地獄での出来事 蛇足2 『地獄のIT』 (本編8話付近)
(本編からカットした地獄での出来事集を追加の蛇足として公開いたします。)
己の刑罰や謝罪が終わった次の日から、地獄の様々な職場に配属され罰としての労役に従事した。
そして瞬く間に20日ほどが経過した。
今日の職場はこの地獄の事務局本部。
何やら今までの職場と違って職員の質や品格が上がったように感じる。現世でも一流企業の本社ってこんな感じなんだろうか?
各人の服装も男女問わず皆結構キッチリしていた。
ここで配属されたのはIT部門。
ひょっとして俺の信用度が上がったのだろうか?
まぁ、生前の経験も考慮されたんだろうけど……。
で、なんで地獄にコンピューターとか電話器まであるんだよ!?
WEBにもつながってるし、電源とかインフラとか一体どーなってんの?
……などと思ったが、まぁ実際に目の前にあるんだから、もう地獄のIT事情はこういうもんだと受け入れるしかなさそうだな……。
そしてそのIT部だが、体調不良そうなオッサン鬼が一人だけで全部キリモリしていた……。
「ヨォ新人くん……ゴホッ……。ボクがここの責任者のピコだ、ヨロシク! あ、堅苦しいの無しで」
「は、ハイ! あ、天ノ生千造です。どうぞヨロシクお願いします」
そんな感じで簡単な挨拶を済ませると、いきなりドサっと書類が詰まったバインダーの山を渡された。
「それ、ここの全システムの説明と各サーバーのIPとかadminユーザーIDとパスワードなんかも載ってるから…ゴホっ……、一通りログインしてみてね」
「え? マ、マジですか? そんな重要なものを私が知っちゃったり見ちゃったりしても良いのですか?」
ピコさんは真顔であっさりと否定する。
「イヤ、ダメだろうねぇ〜」
「え、えぇっー!?」
のっけから肩透かしをくらい、まごつく。
ピコさんはこちらが素直に驚いたので満足したように説明を補填した。
「でもしょーがないじゃん。ココ、ボクとキミの二人で回して行くしかないんだし、ボクが急に休んだりしたらどうすんのってね?」
「な、なるほど……」
「大丈夫! お偉いさんたち、ITのこと全然分かってないから〜。誰も気づかないし何も言ってこないよ」
「は、はぁ……」
なんかちょっと愚痴が混じったようなやり取りだったが話はシンプルかつ軽快で、この人とはうまくやって行けそうに思えた。
……
さて、その後もちょっと半信半疑ではあったが、とりあえず言われた通りに片っ端から作業を片付けていった。
地獄なのに何故かPCのメーカーやOSは人間界と同じものばかり。
OSの基本言語は英語だったが日本語入力も扱えるし表示も問題ない。
昔、海外赴任していた頃を思い出す。
っていうか、ここにあるコンピュータも各機器も普通に人間界にあるものを持ってきたって感じだよな……。
おかげでどの機器も難なく使いこなす事ができる。
とりあえず今は新規開発系の仕事等はないとの事で、既存システムの保守とかスタッフをサポートするヘルプデスクの仕事がメイン。
各部署のいろいろなスタッフから『あれができない』、『これが壊れた』といった様々な問い合わせが来るので、電話でアドバイスしたりPCにリモート接続したりしてどんどん解決していく。
問題を解決する度にピコさんは親指を立ててグッジョブサインを送ってくれた。
まぁ、死ぬ前日まで10年近くやってた仕事の内のひとつだから経験と能力を最大限活かせるわけで……。
だからなのか、ピコさんからは「明日から最終日までずっとココで働く事に決まったからね」と言われて少々驚いた。
ただ次の日、職場に来てみるとピコさんがいないではないか……。
急な仕事が入ったとかで今日から別な現場に行ってしまい、いつ戻れるか分からないそうなのだ。
そして伝言メモはこう締めくくられていた。
『……と言う事でそっちは任せたのでヨロシク! 全権代理にしておいたから心配せずガンガンやってくれ』と……。
マ、マジか……。
まぁとりあえず認められたようで嬉しいけど……責任重大なのでは……?
そんな心配をよそに、朝イチからもう問い合わせが入ってきた。
わー、もうとにかくやるしかない!
……俺は悩む暇もなく仕事を始めたのだった……。
……
そんなこんなで地獄のIT部門、二日目となった。
昨日と同じ様にいくつかの問い合わせ案件に答えたり解決したりして、やっと一息ついた頃のこと。
隣にある購買部の方から、しきりに謝る声が聞こえてきた。
ちょっと聞き耳を立ててみる……。
「……」
ふーん、どうやら今日から来た新人がコンピューターの作業でミスってるっぽいな……。
チラッと覗いてみると、その新人さんはかなり高齢のおじいさんだった。
さらにキーボードは左右の人差し指を一本ずつ使って『N……、エヌ、エヌ……、お、ここか! よいしょっと……。次はA……っと……、エー、エー……』などと一生懸命キーを押している……。
おいおい、そんな状態でコンピューターでの仕事はキツイっしょ。
ってか、何でそんな人をここに配属してんだよ。手配した人、鬼畜かよ……。
……
そして結局そのおじいさんにコンピューターの操作やソフトの使い方など、基本的な事を教えてあげることになった。
「ウエヤマと申します。お手数をおかけしてスミマセンのぉ〜」
「いえいえ。千造と申します。宜しくお願いします」
……
ウエヤマさんが言うには、ちょうど刑期を終えて天国に行ける事になったらしいが、その前に一度だけここで働いてみたいと希望したところ、あっさりと了承されたとのこと。
まぁだから周囲も暖かく接してあげているようだ。
事務仕事の現場にずっと憧れていて、コンピュータを颯爽と使いこなせるようなビジネスマンになるのが夢だったんだと。
何とも微笑ましい夢ではないか!
実は俺も、大都会の街角をトレンチコートに身を包みアタッシュケース持って颯爽と歩くビジネスマンになるぞって某A国に渡った時の事を思い出した。
よっしゃー! 必ず良い思い出になるようにしてやるよ!
って、現世での思い出としてはもう無理だけど、地獄での最後の思い出としてね。
終わり良ければ全てよしだ!
じゃ、やっぱブラインドタッチ習得だろって事で、フリーのタイピング練習サイトをいくつか使って一日中やってもらった。
……
まぁ、流石に今日一日だけじゃ難しいだろうけど。
そう思いながら、その日の終わり頃にウエヤマさんの様子を見に行った。
しかし、近くに行くに従ってカタカタと絶え間ないキータッチ音が聞こえてくるではないか。
見ると、ウエヤマさんがキーボードを軽快に叩いていた。
えーっ!
なんかメチャクチャに速くなってるー!
「す、すごいじゃないですかー!」
「そ、そうじゃろか? なんか気がついたら思いのままに指が勝手に動いて打てるようになっておりましての〜」
ウエヤマさんは上機嫌だった。
「楽しいの〜」
周りのスタッフも関心しきりだ。
まぁ、俺はセッティングしただけで全部ウエヤマさんが頑張っただけなのだが、とにかく嬉しくなってしまった。
……
そんなウエヤマさんの方はどうしても今回のお礼がしたいと言い出した。
イヤイヤ……などとかなり遠慮したのだが……。
結局、仕事帰りに街の繁華街で食事をご馳走になることに……。
そう、この地獄にはちょっとした繁華街があったのだ。
相変わらず食欲は無かったハズなのだが……。
何故か運ばれてくる料理を見たら急に食欲が湧いてきて、どんどん食べてしまい酒も飲んでしまった。
ウエヤマさんもさらに上機嫌になり会話も盛り上がる。
というのも、このご老人はお年に似合わず大のアニメファンだったからだ。
俺もアニオタの端くれなのだが、彼は俺など足元にも及ばないアニオタを極めた男だったのだ。
そして語る内容はアニメ愛に溢れている。
思いがけず好きなアニメの話ができて異常に楽しくなってしまった。
さらに久々のお酒が効いたのか、どうやらかなり酔っ払ってしまったっぽい……。
その内にウトウトしてきてしまった……
…………
少し眠ってしまっていたようだ……ふと目覚めると何故だか見知らぬ部屋のテーブルに突っ伏していた。
どうしてこんな部屋にいるのか……さっぱり覚えていない……。
目の前のウエヤマさんはニコニコした顔でこっちを見ていた。
「千造さん、お目覚めですかな?」
「あ、す、すみません……かなり酔ってしまったようで……」
「それならコレを飲みなされ」
と、ウエヤマさんから渡されたコップにはどこかで見たような緑の液体が入っていた……。
あまり深く考えずにそれを一気に飲み干す——
「……げ! ……に、苦ぁーーっ!!」
その苦味を感じた途端、意識が冴え渡った——
あ、こ、これ! 死神の大鎌、シャル子にぶっかけられた酔い覚ましの薬と同じやつでは……。
「さて千造さん、意識がハッキリしたところで本題に入りましょうか」
そう言うと、彼の身なりが一変して真っ白なローブへと変わった。
「え……? ウ、ウエヤマ……さん?」
そ、それって手品? それとも……魔法?
「すまぬの千造さん。騙すようなマネをして……。先ほどまでの姿はのぉワシがまだ人間だったころのものじゃ」
「は、はい?」
ウエヤマさんは少し背筋を伸ばし、そして名乗った。
「わしの正体はのぉ……、か、神……ウエヤーマンである!」
「…………。は?」
突然の宣言。
な、なんだって? か、神ぃ………?
「はいぃーー?」
目を見開いてウエヤマさんを覗き込む。
ウエヤマさんは少し顔を赤らめつつもニコニコ笑顔で座っていた。
「か、神様……? …………は、はいぃ〜〜??」
先ほどまで唯のおじいちゃんだったウエヤマさんが実は神様だったという展開に、頭がまだ追いつけずにいた……。
(地獄での出来事集 蛇足3 『神と予知夢』へ つづく)




