすげえ力が湧いて来るんすよねー」


「若えのも入ってきたし」


「まだまだやれますぜ。領主様」


 なるほど、建設ブーストをかけただけある。


 彼らは元々とりたてて大工というワケではないが、村の中で家を作るのが上手だったり、ちょっとした川の治水土木に詳しかったりするイモ農民だった。


 俺がそういった連中を50人ばかり集めて一つの建設集団にしていたのである。


「まだやれるっつーんなら、急ぎで作ってもらいたいものがあるんだけど」


「へえ、なんでございやしょう?」


 俺は地図を広げて、こう言った。


「領地の西側に堀を作りたいんだ」


「堀、ですか」


「そうだ。ライオネとのさかいは林で覆われているだろ? これじゃ隠れて攻めてこられたらナチュラルに奇襲だ」


「ま、待ってくだせえ。ライオネが攻めてきやがるんで?」


「それはわかんねーけど。今度の戦争で、王権が弱っているのは肌で感じたんだよね。ライオネが増長してウチを攻めて来てもおかしくない」


 そんな状況についての理解が、今回の戦争で唯一俺が得たものだった。


「ひえええ! わ、わかりましたんで」


 建設集団は悲鳴を上げて堀の工事に取り掛かってくれた。


 ――そもそも、だ。


 王国の戦争と、領地防衛では戦いの質が違う。


 王国の戦争では兵力1でも嫁ブーストしていれば戦局に影響を及ぼしうるのだけど、領地の防衛となるとそういうワケにもいかない。


 攻めるより、守る方が困難。


 もし敵が多方面から仕掛けてきた場合、いくら俺ひとりで数百の兵を倒したとしても、背後ではすでに領地が占領されていました……なんてことにもなる。


 だから『花嫁繚乱クロニクル』でも内政ブーストというシステムがあったワケだ。


 嫁ブーストによって領地を強くし、兵を育て、足場を固める。


 そうしなければ他プレーヤーからの侵略で属国となり、嫁を失う可能性もあった。


 そこまで行くとリセット案件だが……


 これはゲームではない。


 少なくとも、俺の周りのすべてに替えの効くものなどないのだ。


「さて……まずは、強くなりそうなヤツから育てるか」


 そう思ってみんなから話を聞くと、完成した施設を早くも使っているヤツが二人いるらしい。


 俺の弟たちである。


 次男のヨルセンは、かねてより魔法に興味があって、魔法研究所へ通っているらしい。


 三男のセラムは、元々運動神経もよく、訓練所で剣を練習しているようだ。


 そこまでヤル気があるなら弟たちはもう実戦を積ませてもいいかもしれない。


 家に帰り、家族でベイクド・ポテトを食っている時だ。


「なあ。オマエら、明日は魔境に行ってみるか?」


 俺はヨルとラムにそう提案する。


「魔境? わーい!」


「行く行く!!」


 二人は乗り気のようだ。


「ちょいとアルト。魔境なんて行って大丈夫なのかい?」


 そこでおふくろが心配そうに口をはさむ。


「お母ちゃんイヤだよ。お父ちゃんが死んで、あんたたちまでいなくなっちまったら……グスン」


「チッ……めそめそすんなよ、おふくろ」


 俺は木のフォークでベイクド・ポテトをぶっ刺して続ける。


「ヨルセンとセラムももう小さい子供じゃないんだ。あんまり過保護なのもよくねえんだぞ?」


「そんなこと言ったってねえ……」


 まあ、心配する気持ちはわからんでもないけどな。


 オヤジの代じゃ魔境になんて絶対近寄らなかったし。


 俺はポリポリと頭をかくと、矢を三本取り出して言った。


「なあ、おふくろ。これがわかるか?」


「弓矢の矢じゃないか。それがどうしたんだっていうんだい?」


 と聞くので、一本の矢なら折れるけど三本の矢を束ねれば折れないというあの中国地方の武家の話をしてやった。


「つまり俺たち兄弟三人、束になれば折れやしないってワケさ」


 するとおふくろは大変感心して目を丸くする。


「ほえー!? アンタずいぶん立派なことを言うようになったんだねえ。自分で考えたのかい?」


「うッ、それは……」


 俺はあわててベイクド・ポテトをモグモグ頬張ほおばり、飲み込んだ後に、


「……オヤジが言ってたんだよ」


 と、そんなふうにごまかしておいた。


 翌日。


 魔境へ行く前に、王都で買った弟たちへのお土産を渡した。


 ヨルセンには火の杖。


 セラムにはサーベルである。


「気をつけて使えよ」


「おー!」


「ヤッター!」


 喜んでくれたようで何より。


 さて、そんなこんなで俺たちは領地の東側へと向かった。


 次第に木が生い茂り、魔境にさしかかると瘴気が漂い、魔物が湧くようになる。


「あ、スライムだ! カワイイー♪」


 すると、セラムはさっそくあらわれたスライムの方へ駆け寄り、サーベルを振るった。


 ビシュッ……


 一閃。


「……キュー」


「あははッ! やったよ、兄ちゃん!」


「お……おう。よくやったな」


 カワイイーとか言いながら何の躊躇ちゅうちょもなくぶっ倒しちまいやがった。


 ちょっと怖えなあ。


 まあ、戦闘にはそういうヤツの方が向いているのかもしれんね。


「ねえ兄さん、僕はどうやって戦えばいいかなあ? セラムは剣でやっつければいいだけだからわかりやすいけど……」


「まだ魔法は使えないのか?」


「……うん。今は魔力のコントロールを練習しているところ」


「だったら魔道具を使え。さっき『火の杖』をやっただろ」


 俺はヨルセンに装備させた杖を指さして言った。


「これ?」


「ああ。その杖は魔法が使えなくても魔力があれば火攻撃を打てるアイテムだ。お……ちょうどいい。あれに打ってみろ」


 そうこう話していると、一匹のゴブリンがうめき声をあげながら近づいてくるのが見える。


「ギョー、ギョー!」


「うわッ、魔物だ……ええと、こうかな? えい!」


 ヨルセンは『火の杖』を振るった。


 すると、野球のボールくらいの火の玉が敵へ向かって飛んでいく。


「ギョギョ? ギョへー……!」


 命中。


 ゴブリンはのたうち回りながら逃げようとする。


「セラム」


「任せて!」


 そこでセラムがサーベルを構えながら走っていく。


 剣がすばやく敵の息の根を止めた。


「やったー! 楽勝だね」


「セラム。油断しちゃダメだよ」


 とたしなめつつも嬉しそうなヨルセン。


 うん、こいつらはもう放っておいても強くなりそうだな。


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