勇者がやり過ぎて・・・
さて、最近寝不足の後遺症で仕事に熱が入らない。
ということで自分を納得させている。
さっきまた班長に小言をもらったが、いくら何でもあの人よりは働いている自覚はある。
ミチコですら、班長よりは成果を上げているような気がする・・・
などと、世の理不尽を嘆きながら、胸に湧き上がってくるムカムカな不快感と戦っていたらコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、勇者パーティーで賢者をやってますクラムと申します。」
「クラム様ですね。ご用件をお伺いします。」
「私のパーティーのリーダーが強すぎて困ってるのです。」
「勇者様ですよね。」
「はい。」
「それは非常に結構なことではありませんか?」
「何事も過ぎたるは及ばざるがごとしです。とにかく強すぎて何でもやり過ぎてしまうのです。最早、現時点における世界の脅威ですらあります。」
「そんなに強いのですね。」
「強いだけならいいのですが、加減も自重も知らず、学習能力も皆無です。」
「例えば、どのようなことをしでかしたのですか?」
「昨日はワールドブレイクという魔法を発動させ、100km四方の土地を蒸発させてしまいました。」
「よくぞご無事で。」
「ええ。魔王より危険ですよ。毎回この調子で命がけです。」
「まあ、どちらにしても命がけの旅ではあるのでしょうが。」
「圧倒的に勇者と共に旅をする方が危険ですね。」
「それは言えますね。」
「しかも、やらかした後にいつもアレを宣うんです。」
「ああ、イラッとしますよね。」
「しかも学習しないです。常に全開フルパワー。スイッチのオンとオフしかありません。」
「ということは、必殺技を使った相手はラスボスでは無かったのですね。」
「はい。リザードマンです。」
「絶滅しましたね。」
「いやあ、世界中に生息しているらしいですからさすがに絶滅は無いでしょうが、地域個体群くらいは無くなったかも知れませんね。」
「しかし、素晴らしい力ですね。」
「でも、常にあのレベルの攻撃しか出来ません。ファイヤーボールなんて魔法、使えませんし。」
「ああ、ファイナルとかエンドレスとかエターナルが付く名前の技しか使えない感じなのですね。」
「はい。あと、やたらスーパーとかアルティメットが付きますね。」
「一度見てみたいですね。アルティメットファイヤーボール。」
「きっと太陽が落ちてくる勢いですよ。」
「究極の諸刃ぶりです。」
「かなりマイナス寄りですよ。」
「効き過ぎて危険な薬みたいですね。」
「ええ、先日は魔王と一緒に逃げましたよ。安全な所に・・・」
「本末転倒ですね。」
「もちろん、撮り直しです。」
「そりゃそうでしょう。セットも作り直しでしょうからね。」
「せっかく魔王がラスボスらしいセリフを言ったのに、初手の技がそれを根底から覆しますからね。」
「ご苦労様です。」
「他人事みたいに言わないで下さい・・・」
「しかし、制御不能なのは困りましたね。」
「何とかならないでしょうか。」
「システムのバグなら対処しますが、それは単に神の設定ミスでしょうからねえ。無理だと思います。」
「しかし、神がミスをするなんておかしいですし、そちらも認める訳にいかないでしょう?」
「個人的にはどうでもいいですね。神が間違わないなんて、建前に過ぎませんからね。あんなの、間違いだらけの嘘つきです。」
「そんなあ・・・」
「天動説とか、地上は平らだとか、結構いい加減なもんですよ。」
「もしかして本当に神が知らなかったってことは無いですよね。」
「まあ、ちゃんと調べればすぐに分かるんでしょうけど、小さな事は気にしませんしね。」
「そんなもんですか。」
「ですから、勇者をよく教育し、魔術を使わないようにさせるのが一番ですね。」
「かといって、物理攻撃が安全なわけではありませんが。」
「物理攻撃なら、ひのきのぼうとか銅の剣を渡しておけば、武器の性能を超えた攻撃はできないと思います。」
「いや、彼は素手でもかなり危険ですよ。」
「地面を割ってしまいますか。」
「ええ、地下からマグマが噴出してくるくらいにはやってしまいます。」
「そして、あの決め台詞が・・・」
「そうです。本人以外は全て不快指数MAXになります。」
「それはもう、彼を戦場に行かせないくらいしか、手はありませんね。」
「でも、やる気だけは満ちあふれているんですよ。」
「どっからどうみても迷惑ですね。」
「理不尽の塊でもありますし・・・」
「それなら、賢者様の知恵で、魔術を封印した上で力を極小にする魔術か魔道具を開発するか、とても学習能力が発達する薬とかを発明するしかありません。」
「頭がまともになる薬なんて作れませんよ。」
「いいえ。塗り薬はありませんが、飲み薬なら何とかなると思いますよ。」
「いや、あのことわざは、そういう意味では・・・」
「では、頑張って下さい。」
「はい。」
もう、どうしようも無いので終わらせてやった。
「アッハッハ!いるよねえ、ああ言うヤツ。」
「アンタは人のこと言えるの?」
「いや、あーしは失敗を糧に、常に進化し続けてるからね。」
「本質は同じだと思うわ・・・」
「それより、魔女も退院したらしいわね。」
「もちろん、二度も失敗はしないわよね。」
「もちろん。今度は無傷で完勝してやるわ。」
天界にも似たような者はいる。




