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第11話 潜入


 荷物持ちをさせられていた兵団を離れ、俺は一人戦場を行く。


「おッ……あれがよさそうだな」


 見晴らしのいい丘の木に登り、戦況を確認した。


 敵兵力はまだ7千はありそうだ。


 嫁「2」の力ではこれほどの人数を一度に倒すことはできない。


 戦闘能力『225』は兵数百を滅ぼせる程度の能力だからな。


 でも、確個撃破ならイケるはず。


 特に本陣を叩くべきだ。


 戦争なんて司令官を倒してしまえばもう勝利だからな。


 ……まあ、ゲームじゃそう簡単に本陣なんて潜入できなかったけれども、これは現実。


 やりようはいくらでもある。


「あのー、すみませーん!」


「む……なんだキサマッ!」


 敵の土豪の近くに一人で見張りをしていた兵士に声をかけた。


「いやー、すみません、すみません。本当にすみません。本当に」


「……はぁ?」


 怪訝な顔をして首をかしげる敵兵へ、ボディブローを一発。


 彼は「ぐふッ」とうめくと、膝から崩れ落ちた。


「うん、思った通り。ピッタリだ」


 俺は敵兵が着ていた鎧を着ると、パンツ一丁のそいつを担いで、敵の陣中へ歩いて行った。


「おい、キサマ! なんだそいつは?」


 すると、それを見咎めた敵兵に止められる。


「コイツですか? いやあ、なんかパンツ一丁でぶっ倒れやがったんですよ」


「なんだと? HENTAIか?」


 俺は男を担ぎ直して答える。


「いやいや、こういう場合、彼の鎧を奪った『敵』が我が陣に潜入している可能性があるでしょう? 彼は味方で、抜け殻ってワケです」


「むッ!? なるほど」


 もちろんその敵は、俺なんだけどな。


「目を覚ませば、少なくとも彼を気絶させた敵の人相は聞けるかもしれない。だから本陣へ報告へいくんです」


「ならば司令官よりも……」


 敵兵はペラペラとこんなことを話した。


「ゲオド中将にご報告申し上げろ。司令官のポピー様なんてお飾りみたいなもんだからな」


 ならばゲオドとかいうのには遭いたくないところ。


 実力ある戦人いくさびとを無視して、お飾りの司令官を倒す。


 これが最もコスパのよい戦争の勝ち方だろう。


 ゲームじゃねえんだからな。


「中将は本陣に?」


「もちろん前線だ。今もはりきって戦っておられるだろう」


 よしよし、存分に暴れててくれ。


「そうですか。では……」


 と行こうとした時、「おい」と肩を叩かれた。


「は、なんです?」


「前戦は向こうだぜ?」


 あ、ヤバ。


 つい本陣へ足が行ってしまった。


「ええと、間違えちゃった。なははは……」


「大丈夫かあ? 気をつけろよ」


 俺はその兵の視線が切れるまで前線へ向かったふりをしてから、また踵を返し、本陣へと向かった。



 ◇



 本陣が見えて来た。


 幕が張られ、勇壮な旗がはためいている。


 敵は二、三百か。


 前線へ出払っているのだ。


「ここまでありがとうな」


 と、パンツ一丁で気絶している男を降ろした。


 あとは本陣を叩いて司令官を倒すだけ……


 そう思った時だ。


「敵襲~!!」


 背後から、声が響く。


 振り返ると、味方のスレン軍の旗を掲げた騎兵部隊が本陣に迫っていた。


 あの戦況で、やるじゃん……


 と思ったが、俺の立場としては、味方に見つかるのもマズかった。


 荷物持ちを脱走してきたのだから。


 俺はあわてて近くの資材置き場に身を隠した。


 ――ヒヒーン……!


 味方の騎兵部隊はほんの十数騎であった。


 それでここまで攻め込んで来れたからには相当な精鋭なのだろう。


「行け! 本陣だ!」


 そして、戦闘で隊を率いているのは全身鎧の女騎士。


 ナディアだった。


 戦場に、勇壮で美しい声が響く。


「食い止めろ!」


「オオオ……!」


 負けじと本陣から敵兵が出動し、衝突する。


 敵の方が数はあるが、十数騎の方が個々の能力が高い。


 特にナディアの動きはめざましく、馬の操り方、槍の扱い、身のこなし、どれをとっても彼女以上の者はおらず、一人で数十人の相手を圧倒している。


 このままいけば本陣を落とせそうだ。


「こりゃ……わざわざここまで来ることもなかったかな」


 俺がそう呟いて、荷物持ちの持ち場へ帰って行こうとした……その時。


「何をやっておるぅかぁああ……!!」


 鼓膜を破るかのようなガムの効いた咆哮ほうこうが、戦場に響き渡った。


 驚いてそちらを見やると、人間とは思えないほどのとんでもない巨漢が大地にたたずんでいた。


 せり出した大きな腹に、毛のない頭。


 肩腕の筋骨には鋼のような鋭い稜線があり、ただのデブではないことをまざまざとさせている。


「ゲ、ゲオド中将……(汗)」


「前戦へいらっしゃったのでは……」


 エリュシオン軍の兵たちがにわかに震えだした。


 彼らにとっては襲いかかるスレン軍の槍先よりも、その男の方がおそろしいらしい。


「ふん、情けない。この程度の騎兵に脅かされるとは!」


 つーか、こいつがゲオド中将か。


 ……怖え顔。


 スキンヘッドの頭に血管が浮かび、プロレスラーのように額に縦の傷が三本走っている。


「うッ……」


「……ゲ、ゲオド」


 さしものスレン騎兵部隊も、ヤツの威圧感に気圧されているようた。


「うろたえるな! 敵はただ一騎増えただけではないか!」


「し、しかし、ゲオドがあらわれては……」


「うるさい! ついてまいれ!」


 ナディアは味方を鼓舞し、大男へ向かっていく。


 女型の全身鎧で馬に乗って駆けるその流麗な姿は、戦場の果てしない青空がよく似合った。


「ヤぁああああ……!!」


 彼女の槍は、無駄な動きがない。


 一直線に、ゲオドのでっぷりと肥えた腹へ突き刺さった。


「ぬおおお……」


「や、やった!」


 が、仕留めたはずのゲオドの顔に『ニヤリ』と笑みが浮かんだ。


「ヒャッハー! ゲオド様にそんな攻撃が通じるかよ!」


「ゲオド様のお腹が『槍殺し』と呼ばれているのを知らねえのか!」


 敵兵たちがそう騒ぐ。


 そうか、あの柔らかい腹が、槍の攻撃力を吸収しているんだ。


「残念だったな。ここまでだ」


「なッ……」


 ゲオドは大きな手で、ナディアの身体ごと、いや、馬ごと薙ぎ払うかのような平手打ちをかました。


「ッ……!」


 女の身体は何十メートルも吹っ飛び、馬はおそらく即死。


 ナディアも倒れたままだった。


「よくもナディア様を!」


「全員でかかれ!!」


 後続がいっぺんにかかる。


 しかし、ゲオドはそこで『すぅ』っと腹いっぱいに空気を吸い込むと、口を大きく開き、そこから魔法エネルギーのようなものをいっぺんに吐き出した。


「う、うわぁああああ!」


「きゃああああ……!!」


 残る騎兵部隊もこの一発で全滅。


 誰一人立ち上がるものはない。


「ふんッ。息のある者は連れて来い。捕虜として拘束する」


 ゲオド中将はそう言うと、ナディアの身体をひょいと担いで本陣の裏手へ回っていった。


 ヤバすぎるだろ。


 アイツが捕虜を収容している間に、本陣を叩いてしまうのがベストだが……


 でも、ナディアはこの前セコンドに着いてくれたんだっけ。


「……チッ、しょうがねえ」


 俺はため息をついて、ゲオドたちの後をつけて行くのだった。


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