蛇足2 天界 (本編22話後のエピソード)
(本編22話後、天界に昇った玲子と天使コヤストロンのエピソード)
□□□ コヤストロンの記憶から □□□
天界に登ったコヤストロンと玲子は神殿のひとつに来ていた。
この神殿の主にコヤストロンは仕えている。
玲子と手を繋ぎ、歩いて神殿の中に入って行く。
二人で廊下を歩いている途中、数人の天使たちとすれ違った。
ほとんどが格上の天使たちである。
そのうちの一人がコヤストロンに声をかけてきた。
「おやおやコヤスよ、久しぶりだなぁ」
「これはイビアルエル様、お久しぶりでございます」
「聞いたぞ。今回も随分と手こずったようだな?」
「ハ……、ハイ……」
「オマエは子供の案件になると感情的になりすぎるからな。どうせ今回も深入りしすぎていらぬ仕事を増やし、手間を掛け過ぎたのであろう?」
「い、いえ、そんな事は……」
ふと横の玲子を見るとイビアルエルに向かってアッカンベェ〜をしていた。
「——れ、玲子!」
玲子に気づいた彼は目を釣り上げて怒りをあらわにしゲンコツを振り上げる。
「お、おやめくださいイビアルエル様! まだ小さな子供ではないですか!」
コヤストロンが玲子を庇い、イビアルエルの前に立ちはだかる。
「フン! オマエの教育がなってないからだ! だいたいオマエに天使の仕事は向いてないんじゃないか?! イヤ、それどころか天界にいる資格すらないのでは?」
「そ、そんな……」
「と言うのもな、つい先日妙な噂を耳にしたんだよ。……なんでもォ昔、我が子の為に大罪を犯し罰として鬼にされた過去を持つ穢らわしい天使がいるらしいってなぁ……」
コヤストロンがハッとして硬直する。
「……それって、オマエの事じゃないのか、コヤス?」
「……い、いえ、わたくしはそのような……」
「フゥゥ〜ン、本当かァ〜? 何か怪しいなぁ……」
その後もネチネチと絡んでくるイビアルエルにコヤストロンはただ耐えていた。
しかしそこに厳しく透き通った声が響く。
「イビアルエルよ、何の騒ぎだ!」
その声に反応し、そこにいた天使一同が声の主の方に振り向く。
「「「バ、バウワー様!」」」
一同が一斉に跪く。
バウアーと呼ばれたその者はこの神殿の主、女神バウワー。金髪金眼の美女で、シンプルな薄手の衣を纏ったその身体からは眩いばかりの高潔な光と妖艶なオーラが放たれていた。
「イビアルエルよ、説明せよ!」
「ハ、ハハーっ! こ、これは……、あの……」
「どうした、我に説明できぬのか?」
「い、いえ! そ、それは、その……ですね……」
狼狽えるイビアルエル。
そこにコヤストロンが進言する。
「バウワー様! わたくしがイビアルエル様に対して礼を逸した態度を取ってしまった為、ご指導を頂いていたところで御座います!」
「ほ〜う……? コヤストロンはこう申しておるが、そうなのかイビアルエルよ?」
「い……。は、ハイ! そ、そうで御座います!」
「で、その指導とやらはまだ続くのか?」
「い、いえ! たった今終わったところで御座います!」
「よし! では、コヤストロンらは我がもらうぞ! 大事な話があるからのぉ」
「ハ、ハハーーーッ!!」
「コヤストロンよ、行くぞ」
「ハハーッ!」
コヤストロンは玲子の手を取りバウワーと共にその場を後にした。
三人は無言のまま、ゆっくりと廊下を歩いて行く。
そして誰も居ない所まで来るとバウワーが口を開いた。
「コヤストロンよ、あの者のように過去の噂話でオマエを中傷するヤツがまだ居るのか?」
「バ、バウワー様! き、聞いていらっしゃったのですか!?」
「うむ。……スマヌな……もっと分かりやすく、あ奴を叱るべきだったか……」
「イ、イエ、とんでもございません! 全てはわたくしの罪……」
「——もう昔の事だ! それに、オマエはその罪に対する罰を受け、反省し心を入れ替え、今もこうして償い続けているではないか。他人に後ろ指を刺される謂れは無い!」
「バウワー様……。わ、わたくしのようなモノを拾って頂いただけでも感謝の念に堪えないところ、……そのようなお言葉を賜り、誠にありがとうございます!」
「当然のことを言ったまでだ!」
そんな話をしている内にバウワーの執務室に到着したので、三人は中へ入った。
……
「コヤストロンよ、改めてお役目ご苦労!」
「バウアー様、勿体無いお言葉、痛み入ります。……ただ、既にご存知のこととは思いますが、この度わたくしは禁を破り……」
「ふむ、その事ならもう良い。許す!」
「え!?」
「結果オーライだ! 玲子の為に自らの地位も犠牲にしようとしたオマエの執念の賜物。粘り勝ちと言うものぞ!」
「……ハ! ハハーーっ!!」
「うーん……。あのなぁ、いつも言っておるように肩っ苦しい話し方は無しじゃ」
「……ハ、ハイ……。す、スミマセン!」
「分かればヨロシイ! ……それで、そちらが玲子じゃな?」
「ハイ。……さ、玲子……。こちらはわたくしの仕える生命と再生の女神、バウアー様だ。ご挨拶を」
玲子は、コヤストロンの後ろに隠れるように立っていたが、少しだけ顔を出してコクリと頭を下げた。
「よく来たのぉ、玲子! これまで大変だったであろう……。よくここまで頑張った! 苦しんだ分だけこれからは幸せ三昧じゃぞ!」
玲子は、嬉しそうに笑みを浮かべ少しだけ頬をピンクに染めた。
「さて、玲子よ、お主は何が望みじゃ? 天国に住まうのは当たり前として……お主には更なる望みを叶えてやろう」
「……」
玲子は目をパチクリとさせ、それから少し考えるポーズをとった。
コヤストロンは何か言おうとしたが、思いとどまる。
助け舟を出すべきかどうか迷ったのだが、やはりもう少し玲子に考える時間を与えるべきだと判断したのだ。
そうするうちに玲子は意を結したようで、コヤストロンの耳元で何やら囁いた。
「え!? そ、それって……」
コヤストロンは驚いた表情のまま固まっている。
「なんじゃ玲子、ワシにも申してみよ」
すると玲子はスッと女神に近づき、やはり耳元で何やらそっと囁く。
バウワー神は「ほうっ」と呟いてキョトンとなったが、直ぐに豪快に笑い始めた。
「ハーッハッハッハ! なんとお主、その幼さでそれを望むか!? ハーッハッハッハ、これは愉快じゃ! ここ数百年で最高に小気味良い望みぞ!」
コヤストロンが玲子に尋ねる!
「玲子、あなた本気なの!? 本当にそれで良いの!?」
玲子は今や誇らしげに背筋をピンっと伸ばして立ち、満面の笑顔で勢いよくコクリと頷いた。
コヤストロンは言葉を失い目を丸くして玲子をマジマジと見つめる。
バウワー神はその隙をついて玲子の両脇を持って抱え上げ、そのまま頭上へ高く掲げた。
玲子は「キャキャッ」と声をあげて喜んでいる。
「ヨーシ、玲子よ! お主の願い、しかと心得た。このバウアー、必ずやお主の望みを叶えようぞ!」
コヤストロンはまだ半信半疑のまま立ち尽くしている。
玲子とバウワーは楽しそうに笑いながらはしゃいでいた。
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(蛇足2 『天界』 おわり)




