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死に損ないの世なおし 〜怨霊幼女編〜 【閻魔の代理執行人】  作者: まこマZ
地獄での出来事集 本編未収録エピソード蛇足1〜6 全6話
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地獄での出来事 蛇足1 『ようこそ地獄へ』 (本編8話付近)

(本編からカットした地獄での出来事集を追加の蛇足として公開いたします。)


 ついにその時が来た。


 閻魔庁を後にした我々は長い長い地獄への階段を下り、ようやく地獄の地に降り立つ。

 

 階段を降りた場所は広場のようになっており、係官とおぼしきモノたちが複数名立っていた。

 いずれも身長が3メートルはあろうかという大男たちで屈強そうなガタイ。腰に布だけ巻いており、鬼の形相をしている。


「——てか……!」

 マ、マジの鬼かよ……。


 死神がひとりの鬼と話し、手続きが終わるとその鬼が皮肉な笑みを浮かべてこう言った。


「ようこそ地獄へ!」


 ……


 この後、俺はこの建物やその他の建物の最下層へ連れて行かれ、刑罰を受ける罪人たちの超悲惨な光景を散々見せられた。

 案内してくれたのは見た目が初老の小柄な鬼で、この地獄の長官だとか。


 最後の刑場を見終わって上に戻ってきた時、その長官からこんな話を聞かされた。

「実はここ数十年の間に、死者の全体数に対して地獄へ送られてくる人の割合が増え続けておりましてな、極楽浄土へ行ける魂の割合は減ってきておるのですよ」


「そ、そうなんですか……」


 そう言えば極楽浄土って言い方があったな。天国と同じような意味だと思っていたけど、どうだったっけ……?


「小さな罪から大罪まで、全体的に罪を犯す人間が増えて来ているのです。それに、現世で罪を隠し通した末に罰を受けず、償いもせぬまま死んでココへ送られてくる奴らの数も増えてましての。なので『現代の人間の世においては、極楽浄土への信仰心や地獄に対する畏怖の念が薄れてきておるのでは?』といった噂話が鬼たちの間でも囁かれておりましてな……」


「な、なるほど。……確かに近年はそうなって来ているかもしれません」

「……う〜む……やはりそうじゃったのか…………。うぬぬぬぬ……地獄を軽視するような世の中になっておるとは、由々しき事態じゃ!!」


 ——その時、彼の後ろから鋭く透き通った女性の声が響いた。

「案ずるな、長官よ!」


 皆一斉にその声がした方を向く。

 そこには豪華で派手な着物をまとった超絶美女が立っていた。


 あれ? どっかで……。


 長官が驚いた様子でその人物の名前を呼んだ。

「閻魔女王様!」


「えっ? 閻魔…女王…様……? こ、この方が……?」

「これ、控えよ! 閻魔女王様の前で無礼であるぞ!!」


 長官が慌てて俺の肩と頭を掴んで『図が高い!』と言いつつ膝を付かせようとしたが、閻魔女王は手でそれを制した。

「良い良い長官。千造よ、分からんか!? まぁ無理もないかっ! ハーハッハッハッハッハー!」


 その声を聞いて、この方が昨日洞窟で会ったローブ姿の閻魔女王と同一人物だとようやく認識できた。

 あの時とは雰囲気が全然ちがう。


「ははぁーーっ!」

 俺は地面に平伏した。


 ゲツもいつの間にか黙って片膝を突いており、死神と長官も片膝を付き胸に手を当て敬礼っぽいポーズを決めている。


 こ、神々(こうごう)しい……!!!


 やはり今ここに御座(おわ)すお方は超別格の存在!

 漂う気品と威圧感で、この場を完全に支配している……。

 その全てが異次元の輝きを放っていた……。


 ……


 その後、遂に俺の刑場に辿り着く。


 そこは他の刑場とは雰囲気が全く異なる部屋で、まるで病院の手術室のようだった。

 その中央には、ベッドに変形させる事も可能な椅子——治療用チェアとでも言うのか?——が置いてある。


 その部屋の上座に閻魔女王様が立ち、俺は跪いた。


 彼女が口を開く。

「千造よ。これから沙汰を言い渡すが、その前に一つ伝える事がある」

「は、はい」

「今回お前が地獄に送られる元になった罪は子供の頃、それも小学生の頃に犯したものだ。実はな、本来子供の頃に犯した罪は内容によっては罰を減刑、あるいは一部免除することもできる。そしてお前の罪は正にその免除対象なのだ」

「え? そ、そうなんですか?」

「ああ。さぁ、どうする? 免除を受けるか?」


 突然のオファーに一瞬迷いかける。

 しかし答えは決まっていた。


「い、いえ。この罪は自分にとっても非常に恥ずかしく、大人になっても時々思い出すほど心に残り非常に後悔した事です。今回を逃したら、この罪を償う機会はもう二度とないでしょう。できましたらここでしっかりと刑罰を受け罪を償いたいと思います」

「うむ、そうか……。分かった」

 一瞬だが閻魔女王様の口元が緩んだように見えた……。


「いずれにせよ、お前の嘲笑発言に関しては言霊(ことだま)のお陰で、刑罰相当の経験をお前自身が既にしている。その為、僅かではあるがその分の減刑はある」

「ハ、ハイ、ありがとうございます! ……と言いますか何なんでしょう、その言霊様や罰に匹敵する経験とは……?」

「フフフ、分からぬか? まぁ良い。いずれ分かる時がこよう」

「ハ、ハハーっ!」


 ……


「天ノ生千造よ! オマエを追体験の刑に処す! あの女子が受けた屈辱や心の傷などの被害を己自身で体験してこい。そしてその後、この地獄にて30日間の補助奉仕を命ずる!」

「ハ、ハハーーーっ!」


 閻魔女王様がそう宣言すると、係官たちが駆け寄きて手足を捕まれ拘束された。


「え、えぇっー!?」


 それを見たゲツが暴れそうになった為、同じく係官たちがゲツも拘束する。


 拘束されながらゲツが叫ぶ!

「千造ーーーっ!」


 しかし、口を布で塞がれてスグに大人しくなってしまった。

「——うぐぅ——…………」


「ゲ、ゲツーーーっ!」


 く、薬ってやつか……?


 そして俺の方は、頭全体を覆うヘルメットのようなものを装着され視界が奪われた。

 い、一体これから何が始まるんだ!?

 動揺して体を硬直させたが問答無用で例の椅子に座らされた。


 すると一瞬で意識が飛んだ——。



 …………



 気づくと、俺は小学生として目覚めていた……。


 というか、小学生の頃に完全に舞い戻ったようで、それより後に体験したハズの記憶などが何も思い出せない。

 時間の経過と共に奇妙な感覚が俺を襲う。


 こ、これって、ついさっきまで観ていた夢がどうしても思い出せないような……そんな気分だ……。



 ……



 あれ? 


 あたし、何かさっきまで違うところにいた気がするけど……気のせいなのかな……?


 大切なことのハズ……なのに何故か思い出せない……。


 ここって小学校の校庭……?

 ブランコのところだ。

 女子の友達二人も一緒。


 その時、突然後ろから罵声が浴びせられた!


 「おい、ビンボー! こんなところで何やってるんだー?」


 くっ! いつもの悪ガキ3人組!?

 それに千ちゃんもいる!


 「おい、貧乏一家ってばよー!」

 悪ガキたちは容赦無く罵声を浴びせてきた。


 すかさず友達が「行こう!」って言って私の手を取り走り始めた……。


 後ろからは『貧乏やーい!』などと聞こえてくる。


 あたしはこういう事にはもう慣れっこだ。

 だからみんな、別に逃げたりなんかしなくていいんだよ……。


 あたしは強いの!

 お父さんもお母さんも一生懸命働いてるし! 

 お兄ちゃんだって頑張って家の手伝いをしてる!

 だから、あたしたち家族に恥ずかしい事なんてひとつもない!


 あんな悪ガキたちに何を言われても気にしない……。



 ……



 ……そのはずなのに……

 いつの間にか涙が溢れ出ていた。


 なんでよー。なんで涙なんか!


 涙は止まらなかった……。


 あたし、何で泣いてるの!?

 見ると、友達二人も泣きながら走っていた……。



 ……



 悔しいっ!


 あの悪ガキたちを見返してやりたい!

 でも、今のあたしには何をすれば良いのか分からない……。


 おとなになったら……大人になったら絶対に見返してやる!



 ……



 あたしたちは一生懸命走った。


 悪ガキたちの声が聞こえなくなるところまで……。



 ……



 校庭を出て、ようやくその声が聞こえなくなった。


 ホッとして、あたしたちは走るのを止めた。


 ハァハァ……



 ……



 帰り道、皆と別れて一人になるとまた熱いものが込み上げてきた……。


 ううっ……


 非力な自分が悔しかった……そして惨めにも思った……。



 ……



 その後も同じように『ビンボー』と罵しられる日が何度か続く。


 その度に同じ思いを味わった。



 ……



 しかしある日、担任の先生がこの事を知り、あの悪ガキたちを職員室に集めた。

 そしてあたしもそこへ呼ばれる。


 彼らはあたしに謝ってきた。

 でも、心の底から謝っているようには見えない。

 先生に言わされてるだけ……。

 反省もしてない。


 あたしはその場では、皆を許す事に同意したが、勿論まったく許せていなかった。


 心のムカムカが収まらない……。



 ……



 その日の帰り道……。

 これまでに彼らから受けた仕打ちが頭の中に浮かんでは消えた。

 そして複雑な感情が込み上げてくる。


 あたしにとっては何も解決してない……。


 ……。


 悔しい……。


 ……。


 悔しかった。


 ただ、ひたすらに悔しかった。


 ……。



 …………



 その後どれくらいの時間が経ったのだろうか。


 ……深い眠りから覚めるように意識を取り戻した。

 ここはベッドの上……? いや違う。

 これは……例の椅子が変形したヤツだな。

 ヘルメットは取り外されていた。

 周囲を見回しても誰もいない。


 ふと、顔に違和感を感じたので触ってみると涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。


 ——痛っ!


 不意に頭痛に襲われ、そして先程までの記憶が蘇ってきた……。


 あの小学生女子としての記憶が鮮明に頭に焼き付いて自分の記憶として混ざり合っている。

 あそこで味わった惨めさや悔しさで心が張り裂けそうだ。


 そしてその悔しさの矛先が自分自身にも向けられていて懺悔の念も絶え間なく押し寄せてくる。


 カ、カオスすぎる……。


 頭がおかしくなってしまいそうだ。

 い、いや……もう既に精神崩壊中な気がする……。


 ——うっ! ゴミ箱に駆け寄り、ひとしきり吐く……。


 こ、これが 追体験の刑罰……。

 もう闇堕ちして戻って来れそうにない。


 そこで閻魔女王様と他のスタッフが戻ってきた。

 ゲツの姿は見えない。


「千造よ、追体験の刑罰はどうであった?」


 閻魔女王様のほうを向いて跪く。

「は、はい……」


 俺は、今回体験した内容とその時感じた事や目覚めてからの事、そして今は頭の中はカオス状態で気分は最悪といった事まで吐露した。

 そして心から詫びたい気持ちである事も……。

 すると彼女は俺の額に手をかざした。


 ——え?


 その瞬間に不思議な感覚に襲われる……。


 そして、どこかへ瞬間移動したかのように急に目の前の景色が暗転した。



 …………



 ……何故か暗闇の中に……自分だけが立っているようだ……。


 いや、いつの間にか知らない女性が数歩先に立っていた。


 頭の中に閻魔女王様の声が響く……。

『千造よ、お主に特別な機会をやろう』


『え……?』


『そこにいる女性は先ほどの少女が大人になった姿だ』

『——ええっ!?』

『そしてお前は今、彼女が見ている夢の中にいる』

『か、彼女の夢の……?』

『夢と言ってもそれはお前と彼女を引き合わせる為の場に過ぎず、実際にそこにいるのは彼女の魂そのものだ。現世で二人を実際に会わせる訳にもいかんので、これが我が用意できる精一杯のものだ』


 な、なんと……そ、そういう事か……。

『わ、分かりました……。有難うございます!』


 半信半疑ではあった。

 しかし、この状況でやるべき事はひとつだ。

 俺は閻魔女王様の意図を理解した。


 謝罪しよう!



 …………



 意識が戻ると閻魔女王様はゆっくりと手を降ろした。


 意識は戻ったのだが……

 ショックから抜け出せずにいた。


「ウム、この刑罰はお前にとってうまく働いたようだな。……と言うより少し効きすぎたか……。フフフ……」


 閻魔女王様は満足げに微笑み、そして続けた。

「この刑罰の結果やお前の謝罪と懺悔の念は、現世で生きている彼女の心にも、癒しとして反映される仕組みになっておる」

「そ、そうなのですか!?」

「ああ。ただし現世で本人に直接会って謝罪し、許しを得る事に勝るものはない」


「ハ、ハイ……」


「被害者にとっては地獄が出来る事も所詮その程度という事だ。そこは履き違えるなよ!」


「は、ははーっ!」


 後から何をやろうと被害者側には取り返しがつかないのだ……。

 ただ、これで彼女も少しは癒されるのなら……。


「これにて天ノ生千造に対する追体験の刑罰を終了する。明日からは最後の刑罰、30日間の奉仕活動だ。この地獄の各部署にて手伝いをしてもらう。励めよ!」


「は、ははぁーっ!」


「また、会おう!」


 そう言って閻魔女王様は颯爽とこの場を去っていった。


(地獄での出来事集 蛇足2 『地獄のIT』へ つづく)

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