第22話 昇天
警察署を後にした我々は閻魔法廷に戻ってきた。
しかし、ここで驚くべき事態に気が付く。
あの両親の罰鬼が二体とも消えていたのである。
さらに唖然とする光景に目を丸くする。
何故か、可愛らしいキューピッドのような小鬼が四体、法廷内をキャッキャッと走り回っていたのだ!
「えっ? ……こ、これって一体、ど、どういう事……?」
俺たちは暫くのあいだ唖然として立ち尽くし——と一瞬そう思ったのだが、ニーナだけは額に手を当て俯いていた。
「ニーナさん……何か知っておいでで?」
「ん? ……あ、あぁ……。ワレも実際に見るのは久しぶりなのだが……これは——」
ニーナが何か言おうとしたがシャル子が勝手に出現し、代わりに答えた。
「ピュア鬼ネ」
「え? な、なんですか? ピ、ピュア……」
「ピュア鬼よ! 要するに鬼の赤ちゃんネェ。っつったって、まぁ、見ての通り走れるし遊べるし会話もできるわ。見た目はなかなか成長しないけど、あっという間に我々の知能に追いつくわヨ」
「へ、へぇ〜〜……、そ、そうなんですね……。そ、それで、どうして罰鬼さんたちが消えていて、ピュア鬼さんがいらっしゃるんでしょうか?」
「ピュア鬼はネ、罰鬼が完全に刑罰を執行し終わって、罪人——つまり元の霊が完全に浄化された時、その罰鬼から生まれてくるのヨ」
「は、はぁ……」
「まぁ、生まれると言うより分離し変化するっていう方が正しいかしら。一体の罰鬼が二体のピュア鬼になるのよ」
「ほ、ほぉ〜〜……」
そんな話をしていると、ピュア鬼達がこちらに気がつき駆け寄って来た。
特に玲子のことが気にいったらしく、次々と彼女にくっつき始める。
な、なんか愛らしい光景だなぁ……。
玲子も嬉しいようで、ピュア鬼たちをギュッと抱きしめていた。
暫くしていつのまにか場が静かになり、玲子とピュア鬼達が弱い光に包まれ始める……。
それは少し幻想的な光景だった。
「ピュア鬼は他人の心の傷に敏感で、ああやって心を通わせて相手を癒す事もあるのヨ」
「……そ、そうなんですね…………」
シャル子がさらに説明してくれた。
「でも、ピュア鬼と被害者の霊魂が出会うなんて、地獄においても滅多に起こらない状況なのヨ。だからコレ、めっちゃレアケース! それにも増して今回は直接的な加害者と被害者、さらに元は親子って関係性なんかも重なっちゃって超超奇跡ネ!」
「……そ、そういう事ですか……。確かに色々重なってて……、マジ、奇跡ですね……」
……
暫くすると、玲子もピュア鬼たちと一緒に駆け回り始めた。
フフフ……楽しそうだなぁ……。
あ、そうか……
玲子にとっては初めてなのかもな。こんなふうに友達と遊ぶのは……。
ふと気づくと、コヤストロンさんがワナワナ震えながらその光景を見つめていた。
多分この光景に感動して涙しているのだろう。
我々もそれぞれ適当な椅子に腰掛け、その光景を眺めていた。
……
その後、玲子とピュア鬼たちはひとしきり走り回って疲れたようだ。
いつの間にか地べたに座り込んで何やら遊び始めている。
少ししてコヤストロンさんが我々の方に歩いて来た。
……どうやらお別れの時が来たようだ。
「この度は、本当にありがとうございました」
そう言って、彼女は日本風に深くお辞儀をした。
我々も立ち上がる。
彼女は両手を差し出し、ひとりひとりと握手を交わしながら感謝の気持ちと別れの言葉を述べていく。
そして俺の番になった。
「千造さん……。やはり、あなた方に助けを求めて本当に良かった」
「え? あ、い、いやそんな……」
「玲子にとっても……それに、あの両親にとっても最善の結果になったと思います」
「そ、そうですかね……そうだといいのですが……。い、いや、わたしもそう信じたいです!」
「私はそう確信しています!」
「アハハハ……。あ、ありがとうございます」
コヤストロンさんが続ける。
「私だけでは、こんな事はできませんでした……」
「い、いや、そんな事は……。我々は役目に従っただけです。それに比べてコヤストロンさんは天界の掟を破ってまでも、諦めずに玲子の守護をし続けてくれました」
「え? い、いえ、それは……」
「そして最後にあの神術を使ってくれたから、この結果まで辿り着けたんですよ。だから私たちからも『感謝』です!」
「いえ、私がした事など大した事では……。それに、恥ずかしながら最初は掟を破る事を恐れていましたし……」
「それは当然ですよ。……でも、玲子の為に掟を破った」
「は、はい……」
「だから恥じる事など無いんです。コヤストロンさんは勇気を出して決断し責任を果たした。それが全てです」
「……あ、ありがとうございます。そ、そんなふうに言って頂いて……」
ここでゲツが口を挟む。
「いや〜、まぁ、その〜、……ア、アレだよアレ……。コヤス姉の……あの神術は……なかなかだったと思う……」
「え? ……そ、そう……? あ、ありがとう……」
「だ、だから……あ、あの時……アレだよ……。……た、『ただの天使』とか……色々言っちゃって……その〜、わ、悪かったヨ」
「えぇっ? ……い、いいわよ、もう……。あ、でも、それ……、私が最初に色々と失礼な事を言ってしまったからで……。私のほうこそ本当にごめんなさい」
「え!? い、いや〜、そんな……。あ、じゃ、じゃあ……、あの時は、色々とお互い様だったって事で……」
……な、なんか、最後に二人が仲直りできたようで、めでたしめでたしだ。
そしてゲツは俺にも声をかけてくれた。
「あの最後のアイディアは超良かったヨ、千造!」
「え? そ、そうかなぁ〜。……ま、まぁ一応、経験上ちょと思いついたってだけで……」
「またまたぁ〜謙遜しちゃって! な、ニーナもそう思っただろ? 千造もなかなかヤルじゃんってさ!?」
「えっ!? ……ま、まぁ、そ、そうだな……。なかなかだったな……」
あちゃ〜、ゲツくん! それ聞いちゃダメだって。どうせ、死神ニーナくんはまだ俺の事を認めてないんだから〜。
「……アハハハ……」
……
玲子とコヤストロンさんが天界に旅立つ時が来た。
玲子は我々一人一人とハグをして回っている。
そして俺の番——玲子は勢いよく飛びついて来て俺の懐に顔を埋め、動かなくなった。
「——おぉ……」
「「…………」」
ふと、昨日のハグの事が頭に浮かぶ……。
——って、あれからまだ1日しか経ってないのか。
……最初は超ビビって後ろに倒れたんだよなぁ……。
「フフッ……」
自然と笑いが込み上げて来る。
玲子が一瞬顔を上げて俺の顔を覗き込んで来たが、その顔は笑顔で溢れていた。
これで良かったんだよな……。
離れ際、彼女がもう一度くっついて来る。
そして耳元で囁いた。
「おとうさんとおかあさんをたすけてくれて、ありがと。そして、わたしをみつけてくれて、ありがと」
「——————!?」
え?
……れ、玲子が喋ったぁ!?!?
——って言うか、それって…………。
……
その後、二人は手を繋ぎ天空に向かってゆっくりと飛び始めた。
コヤストロンさんが最後の締めっぽいフレーズを言おうとする。
「どうか安心してください! 玲子は責任を持って天国に送り届け、必ず幸せに暮らせるよう手配致します!」
「ありがとうございます! どうか! どうか宜しくお願い致します!」
少し半泣きになりながら深く礼をする。
「何か私で力になれることがあれば——」
そう言いかけてコヤストロンさんは口を手で塞ぐ。
あぁ……。そりゃあもうこれ以上、我々には関われないわな……。
「ハハハ、分かっていますよ。大丈夫! 玲子の事、どうか宜しくお願い致します!」
コヤストロンさんが申し訳なさそうに言い直す。
「わ、分かりました! それは必ず! ……あ、では、将来もし天国に来られる事があったら、その時は絶対に皆さんをオモテナシしますから〜!」
「ハハハ、その時は宜しくお願いしますー!」
二人はどんどん天高く昇って行く。
玲子はこちらを向いて、いつまでも手を振っていた。
もちろん俺たちも……




