第17話 悪鬼
額には一本のツノ。
怒りと快楽が入り混じる歪んだ鬼面。
……父親の容姿が鬼のそれへと変貌していた。
それも、ただの鬼じゃない。
身長三メートルはあるであろう大鬼だ!
その骨格は異常に成長し鎧のように膨れ上がった筋肉が全身を覆う……。
超高剛性ボディの大鬼がそこにそびえ立っていた。
死神ニーナが呟く。
「悪鬼だ!」
悪鬼に対し、真っ先に立ち向かったのは父罰鬼だった。
しかし、体格とパワーが圧倒的に違う。
悪鬼が鎖を引っ張り、いとも簡単に父罰鬼を転倒させた。
「————ぐぁっ!」
そして父罰鬼の身体を片足で踏みつけ動きを封じると、その首に鎖を巻きつけ締め上げる。
「——うぐぅ! が、ぅが、が……」
その状況を見て即座に反応したのは狐っ子ゲツだ。
「ワシが行くっ!」
裁判官席から一気に跳躍し悪鬼の頭にしがみついた。
「————グガっ!」
悪鬼は片手で振り払おうとする。
「ウガッ!! ウガッ! ウガガッ!!」
が、ゲツは素早く移動してそれらをかわす。
「——はぁっ! ——こっちだ! ほれっ! へっへっへーー!」
そうしながらスキを見て、鎌で鎖を断ち切る。
「ここだっ!」
これで罰鬼は自由になり、悪鬼の手から逃れた。
「かたじけない!」
「オウっ!」
間髪入れずにゲツは取り憑きの態勢に入る。
————しかし————!?
……この後のことは一瞬の出来事なのにスローモーションのように感じた……。
・・・ 悪鬼が ゲツを 素手で 払い落とす ・・・
「 ・・・ ぅグっ ! ・・・ 」
・・・ 床に 叩きつけられた ゲツは そのまま 動かない ・・・
・・・ 仮面も どこかへ 吹き飛んだ ・・・
「 ・・・ ゲーツーーっ ! ・・・ 」
「 ・・・ なんだぁ? ギズネの ガキかぁ〜? ・・・ 」
・・・ 悪鬼が 笑いながら ゲツを 拾い上げ、口の中に 放り入れた ・・・
・・・ ゴクリ ・・・
・・・ 異常に 不快な音が 響き あたりが 静まり 返った ・・・
・・・・・・
「ブハハハハーッ! マズ一匹!」
悪鬼が叫んだ。
「ヤ、ヤッダぞー! イゲる! イゲるぞーーーっ!!!」
俺はゲツに念話を飛ばす。
『ゲツ、大丈夫か!?』
——しかし返事がない!!
今度は死神ニーナが悪鬼めがけて飛ぶ!
『ゲツは気絶したまま喰われた! だから取り憑きはできない!』
マ、マジか、くそっ!
ゲツを救出しないと!
……
□□□ 玲子の父親の記憶から □□□
悪鬼となった父親は狐っ子を喰ったことで一線を超えた。
「ウ、ウメぇ……! マ、マルのみ、ザイゴ〜〜〜!!!」
「ん?
グ、グザリが、マギづいでぎだ!?
ア、アゾゴにいだジニガミがっ!?」
「ケッ!」
絡みついた鎖を簡単にブチ切り、
悪鬼は死神に突進!
そしてパンチを繰り出す。
「————ぅグ——!」
死神が後方へ飛んだ!
パンチは当たったが死神は無事だった。
「フン! うっとおじい!」
今度は、罰鬼たちが襲って来た。
が、簡単に罰鬼をボコる。
「——ゥグっ、——ウゲッ、ぅガッ!」
罰鬼たちはあっけなく倒された。
「フン! よわい! ……ゴ、ゴイヅら、ウマイがな?」
そこに別の奴が突っ込んで来た——
しかし、悪鬼が余裕でパンチをブチ込む!
「————ゲホっ!」
悪鬼の一撃を喰らい、閻魔面の男が腹を抱えてうずくまった。
「——ぅ、ぐぐぅ……」
「よわっぢい! ゴイヅ、ザイバンガンのアイヅか!?」
「……く、くそっ……」
「ゴイヅはウマイがな……?」
そう言ったあたりで、突然、悪鬼の勘が冴え渡る。
————うん!?
ふと懐かしい気配を感じる。
その気配の方向を見回す……
……するとそこに、天使っぽいオンナと幼い少女が見えた。
「——お、オオォ〜〜〜!! ……レ、レイゴじゃないか! ぞんなドゴロに、ガクレでいだのが〜い?」
——少女がビクッと凍りつく——
悪鬼が近寄ろうとする——
——しかし、純白の布を纏った女が立ちはだかった。
「させるか!」
「デ、デンジだどぉ〜〜!? ぐぞっ! ブザゲでやがる!」
悪鬼は天使を捕まえようと手を伸ばしたが、天使は右へ飛んだ。
「ほら、こっちですよ!」
「グ、グゾっ! エンマ、オニ、ジニガミとぎて、こんどはデンジだど〜!?」
さらに左右の手を振り回して捕まえようとするも、天使はうまく逃げる。
「ハハハ、ほら、捕まえてみなさい!」
「グ、グゾっ! ジョゴマガどっ!!!」
しかし、悪鬼は天使を諦め今度は幼女のほうを向いた。
「レイゴぉ〜! ビ、ビドリだげ、デンゴグになんがに、イガぜやじないぞ〜〜! オドウざんのドゴロべ、モドッデおいで〜〜〜!」
そう言いながら玲子に向かって突進する。
また天使が目の前に立ちはだかった——
「あなたの相手はわたしよ!」
しかし、悪鬼が天使にパンチを見舞う!
「————ぁぐぅ!」
腹に一撃喰らい、天使は片膝をついた。
「ア、アアぁ……、ギ、ギモヂイイっー!!
ツギば、ガミでもででぐるっでがーーーっ!!!」
悪鬼はその身体の中に更なる力が湧き上がってぐるのを感じる。
「デンジなど……、ガミなど……、ワジのデギじゃないっ!」
そしてついにその時が来た。
今、目の前でその至高の獲物が震えている……
「レイゴぉぉぉ〜〜〜!」
玲子は黙って悪鬼を見つめている。
「レイごぉぉ……!」
そして彼女は両手を組み、祈るように目を閉じた。
「……レイ……ゴ……」
……
無抵抗の者を追い詰め、恐怖で震え上がらせ、痛めつける事。
「ア、アアぁ……、ゴ、ゴレだ……、ゴレゴゾが……ヤメラレナイんだよ……。ワダジにどっで、ザイゴーの、ダノジミなんだ……。ゴボウビなんだ……。イ……、……イヤジなんだ……」
「ガーーーッ! どうだ!、ごわいが〜!?」
「ガオーッ!! だべぢゃうぞ〜っ!」
「ガーッ、バッハッハッハーッ!!!」
「ザイゴーだーッ!」
「ワダジがイヂバンだーっ! わがっだがーッ!?」
「ブバッハッハ——」
「———イダッ……!」
——その時、頭の中で、何かが切れる音がした。
……
『どうやら無事に悪意の絶頂を極めたようだな……』
……ん?
アダマのナガでダレガのゴエがずる……。
そう思った矢先、悪鬼の腹が破裂し何かが飛び出しだ。
「————ぅガっ……!!!」
悪鬼は呆気に取られ状況が理解できない。
「……な、何……が……!?」
気付くとソレが目の前に立っていた。
「ギ、ギヅネのガギ……?」
「フフン、残念だったなぁ……、アンタの負けだよ!」
「ナ、ナンダどーっ! ま、まだ————いっ、イダっ!!」
「ハハハ、腹裂けてるからな」
「——うグぅ! ……グ……がぁっ……!! イ、イダイ……! ……ぁグぅ……………」
そして悪鬼の意識は遠のいた……




