強制力の力
さて、12月になった。
昨日は真っ昼間から忘年会をやった。
ミチコはそういう所にはいる。
そして、未成年のはずなのに先輩方のジョッキを奪って誰よりも呑んでた。
もちろん、今日はいない。
「飲み放題で良かったですね。」
「ナターシャさん。会費分、食べられましたか?」
「どうでしょう。私はお酒が好きじゃ無いので、食べ物で果たして5000円分も食べられたか・・・」
「そうねえ。多分、食べ物だけじゃあ無理でしょうね。」
「まあ、班長の悪口で元は取ったと思いますから。」
と、ここで本日最初のコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、ラブコメ世界で高校生をやってます、緒方雄馬と申します。よろしくお願いします。」
「オガタ様ですね。ご用件をお伺いします。」
「私、ラブコメ世界でヒロインのお相手をしているんですけど、本命の女子とどうしても仲良くなれないんです。」
「ヒロインとは別の女性が好きなのですね。」
「はい。所謂負けヒロインポジの子なんですけど、どうしてもあと一歩が上手く行かないんです。」
「通常、そういった世界では大まかなストーリーはあれど、ある程度の自由は利くはずなんですけど、強制力が高めに設定されているようですね。」
「そうなんですか。どういった場合は絶対にストーリーをひっくり返すことはできないのでしょうか?」
「失礼ですが、オガタ様の前世のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「小瀬木遼です。」
「コセギ様、C-BU2012-2D、『王道ラブコメ決定版、これしかない!純愛ラブコメ高校』という世界ですね。」
「これしかないってところに、絶望感を感じます。」
「そうですね。ヒロインは最初から好感度MAXの設定で、ライバルの方はどちらかというと、貴方への好感度が低い状態でのスタートですね。」
「そうなんですよ。でも彼女、とてもひたむきで家族のために懸命に生きてるんです。そんな彼女を放っておけないんです。」
「強制力の設定がSなので、一応はストーリーがある世界です。コセギ様はストーリーをご存じなのですか?」
「いいえ。詳細は知りませんが、神様に大まかな流れは聞いています。」
「そうなのですね。」
「ヒロインは初対面の時からやたら親切で目がウルウルしてましたんで、すぐに分かりました。負けインはヒロインしか親しい人がいませんからすぐに分かりました。」
「それで、ヒロインには惹かれなかったのですね。」
「まあ、いい子ではあるんです。でも、あのルックスと性格なら、わざわざ私で無くともいくらでもお相手はいます。でも、もう一人の彼女は、今すぐ誰かが救いの手を差し伸べないと壊れてしまいかねないくらい、悲惨なんです。」
「でも、仲良くなれないと。」
「何故か、彼女に何かしようとすると、必ず邪魔が入るんです。こないだ、彼女にプレゼントを買おうとして店に入った途端、強盗まで入って来ました。」
「随分過激な嫌がらせですね。」
「クラスメイトに呼び止められるのはいつものことで、大きな事をしようとすると大きな邪魔が入るみたいです。」
「まあ、システム上、浮気はできなさそうですものね。」
「やはり、浮気判定なのですか。」
「まあ、王道ですからね。」
「随分図太い王道ですね。」
「はい。世界の果てまで全て道とお考え下さい。」
「どうすればいいんでしょう。」
「ヒロインと二人で彼女を救う物語でしょうからね。それに、ヒロインが主役である以上、彼女がご友人を救わないと王道とは呼べません。」
「私って、ただのモブに等しいのですね。」
「いいえ。世界の中心に立っている女性の想い人です。ただ、相手が悪すぎましたね。」
「のっけから隣にラスボスが居る訳ですからね。」
「友達だって、みんな表面上の付き合い以上になりません。」
「全員モブですからね。」
「深みがありません。」
「モブのキャラをいちいち掘り起こしていては、3年間ではとてもシナリオを消化できません。」
「何か、青春らしい展開にならないんですけど。」
「恋はできます。」
「ラスボス相手ですけど・・・」
「完全無欠のヒロインです。」
「あの~、これってバッドエンドはありますか。」
「ありませんね。最初から成功が約束されています。」
「でも、セリフは自由に言えますが。」
「何を言っても決まったシナリオどおりにしか進みませんけどね。」
「嫌いと言っても好きになってくれるのですね。」
「まあ、大概何をしても進みますよ。」
「犯罪行為をしても大丈夫なのですか?」
「エンディングまでは逮捕されないでしょう。ただし、卒業後すぐに警察に逮捕されるでしょうが。」
「ああ、そういうこと。でも、それなら卒業後は彼女と仲良く出来るかも。」
「浮気してラスボス相手に修羅場を演じて・・・」
「無理かも知れないですね。」
「でも、ヒロインのことだって、嫌いじゃ無いのでしょう?」
「もちろんです。とても仲がいいですよ。でも、彼女なら他に引く手数多です。負けインの方は、誰も手を差し伸べる人がいないんです。」
「そうなのですね。でも、エンディングまでは絶対無理ですし、エンディング後も慎重に様子を見ていて下さい。強制力の働かなくなった状態で、彼女たちの運命がどう変化するかは分かりません。立場が逆転してしまう可能性だってあります。」
「そうですか。王道ラブコメの世界なのに、シナリオ通りに進むのは辛いですね。」
「そうですね。特に、ヒロイン以外を推す方にとっては切ないものですね。」
「でも、仕組みが分かった以上、もがいてみますよ。」
「頑張って下さい。」
「ありがとうございます。」
こうして電話は終わった。
「ヒロインより人気のあるキャラもいますから、こういうことも起きますよね。」
「そうですね。しかも負け確ですから、余計に同情票が入ります。」
「素直にヒロインが推せる方にとっては最高の世界なんですけど。」
「そうですわね。」
「せめて、年末年始は三人で過ごして欲しいなと思ってしまいました。」
「高校三年生でなければ、きっと大丈夫ですよ。」
外では音も無く雪が降る・・・




