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第16話 父親の裁き


 玲子の父親は動揺していた。



□□□ 玲子の父親の記憶から □□□


 い、一体何が起こっているんだ!?

 この閻魔法廷って何なんだ?

 こいつら一体何者なんだ!?

 

 ……本物のバケモンか?


 ……こ、こんな事……この世にあって良い訳がない!

 ……い、いや……な、何かの冗談か!? 

 ——ドッキリか!?


 いや……それにしては生々しすぎるっ!


 私たちの罪を裁くだと!?

 こ、こんなバケモノたちに私の罪が暴かれるだと!?


 ……罪ってなんなんだよ!

 私が何かやったと言うのか?


 ……れ、玲子の件か!?


 ま、まさか……。

 ……あ、あれは……ただの事故だろが!

 ……私のせいじゃない……私に責任などない!


 ——ってか、こんな一方的な裁判……あっていい訳がない!

 記憶を覗いて罪を調べるだと?!

 被告人の権利はどこいったんだよっ!? 黙秘権は!? 弁護士は!?


 有罪は確定してるってかー!?


「……うっ……うぅぅ……」


 ——な……涙? 

 わ、私が!?

 私がなぜ泣く……? 何が悲しい?


 罪がバレるからか?

 それが悔しいのか……?

 もう観念したのか?


 ……罪を……認めるのか?

 ……諦める……のか?


 いや待てよ……。


 奴らが私の心の中を覗けるのなら、さっさと罪を認めるほうが得策だ……。

 そうだ! 深く反省し後悔の念を持っているように装うのがいい!


 そして、できる限りの減刑を狙う……。

 それでこの場を切り抜けるんだ!

 それしかない!


 ……


 閻魔だとぉ? 裁判だとぉ!?

 ふざけるな!



 …………

 


 たった今、妻の裁判が終わったようだ……。


 彼女を乗せたリクライニングシートが罰鬼とかいう奴に押されて部屋の端に置かれた。

 そしてそいつが妻にヘルメットを被せようとしている。


 ……つ……次は…………私の番なのか……。



 …………

 


 つ……ついに私が裁かれる番が来た……!


 罰鬼とか呼ばれている奴が猿轡を外し、あのヘルメットを被せてきた。

「ぐぁっ! ……くそっ! ヤメロー! ——」


 ——視界が暗闇に閉ざされる。

 「————ヒっ——!」


 ……な……なんだ! どうした……!?

 真っ暗だぞ!!


 そこかしこを見回すが何も見えない。


 そ……そうか! ……これで頭の中を覗くんだな!? 

 ……分かっているぞ……!

 す、全て……お見通しだ……。


 ……


 ……さあ、何が始まる?

 大丈夫だ!

 ……私ならもう準備オッケーだぞ。

 十分反省し後悔もしてるぞ……!


 ……


「それではこれより被告人の罪状を明示する!」

 こ……これは……裁判官とかぬかしていた連中の声だな……!

「罪状一、……」

 今度は罰鬼とか呼ばれてた奴か……!


 ——って、何が『罪状一』だ!

 鬼の分際で云々カンヌン偉そうに!


 ……


 罪状が読み上げられると関連する記憶から呼び出された動画の再生が始まる。

 頭の中に急に映像が浮かび、父親は一瞬ビクついた。

「——ヒィぃッ——!」


 目を閉じて何かを想像していると言うよりは、大画面のスクリーンで映画を見ているかのように圧倒的で鮮明な映像。

 いやむしろ自分がその場にタイムスリップし、第三者として事の成り行きを見ていると言った感覚だ。

 それだけでなく自由にあたりを見回す事さえできた。


 ……


 ……ん……?

 ……過去の……映像の再生……?


 ははん、そういう事か……。

 こうやって私の記憶を覗いて、ご丁寧にそれを映像として観せて……。

 奴らも、コレを観ることができて、『罪状』とか言ってる訳か……。


 フン、その手には乗らんぞ……。

 そんなもの、いくら見せられても私は動揺せん!

 乗り切ってやる!


 え、閻魔など……チョロいッ!


「……ハア……」

 興奮など……せん……!

「……ハア……ハア……」

 ……快感など……思い起こさぬぞ……。

「……ハアハア……」

 ……む、無視だ!  

 ……無視……


 ……


 ……そうだ、この調子だ……。

 わ、私の強靭な精神力で無心を貫く……!

 もう何を見せられても何も感じないぞ!!

 私の心には反省と後悔しかない……。


 反省と後悔、反省と後悔だ!!


 ……反省と……

 後悔…………


 ……


 ど、どうだ!

 反省と、後悔が、分かるか!?


 み、見えているんだろう?

 心の中が?


 ど、どうなんだ?


 ……


 ……な、何だこいつら……?

 心の中が見えないのか!?

 さっきから、ずっと『罪状うんぬん』言っては、私の記憶の映像をダラダラ再生しやがって!

 何故この訴えを聞かないのだ!

 こんなにも深く反省し、後悔してるというのに!


 心を覗けるのだろう!?

 減刑はどうした!?

 減刑だよ……!


 げん……


 ……


 ……ち、畜生……

「うっ……うぅぅ……」

 ……お、鬼畜生が!


 ……


 ……何で……何でだよ……。

 なぜ私だけが、こんな……。

 不公平だろ? 理不尽だろ。

 わ、私など、小物だろう……?


 ……よ、世の中……

 世の中には、もっと本当に悪いやつが、いっぱい居るだろが〜ッ!!


 ……クソが!

 知らないのか?

 知らないのなら教えてやる……!


 ……例えば……、例えば、ウチの会社の連中だ!


 イジメ、嘲笑、パワハラ……。

 酷い奴らなんだ!


 わたしも……被害者なんだよ〜〜ぅ……

「……ぅう……、うぅぅ……」


 と、特に……あのクソ上司は、異常で……

 クソで……!


 ……憎い……

 あいつら皆んなクソだ……。


 ……憎い!

 あんたらも皆んなクソだ……!


 ……憎い!!

 寄ってたかって弱いものイジメかよーーッ!!


 あぁー、憎い、憎い、憎いっ!!!

 皆んなまとめて、地獄へ堕ちろーッ!!!


 ……


 ————え!? 


 あ、あれ? ……な、なんなんだ!?

 か、身体が熱い!!

「……う……うグゥ……」


 ……


 あ……わわ……、あぁッ……! 

 か、身体が……変わって……いぐ……?


 身体がムクムクと成長し始める。

 全身が痛みと痺れに襲われ、言いようのない苦しみと気持ち悪さが続く。

「い、痛い! ……ウ……ウガガガ……!」


 ……な、何だ……ごれ……?


 同時に筋肉も膨張していき、顔も変形を始める。


「んはぁ……! ぁハァ、んぐっ! ぐぁああ……、ハァ……、うぁわゎあ……」

 が、顔も……。


 ——バンッ!!!

「————ぁガっ!!」


 ヘルメットが砕け散った!


 ……


「……ハアハア……」

 やっど……、成長と変形が……、納まっだようだ……。

「……ハア……」

 恐る恐る顔に手を当て、そこかしこ触ってみる。 


「——い!? ……ヅ、ヅノ……!?」


 ……


「お、鬼……!?


 わ、わだじは……、わだじは……、お、オニ!? …………オニになっで、じまっだのがーーッ!?」


 ……


「ふ……。……フフフ…………、フハハハハ! ハーハッハッハッハッハーっ!」


 ナンダ、ごの筋肉!!?

 ナンダ、ごの身長!!?


 そしで、ごの、前身にみなぎるバワーは、ナンナンダ!!?

 

「ゴ、ゴレが……オレの本性ってがー!?」


 ……


 オ、オレつえぇ……。

 さ、サイキョーなんじゃね!? 

 む、ムゾウできるんじゃね!?


 までよ……?


 イ、イマなら、ゴイヅらに、勝でるんじゃね?


 ゴ、ゴノ、バケモノだちを……。

「イ、イダメズゲ……、ブ、ブヂ、ブヂゴロズ!」


「ジュ、ジュウリンだ! ザ、ザヅリグだ……! ブ……ブハハハハ! ブバーハッハッハッハッハーっ!」


 ……ゾジデ、————喰う!


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