第15話 逃げちゃおう
次の日、軍曹が部下たちを連れて見送りに来てくれた。
「元気でな、荷物もち」
「嫁さんとよろしくやれよ!」
「もう戦場ではぐれるんじゃねえぞ」
一応昨日、彼らにも本陣を攻めに行っていたのだと説明したんだけど、やはり冗談としか思われなかったようだ。
まあ、しょうがないな。
ああいう気のいい連中からすら信じてもらえない。
それが今の俺ってことだ。
俺はみんなへ手を振って城をあとにし、城下町へ出た。
「んー……!」
軽く伸びをする。
空は晴れ。
しかし、敗戦後の町はどんよりしていて、人々はまるでワールドカップ予選で敗退した悲劇のようにガッカリしている。
でもこれですべてが終わりというわけじゃない。
戦争なんてものは一度くらい負けても、次にやって勝てばいいのだ。
「さてと……せっかくの王都だし、買い物でもして帰るか」
ダダリでは手に入らない品々を買い込み、四次元BOXへ詰め込むと、俺は停留所で馬車を待った。
「おーい! 待ってよアルトっち~!」
そんな時、名を呼ばれたので振り返ると、見覚えのあるポニーテールの少女が駆けてくる。
ステラだ。
「ありえんしー。なに帰ろうとしてんの?」
「別に、俺の勝手だろ」
「ひどーい、この戦争が終わったらデートするって約束したじゃーん」
「あ?……ああ、あの死亡フラグみたいな手紙か」
「何それ、意味わからんしー」
約束したって言われても、俺は返事していないのだが……
でも、わざわざサンドウィッチ作って来てくれたもんな。
「じゃあ、デートってワケじゃねーけど。メシでも食いにいく? 弁当のお礼だ」
「行く行く~!」
そう言って俺の腕にぴょんとしがみつくステラ。
まあ、けっこう素直なところあんだよな。
女の子は甘いモノが好きだろうという単純な考えでガレット屋でふたつ購入した。
クレープのように道端で渡して、一緒にかじる。
「ヤバぁ! ド庶民みたいじゃーんww 一度やってみたかったんだぁ」
そう言えばコイツ、ライオネ領のお嬢様だった。
全然そんな感じしないけど。
その後、一緒に武器屋で剣を見たり、有名な古代勇者の銅像を見に行ったり、雑貨屋へ行ったりした。
「そう言えば……おみやげらしきものはちっとも買っていなかったな」
家族のぶんくらいは買っておくか。
「えー、マジー? アルトっち既婚者だったの……?」
買い物の流れで「地元に嫁が二人いる」ことを伝えるとステラは一瞬ショックを受けた様子だったが、
「……でも、逆に考えれば二人も三人も一緒じゃーん。アタシもお嫁さんにしてよー」
とすぐに立ち直る。
「そういうワケにはいかないだろ。お前のオヤジさんライオネ領主だし。俺嫌われてるみたいだから許さねえと思うよ?」
「えー、パパなんてカンケー無いってー。威張りんぼうだし、最近臭いしぃー」
「お前さ、オヤジにはやさしくしとかなきゃ後悔するぜ。自分より先に死んじまうんだから」
「ぁ……」
ステラはハっと目を見開いて、父のない俺の顔を見つめる。
「……ゴメン」
「いいよ。ちょっと説教っぽくなっちまったな」
と、ちょっぴりしんみりした話になった時である。
「探したぞ、アルト殿!」
天下の往来でなにやら大声で俺の名を呼ぶ声がする。
振り返ると、全身鎧の女騎士が仁王立ちしてこちらを睨んでいた。
「ナディア? こんなところでどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもない。そなた、よもや約束を忘れたのではあるまいな?」
「約束?」
「とぼけるな! 戦争が終わったら立ち合う旨、約束したではないか!」
なんつーか、この世界の女は自分で願望を述べたらもう約束が成立したと思い込んでしまうヤツばかりなのだろうか?
「ちょっと、なんなんですかぁ? ありえなくなーい?」
俺が途方に暮れていると、横からステラがスカートひるがえして進み出る。
「アタシら今デート中なんですけどぉ。邪魔しないでくれますぅー?」
「で、デートだと!?」
デートという言葉に一歩たじろぐ鉄仮面の女騎士。
「ちょーウケるw 人の恋路を邪魔するやつはスライムの角に頭ぶつけて死んじまえ……ってことわざ知らないんですかぁ??」
「ぐぬぬぬ……」
おお、意外にもステラが優勢だ。
「やむをえん。ここは引き下がろう……しかし、アルト殿。デートとやらが終わるころ私はまた来るからな。その時はきっと立ち合うのだぞ! よいな?」
そう残してナディアは走り去って行ってしまった。
「うーん、どうしたもんかな」
「アルトっち。逃げちゃおう」
すると、ステラがそう耳打ちをする。
「マジ、モテすぎるのも考えものだよねー。あの女につきまとわれて困ってるんでしょ?」
なんか誤解があるようだが、逃げるという意見には大賛成だ。
「でも……あの人、王都騎士団の有名な人なんだぁ。王都はあの人の庭みたいなもんだから普通に逃げてもつかまっちゃうね」
「じゃあどうすりゃいいんだ?」
「アタシに考えがあるから、来て」
こうして彼女は茶髪のポニーテールを舞わせて、俺の手を引いて行った。
◇
ステラに連れて来られたのは、王都にあるライオネの『王都領館』であった。
大きな領主たちは王都にも滞在用の館を持っている。
そこには大使館や藩邸のように治外法権があり、城の兵であっても簡単には介入できないのだった。
「あのさ、逃げるのはいいけど、この格好になんの意味があるんだ?」
俺は赤いチェックのスカートにフリルの入ったブラウス、長いストレートヘアーという姿に着せ替えられていた。
スースーするスカートの中には、赤いリボンの白パンティすら穿くことを強いられている。
「ヤバぁ! 激カワだしー♡」
ほっぺにチュッチュッとキスしてくるステラ。
「よせよ、街中で」
「いいじゃーん。女同士なんだからぁw」
「女同士じゃねえだろ!」
「……女同士ということにしておいて。ここから」
ふいに真剣な面持ちになったステラは、俺の手を引いてライオネの王都領館へ入って行った。
「おお! おかえりなさいステラ」
すると、あの黒ひげライオネ領主がこれを出迎える。
ヤ……ヤバくね?
「おや、そちらの子はなんだい?」
「あー、アタシのトモダチ。アルトリアちゃんっていうんだぁ」
「お前が友達を連れてくるなんてめずらしいな。むう、可愛い子じゃないか」
マジか。
「ねえ、パパぁ。アタシもうかったるいんだけどぉ。先にライオネに帰っていていい?」
「どうしたのだ。王都で新しい剣を買ってほしいと言っておったのに」
「アルトリアちゃんと地元でお泊り会をしたいの。ねー、いいでしょう?」
そう娘に言われるとダメとは言えないらしく、ライオネ領主は馬車を用意してくれた。
ヒヒーン……!
「お嬢さん、どうかステラと仲良くしてやってください」
俺とステラが二人で馬車に乗ると、ライオネ領主にそんなふうに声をかけられる。
声を出したらまずいのでニッコリ笑顔を作り会釈で応えると、馬車は王都を発車した。
やれやれ、やっと領地に帰れそうだ。
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