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第21話 最期の愛


 我々は同じ部屋でその光景を見ていた。


 皆、無言……。


 それぞれに思うところがあるようで、全員がしんみりしている様子だった。


 暫くして、ようやくゲツが半泣きの声で(つぶや)く。

「神様……だってヨ……。いいとこ持ってったね」

 そう言って、ゲツはコヤストロンさんの肩をポンと叩いた。


 コヤストロンさんは何も言わず、ただ片手で目元を押さえて立っている。


 そう……


 俺は両親たちがこの部屋にくるタイミングを見計らい、玲子の遺体の状態回復をコヤストロンさんにお願いしたのだ。

 アニメ脳的には、『天使さんならそういう事くらい出来そうだよな』と思い……。


 案の定、彼女は簡単にそれをやってのけた。


 神聖魔法?

 あるいは、神術とでも言うのだろうか?


 結果として(いた)んだ身体はもちろんの事、虐待の跡まで消えて綺麗さっぱり子供らしく健康そのものの身体に再生された。


 本来の玲子の姿に戻ったのだ。


 実はこのアイディアを思い付いて皆に説明し始めた時、死神ニーナからはスグに反対された。



□□□ 千造の記憶から 回想 □□□


 皆で別部屋に居た時のこと。


 例のアイディアを話すと、ニーナが諭すような口調で言った。

「千造、ワレら本来の仕事はもう完了している。これ以上、現世人の彼らに介入すべきでは無い」


「た、確かに……これは余計な事なのかもしれない……」

「そうだ、余計な事だ。そもそも、両親の(みそぎ)は終わっているし恩恵も与えた。ワレらに出来ることはもう無い。後の事は彼らが解決すべき問題だ」


「わ、分かっているよ……。それが掟なんだろう……?」

「そうだ……。それに、オマエの案を実行したとして、その効果も結果も不確実性が高い」


「……そ、そこは、認める……」

「であれば諦めろ、千造!」


「……そ、そうだな……」

「よし、良い判断だ」

 これで話は終わりだとばかりにニーナが千造の肩を叩き、立ち去ろうとする。


 しかし千造は俯いたまま動かずに居た。


 そして声を絞り出す。

「……でも、やっぱり……」

「ま、待て——」

 慌てたニーナが振り向き、発言を止めようとしたが無駄だった。

「……諦めきれない。……た、確かに成功する確証はない……。でもさ、直感が『やれ!』って言ってるんだよ」

「ちょ、直感など当てにならん——」

「モヤモヤを引き起こしている要因……散らばった点と点がスッキリと一つの線で結ばれる気がするんだ!」

「…………」


 ニーナは額に手をやり、暫くした後ため息をついた。

「……ふぅ〜……」


 千造が続ける。

「それにこの直感は、これまでの経験から生まれている気がする……」

「……お、親としての経験ってことか?」

「ん? ……そうかもしれない……」


「チッ! ……クソッ!」

 ニーナが悔しそうにソッポを向いた。


「な、なんだよ……。ニーナ?」

「なんでもない!」

「ん?」

「もう、いい!」

 ニーナは拗ねたように背中を向けた。


 千造は少し戸惑ったが、宥めるような口調で言う。

「な、なんなんだよ……。まぁでもさ、閻魔女王様も言ってくれたじゃないか。『失敗してもいい、チャレンジしろ』って」

「…………」


 ニーナは暫く沈黙した後、長いため息をついた。

「……ふぅ〜〜〜……」


「俺を信じてくれないか?」

「……閻魔女王様は、オマエをリーダーに選んだ。だからオマエが「どうしても」と言うなら、ワレは従うしかない」

 観念したようにニーナがそう言った。


 その発言に少し驚いた千造だったが、スグに受け入れた。

「あ、ありがとうニーナ!」

「お、おうよ……。イ、イヤ待て! ワレ自身は決してオマエを信じた訳では無く——」

「分かってるよ! でも……ありがとう!」


「フン……」


 ……


 さて次は、玲子本人の番だ。


「玲子、この自分の身体に入れる?」

 そう彼女に尋ねた。


 彼女には俺の本当の意図は分からなかったとは思う。

 でも、興味を持ったようでコクリと頷き、すんなりと中に入ってくれた。


「よし、これで準備完了だ!」


 そしてこの後、両親たちがこの部屋に入ってきたと言うわけだ。



□□□ 回想 おわり □□□



 ここで起こった一連の出来事の最中、玲子が何をどう感じたのかは分からない。

 ただ、子を持つ親の一人として俺は賭けてみたのだ。

 悪意を消し去った後の親なら、ただ単純に我が子を愛する気持ちだけが残っているハズだと。


 その彼らが生きていた頃の姿に戻った娘と出会えたら……、どうなるのか。

 更に、肌に残る虐待の跡まで消えた本来の玲子を見たら、どうなるのか。


 至上の喜びと安堵……。

 そして押し寄せる無限の後悔と懺悔の念……。

 

 かつて自分達が愛した娘。

 そして傷つけてしまった娘。

 最後は自分達で(あや)めてしまった娘。


 そう、もうそのプレシャスは永遠に目を覚ます事はない。

 唯一無二の娘はもう二度と戻らないのだ。

 永遠に……


 ……


 ……どうやら、両親に対してこの作戦は上手くいったようだ。


 後は玲子だ。


 短い生涯の終盤を両親からの虐待の日々で過ごした幼い少女。


 いったいどんな気持ちだっただろう?


 毎日、辛かったよな……


 この子にとってこの世は、いったい何だったのだろう?

 そんな人生でも幸せな時間が少しでもあったのだろうか?


 少なくとも生まれてから数年は愛情を受けて育ったのだから、その間は幸せだったに違いない。


 それだけがこの世での楽しい思い出……

 それくらいがこの子にとっての……


 しかし人生の最後…… 

 虐待で亡くなり、その身は両親によって捨てられそうになった。


 今回、我々がやった事に意味はあったのだろうか?

 でも、我々がしてやれる事はせいぜいこれくらいだ。


『せめて最後にもう一回、親の愛情に浸ってほしい……。愛を感じて一生を終わってほしい……』


 そう願っただけなんだ。



 ……



 今、両親に見守られ霊安室のベッドに横たわる玲子。


 その顔が心なしか微笑んでいるように見える。


 閉じた目からは本当の涙が(にじ)み出て来ていた。


 しかし、頬を伝う涙は誰にも見えていない。


 気づくと、いつの間にか枕元に立ったニーナが、玲子の涙をそっと拭き取っていた。


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