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理由が浅い

 さて、1月はあっという間に去る。

 これは、正月休みの無い私たちでもそうだ。

 何故だろう。季節感すら薄いのに・・・



「あら、今度はおしるこ?」

「はい。これはたしかに黒いですが、コーヒーほどはお腹が黒くならないんです。」

「せめて餅が入っていれば良かったのにね。」

「残念ながら、自動販売機のヤツは黒一色なんです。最後に豆が缶の底に貼り付いて取れないのも残念です。」

「コーンスープもそうよね。」

 いや、ここはそういうものが恋しくなるほど寒くはないのだが・・・


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界でお嬢様をやっているセシリア・ベルファストと言う者です。」

「セシリア様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私は今、継母に虐げられている令嬢の役をやっているんですが、納得いかないことが多くて不満だらけなんです。何とかなりませんか。」

「申し訳ございません。それはどうにもならないと思います。」

「だって、私が虐げられている理由が、髪と瞳が黒いってだけなのよ。何でも、昔の魔女と同じだそうで。」


「黒髪で黒い瞳の方は珍しいのですか?」

「普通にいるわ。何だったらメイドの中にもいるわ。」

「高貴な身分ではダメとかではないですか?」

「でも迷信よね。」

「そうです。」

「しかも、私に魔力が無いから価値も無いんですって。魔力が無いなら魔女になりようがないのに。」

「まあ、虐げる理由はこじつけでもいいということです。」


「私、身体は8才だけど中身は24なんだから、せめて大人でも納得出来る理由が良かったわ。」

「それは、そちらの大人に訴えていただければと思います。」

「それと、メイド達のイジメも酷いものだけど、みんな喜々としてるの。」

「だいたいは、どのシナリオでもそうですね。しかし、女主人から命令を受けてしまうとメイドはそうせざるを得ないでしょう。」

「イジメを行うこと自体は弱い立場ってことで理解できるし、演出上も必要な描写だと思うわ。でも、仮にも公爵家に雇われるほどの人たちって、きちんとした教育を受けた倫理観を備えた人たちじゃないの?」


「まあ、全体的に知能を低めに設定された世界というのは多いのです。」

「どうしてかしら。」

「そこが物語の重要な部分ではないからです。あくまで序章のおまけ。単なる舞台装置としての役割しか無い部分ですから、虐げられさえすれば、中身は重視されないのです。」

「どうせ死なないと分かってるから、私の方も緊張感無いし。」


「まあ、21世紀人からすれば、そうでしょうね。」

「どうせこの先、イケメン男子が現れて救われるんでしょう?」

「良かったですね。」

「あれも現実味無いのよね。あの顔で真面目な男なんて、一番近付いちゃあダメなタイプじゃない。」

「セシリア様の世界では近付いても大丈夫なはずですよ。」

「嫌よ。下手すりゃお姫様。そうでなくても貴族の夫人になるんでしょう?」

「まあ、なりますね。」

「私はもっと自由に気兼ねなく生きたいの。貴族学校なんかも行きたくないし、貴族の生活なんて堅苦しいだけだし。」


「でも、オシャレとグルメを楽しめますよ。」

「この世界のオシャレって言っても、何かゴテゴテしてるだけで、私の美的感覚に合わないのよねえ。一番カワイイと思ったのは庶民の民族衣装ね。」


「グルメはどうですか?」

「あんなの、300円弁当の方がよっぽど美味しいわよ。見た目だけは綺麗だけど。」

「自動販売機のコーンスープの方がマシとか?」

「前世では1度か2度しか飲んだことなかったけど、あれが今あったら飛びつくわね。」

「では、この先のストーリーを進める気は無いということでしょうか。」

「神様に『絶対幸せになれるからお薦め』なんて言われたけど、3日でウンザリね。IQ70以上が存在しないっていうか。」

「そう言う世界なら、成功して幸せになるのも容易そうですね。」

「だから、予定よりかなり早いけど、屋敷から逃げ出して物語から離脱しようと思ってるの。」


「もう少し体力が付いてからの方がいいのではないですか?」

「あんな食事じゃあ衰弱するだけね。お金は家の者を拝借すれば当面は何とかなるわ。」

「でも、子供が一人というのは危険ですよ。」

「中身24なんだから大丈夫よ。文字だって記憶の中にあるし。」

「そうですか。でも、もしかしたら恋愛モノの世界では無いのかも知れませんね。」

「そういうの分かるの。」


「セシリア様の前世のお名前を教えていただければ。」

「川野沙耶子よ。」

「カワノ様、B-DG0162-2D、『継母に虐げられた元令嬢は、王子に見初められて幸せを掴む』という世界ですね。ベッタベタなラブストーリーです。」

「その辺に転がっていそうですね。」

「確かに、掃いて捨てるほどある世界ですが、その主役は滅多に回ってきませんよ。」

「できれば勇者とか企業経営が良かったわ。」

「王子様向きの性格では無さそうですね。」


「そんなに男って信用できるのかしら。」

「まあ、継母と似たようなレベルではありますね。」

「でしょ。全部薄くて浅いのよ。王子だって優しいだけか腹黒かの2択でしょ?」

「ご令嬢が主役である以上、男性が薄味テンプレなのは仕方ありません。」

「その上、チョロいんですよね。」

「はい。非常に着火し易いので、お嫌な場合は近付かないことをお薦めします。」


「不意に会ってしまう、なんてことないわよね。」

「彼も同い年くらいでしょうからね。王子でもありますし、一人で街をぶらつくなんてことはしないでしょう。」

「その前に別の街に移動してしまえばいいのね。分かったわ。」

「では、旅の無事をお祈りしています。」

「ああ、ありがとう。」

 こうして電話は終わった。


「とても逞しい方でしたね。」

「恋愛世界には全く不向きな方でしたね。」

「でも多いのよ。ああいう物語は好きでも、いざ自分がその世界に行くと適応できない人。」

「そうですね。まあ、あの方はどちらかというと、突然あの世界に送り込まれたみたいですけど。」

「やっぱり、運命は自分で決めないといけませんね。」

「決めたって後悔するお客様は多いですよ。やっぱり、死亡直後は思考力が低下してしまうのでしょうか?」

「あの時点では昂揚感に包まれているのでしょうね。」


 夢から覚めたらロクでも無い現実が待っているのはどこでも同じだ。

 私は缶のスープを買いに行く。


 

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