第12話 あ、ゲオド中将!
気を失ったナディアを担いだゲオドは部下たちを引き連れ、本陣の裏にある小さな陣幕へ入っていった。
俺はまだエリュシオン兵の鎧を着ている。
トコトコと見張りへ近づいてこう言った。
「やあ、ご苦労さん。ちょっとションベンしてくるワ」
「むっ……気を付けろよ。今、ゲオド中将がいらっしゃるからな」
「ひえぇ! さっさと済ませてくる」
こうして立ちションするフリで裏へ回ると、そっと陣幕を捲って中の様子をうかがう。
おっ、いやがるな。
「むん!……うむ、こんなところだろう」
ゲオドはナディアの手足に鉄の錠を嵌めると、立ち上がった。
「ゲオド中将。前線へ行かれるのですか?」
「当然だ。敵軍はもう崩れる手前だが、油断はならん。トドメを刺してきてやるわ」
そう言って踵を返すゲオドだったが、ふと立ち止まると、振り返ってこう言った。
「キサマら……女に手を出すなよ」
「へっ?」
「何を……」
ゲオドはため息をついて続けた。
「近ごろ、兵の乱暴狼藉が目立つと報告がある」
「そ、そうですか」
「初めて聞いたなァ……」
「いいか。捕虜は捕虜として適切に扱え。特に女騎士が抵抗できぬのをいいことに、その武人の誇りを汚すような真似をしたならば……即、首を刎ねる。わかったな!」
「ひいいッ……」
「わ、わかりました」
そうダミ声で怒鳴ると、ゲオドは出て行った。
人は見かけによらないというか……
あんな凶悪な顔して意外に紳士なんだな。
ただ、残った兵は別にそういうわけでもなさそうだった。
「チェッ、あれだもんなあ。おカタいぜ、中将は」
身長がひょろ長い兵士がそうぼやき始める。
一方、背の低いヒゲ面は、倒れるナディアを興味深そうに見下していた。
「……なあ。女の鉄仮面、取ってみようよ」
「はあ? よせよせ。こんな鉄兜の女の顔なんて、どーせブスだ。見れたもんじゃねーだろ」
「それならそれで笑い話になる。イイ酒の肴だ」
「それもそうか。じゃあいくぜ」
そう言ってひょろ長の兵士がナディアのフルフェイス鉄兜を外した。
「なッ……」
「……ゴクリ」
その瞬間、場の空気が変わる。
黄金の長い髪。
二十歳には達せぬであろう若い頬。
整った顔立ちに、薄ピンクの唇。
「よっしゃ、脱がせろ!」
「待て、とりあえずワシにチューさせろよ。たまんねー」
そう言って、ヒゲ面のひょっとこ口が、ナディアの花のような唇へ近づいていった時。
「あ、ゲオド中将!」
「ぇえ!?」
「ひッ……」
二人は青い顔で振り返るが、そこに立っていたのは俺だった。
「うるぁ! らッ!」
振り向きざまにヒゲ面の方へは鼻へ正拳突きを、ひょろ長の方へはボディブローを喰らわせる。
両方とも音もなく崩れ、起き上がらなかった。
「おい、ナディア。大丈夫かよ」
と揺らす。
「む、むむむ……」
ぱっと長いまつ毛が揺れ、青い瞳がこちらを見つめた。
「おお、目を覚ましたか」
「クッ……殺せ!」
ベタかよ。
「あわてんな。俺だよ、オレオレ」
我ながら詐欺のようだと思い、かぶっていたエリュシオン軍の兜を外す。
「アルト殿……!?」
目をぱちくりとさせるナディアに嵌められた手かせ、足かせを剣で砕き、回復魔法マリッジ・ヒールをかけてやる。
「……どうやら、そなたに助けられたようだな」
「気にすんなって。借りを返しただけだ」
コレ言ってみたかったんだよね。
「しかし、私の眼力は間違っていなかった。やはりそなたは……」
ナディアが熱い目で俺を見る。
「待て待て。今、決闘なんて場合じゃねえって!(汗)とりあえずアンタの仲間も助けないと」
そう話をそらし、捕らわれた騎兵部隊の人たちの錠も壊してやる。
いい身体した壮年の男、髪の短い女、白髪頭の老武者……いろんな人がいた。
「ナディア。彼らが目を覚ましたら、みんなを味方陣地へ連れて帰れるか?」
「そ……そなたは?」
「ええと、俺は……」
まあ、もう弱いフリをして決闘を断る口実にするのは無理があるか。
「俺はこれから本陣を攻める」
「なんだと……!?」
そう言って、俺はエリュシオン兵の鎧を脱ぎ捨てた。




