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第16話 帰還


 俺とステラを乗せた馬車は颯爽さっそうと王都を出た。


 そして、あの関所を抜け、いくつかの領地を超えるとライオネの館に到着する。


 ここまで来ればダダリまで走って帰れるぞ。


「でもぉ、その格好で帰るのありえんくなーい?」


「誰がさせたんだよ!」


 そう怒鳴りながらも、穿かされたスカートに脚をモジモジする。


 そう。


 あれから馬車はノンストップだったので着替える場所もなく、女の格好のままだったのだ。


 というわけでステラんちで着替えさせてもらうことになる。


「「「おかえりなさいませ。お嬢様!」」」


 さすがライオネは伯爵、イイ家に住んでやがった。


 母屋おもやはデカいし、メイドさんたちは綺麗だ。


「あら? そちらのお嬢様はどなたです?」


「アタシのトモダチ。アルトリアちゃんって言うの」


 そう紹介されるので、俺はまたニッコリと会釈をして応える。


「まあ、素敵な娘さんですわ」


「可愛い♡」


「お部屋に甘いモノをお持ちしますね!」


 ほどなくして、屋敷のメイドたちは茶とお菓子を持ってステラの部屋へ押しかけてきた。


 しかもそのまま居座って、俺を囲んでキャッキャとはしゃぎ出すものだから困る。


「アルトリア様、カワイイですねー」


「お肌キレー。うらやましー」


「イチゴはお好きですか? うふふ、食べさせてあげちゃう」


 俺を女と思ってチヤホヤしてくるメイドたち。


 くそ……これでは着替えられないぞ。


「だいじょうぶ。パパはまだ帰って来ないし、ママも地元に帰ってる。一日くらい泊まってけばいいじゃん?」


 と耳打ちするステラ。


 やれやれ、やっと帰れると思ったのに最後にこんな試練が待ち受けているとは。


 こうして結局ステラんちで一泊することになったんだ。


 それはまあ……別によかったんだけどさ。


 問題は次の日の朝である。


 チュン、チュン……


「おーい、ステラ。パパだよー。今帰ったぞー」


 そんなおっさんの声で目を覚ます。


 俺はガバッと裸の胸を起こし、ベッドの上でステラと顔を見合わせた。


「ガハハ、お前たちが出た後やはりワシも引き返してきたのだ。驚いただろう?」


 と、部屋がノックされる。


「……ヤバくね?」


「ヤバイヤバイ!(汗) 早くパンツ穿いて」


 俺たちは超特急で服を着ようとするがそんな間もない。


「ん? どうしたステラ。開けるぞ?」


「あ、ありえんしー! 今着替えてるしー!」


「そうか」


 かろうじてドアは開かれなかったが、もはや一刻の猶予もなさそうだ。


 ステラは「とりあえず、ここ隠れて!」と小声で叫び、裸の俺をクローゼットの中に隠した。


「は、入っていいよ。パパ」


「おお、ステラ! 我が娘ながら、あいかわらずラヴリー」


「キモ……」


 クローゼットの中で、ステラとライオネ領主との会話が聞こえてくる。


「おや、あの友達の子はどうしたんだ?」


「アルトリアちゃん? ええと、なんか体調がヤバくなって帰っちゃった」


 そんな会話を聞きながら『せめて服だけでも着ておこう』と、俺はクローゼットの中でそーっとズボンを穿き始める。


 しかし、いかん。


 ズボンのボタンを閉めようとした時、赤いリボンが指にふれて、間違えてまた少女用のパンツの方を穿いてしまっているのに気づく。


 ええと、俺のパンツは……


 ガタン!


 そんなことをしていると、暗闇の中でハンガーか何かを肩で落としてしまった。


「おや? クローゼットから物音がしたぞ?」


「ね、ネズミじゃん? 最近出るしー(汗)」


「なんだと! よし、パパが退治してやろう」


 ギク……ッ!


「あ、アタシの下着とか入ってるしー。パパ、エッチじゃーん」


「むっ、そんなつもりは……」


「あとで使用人さんに退治してもらうからいーよ」


「そうか。じゃあそろそろ朝ごはんだから降りてきなさい」


「はーい」


 どうやらライオネの領主は去ったようだ。


「ヤバぁ、心臓とまるかと思ったし」


 クローゼットを開けるとステラは顔を青ざめていた。


「とにかく、俺はもう帰った方がよさそうだな」


「ごめんねー」


 俺は亜空間から靴を取り出すと、部屋のベランダに置いた。


 ステラの部屋は三階だけど今の戦闘力なら飛び降りてだいじょうぶだろう。


「……アルトっち。また来てね」


 去って行こうとすると、茶髪のポニーテールがしょぼんとしているのに気づく。


 チッ、しょうがねえな。


「ダダリからここまでは近い。きっと来るよ」


「約束だかんね?」


「ああ。部屋の場所も覚えたしな」


 そう言ってひとつ口づけをすると、俺はベランダから飛び降りて伯爵邸から脱出した。



 ◇



「やれやれ、危ないところだったぜ」


 俺はライオネ領を東へ歩いて行きながらホっと息をついた。


 あそこで見つかってブチ切れられたら、そのままウチに攻めて来たかもしれん。


 今のダダリではライオネに攻められたらぺしゃんこだからな。


 もっとも。


 同じ王国内で大儀もなく『領地』が『領地』を攻めると、王権に危険視されて逆に討伐される恐れもある。


 特にライオネは元々勢力も大きいから、そのぶん王国側も目を光らせていた。


 だが、スレン三世の死去後、王権は弱体化している。


 王権がさらに弱体化すればライオネはもっとダダリを攻めやすくなるだろう。


「オヤジ。土産だ……」


 領地につくと、俺は墓に立ち寄り、王都で買った酒を供えた。


 生前、オヤジは王都から「兵力1」で帰ると、よく飲んだくれてくだをまいていたのを思い出す。


――ちくしょう。どいつもこいつも、みんなウチをあなどりやがってよぉ。……ういっく――


 俺が純粋に子供だったら『こういう大人にはなりたくない』と思ったろうな。


 でも、前世で昭和、平成、令和と生きた記憶がある身としては、なんだか身につまされる思いがあった。


「オヤジ。俺はこのダダリそのものを強くするよ。どこにも屈服しない、最強の領地に」


 今度の戦争で、ただ領主が強いだけじゃダメだって気づいた。


 それだけじゃ誰からも信用されないし、侮られたままだ。


 領地そのものが強くなければ。


「さてと、帰るか」


 そう立ち上がって館の方を見ると、庭で大縄跳びなぞして遊んでいるのが見えた。


「あ! 兄ちゃんだ!」


「おーい! おかえりなさーい!」


「おかえりなさい! アルト~!!」


 嫁や弟やおふくろが、戦争から無事に帰って来た俺の姿に手を振って喜んでいた。


【※】

一章「兵力1」おわりです。二章「内政」もお楽しみに!

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