菌ですが?
「もうすぐ勤続4ヶ月ね。」
「はい。い一日が砂漠でランニングしてるみたいに長く感じましたけど、どうやらまだ働けてます。」
「何だか分かったような分からないような表現ね。」
「ちょちょっとポエミーにしてみました。」
「普通に戻した方がいいわよ。それにあなた、長い台詞苦手でしょ?」
「そそそそうでした。」
どうせ長くなるんだから、なんて思っているとコールされる。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、異世界転生して30分。名前はまだありません。」
「ではお客様、ご用件をお伺いします。」
「私、何をすればいいんでしょう。」
「転生時に何か使命を与えられましたか。」
「産めよ増やせよと言われました。」
「では、お子さんを沢山もうけてください。それ以外はお好きに生きて大丈夫なはずですよ。」
「そうな・・・今、分裂しました。」
「あの、何に成られたんでしょうか?」
「何とかバクタ-って言ってました。」
「ババっちいものになりましたね。」
「あっ、また!」
「順調ですね。」
「こんな感触なんですね。ブニューって感じです。」
「良い経験をされていると思いますよ。」
「はい。何だか達成感がありますね。」
「それは幸せな生涯を送れそうですね。」
「でも、これ以外には何もありません。誰かとコミュニケーションも取れませんし。」
「大丈夫です。どんなに長くても一ヶ月くらいで寿命が来ます。」
「でも、何かを成した訳ではないんですよね。」
「沢山の子孫を残しているではありませんか。宿主は病んでしまいますけど。」
「私、病原菌なんでしょうか?」
「まあ、大体は・・・」
「できればビフィズス菌とか納豆菌が良かったです。」
「しかし、よく同意しましたね。」
「こういう経験をした人ってほとんどいないでしょうから。」
いや、絶対いないだろう。
「かつて地球に転生した方がいましたが、現時点で転生最小記録では無いでしょうか。」
「魔王だって倒せる可能性がありますからね。」
「いやあ、そこまでは・・・」
「でも、何か目標が欲しいですね。」
「生きる目的がしっかりしているのですから、後は目標があればということですね。」
「やっぱり、友達100人出来るかな?でしょうか。」
「感染者100人の方が現実的ですね。」
「パンデミックなんか起こしたら、地獄行きなんじゃ無いんですか?」
「いいえ。子孫繁栄は正当な権利ですから、それで地獄行きにはなりません。」
「じゃあ、どしどし増殖、そして、私の存在を誇示すれば。」
「宿主は大いに苦しむことになるでしょう。」
「・・・じゃあ、何か他の目標でも立てた方が良さそうですね。」
「でも、あまり考えている時間はありませんし、それほど複雑なこともできませんよ。」
「進化、とかどうでしょう。」
「そうですね。せっかく単細胞ではあり得ないほどの高度な頭脳を持っているのですから。」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、私に脳細胞は」
「ありません。たった一つの細胞で、全てを賄ってます。」
「すごいですね。」
「それがチートの成せる技です。」
「正に、小さな巨人ですね。」
「小さな菌だと思いますよ。」
「そう言われると、ちょっとガッカリですね。でも、進化してしまえば。」
「何とかバクタ-なら突然変異しやすいですからね。でも、新たな形質を獲得するのは、分裂した相方の方だと思いますよ。」
「じゃあ、私は旧来のままなんですか?」
「はい。しかも、下手すればお客様が今まで増やした子供たちが淘汰される結果になるかも知れません。」
「いいえ、他の子孫が繁栄するなら悔いは無いです。」
「そうですか。では、進化できるように頑張って下さい。」
「方法が分かりませんけど。」
「気合い、じゃないでしょうか。」
「違うと思います。」
「そうですね。具体のイメージを持って分裂するか、分裂のタイミングをフェイント掛けてずらすか。」
「分かりました。とにかく色々試行錯誤してみます。」
「短い生涯、全力で生きて下さい。」
「はい。ありがとうございました。失礼します。」
こうして電話は終わった。
「一瞬で終わると思いましたが、結構長電話になりましたね。」
「はい。彼の生涯のかなりな部分はさっきの電話になったはずです。」
「そうね。そして、唯一の喋り相手でもありますね。」
「彼がこれからの生涯をかけて何を産み出すか、楽しみです。」
「まあ、何とかバクタ-には変わりないでしょうが。」
でも、彼の一歩が世界の大きな変革に繋がるかも知れない。
ほら、魔王をも倒せるピロリ菌とか、格好良くない?




