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報復が過ぎる

 さて、この季節は食べ物が美味しい季節だ。だから私は「豆腐のヨーグルト掛け、松茸の香りを沿えて」を食べている。

ゴージャスな雰囲気を楽しみつつ、お腹の黒みまで浄化してしまう珠玉の逸品である。


「センパ~イ、そんなの食べて美味しいんです~?」

「意外にイケるわよ。まあ、あんたんちののり弁の方が美味しいのは確かだけど。」

「うちはトリ弁も自慢なんだけどさあ。」

「養鶏場の娘にそれ言うかなあ。」

 そこで電話が鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界でメイドをやってますケリーといいます。」

「ケリー様ですね。ご用件をお伺いします。」

「はい。私の悩みは主人であるお嬢様のことなんですけど、かなり激しい性格で困っているんです。」


「具体的にはどのような感じなのですか?」

「はい。お嬢様も転生者で元公爵家令嬢だった方です。この世界はお嬢様曰く追放ざまぁの世界で、王子との婚約破棄後に公爵家を出され、現在は隣国を本拠地に絶賛報復中なのですが、それが少しばかり度が過ぎているといいますか。」


「ああ、時々いますよね。過剰防衛のサイコパス。」

「平素はとてもお優しく、下々の者に対しても慈悲深い御方なのですが。」

「だいたいそういうものですよ。その加減を知らないのです。それで、実際に行ったざまぁの実態はどのようなものですか。」

「はい。婚約破棄前に、お嬢様の足を引っかけたさる侯爵家のご令嬢は両足を失いました。ヒロインの取り巻きだった宰相のご令息は魔法でIQ4にされました。」

「IQ4だと会話もできませんね。」

「会話どころか、いつもヨダレまみれです。騎士団長の御子息は精神魔法で刃物恐怖症にされましたし、魔術師団長の御子息はとても恥ずかしい口上を叫んだ後でないと、魔法が詠唱できない身体にされてしまいました。」


「その方々はご令嬢にどのような害を与えたのですか?」

「いつもお嬢様を罵倒し、威嚇されていましたが、それだけです。」

「婚約者とヒロインはどうなったのですか?」

「お楽しみは最後とのことです。それと・・・」

「まだやらかしているのですか?」

「はい。お嬢様はお父上である公爵様を魔法で操り、公爵邸を爆破されました。ご家族から家人まで全滅です。」

「それは思い切りましたね。それで、最終的にはどこまで報復するつもりなのでしょうか。」

「はい。お嬢様を馬鹿にした王国民に制裁を加えるため、今は隣国の皇子をけしかけている最中です。」


「戦争をするつもりなんですね。」

「王国ごと滅亡させて、元婚約者もヒロインも破滅させるようです。」

「しかし、都の住民ならともかく、そんな噂と無縁な辺鄙な所に住む国民も、昨日生まれた赤ちゃんも巻き添えをくいますよ。」

「そこまでは何もおっしゃっておりませんでした。」


「まあ、少しばかりやり過ぎが酷いですね。」

「何とかなりませんでしょうか。」

「思いとどまれば一番なのですが、元婚約者とヒロインの没落については、譲ってもらえる可能性はありません。」

「王都の市民も無理です。」

「では、王都までは瞬時に制圧し、両国の被害が出ない作戦を立案する必要がありますね。」

「でも、お嬢様はそのような策を好みません。必ず道中の臣民に報復します。」

「そこは矛盾を衝くしか無いですね。」

「矛盾、ですか?」

「例えば、無くなった公爵家の家人の中には、ご令嬢に好意的な方もおられたのでは無いですか?」


「お嬢様は、自分の追放を防げなかった者は同罪だとおっしゃってました。」

「一メイドが公爵の判断を覆せる訳ないじゃないですか。庭師やその子供に何ができるというのですか。それもみんな亡くなったのでしょう?」

「そうですね。」

「その子の親戚は?歩けなくなった侯爵令嬢のご家族は?何か落ち度があったのでしょうか。」

「確かに・・・」

「市民だってそうです。限定的な情報しか与えられていない立場ですし、罵声は浴びせられても実害は無かったですよね。」


「罵声は実害ではありませんか?」

「お二人とも、元21世紀人なんですよね。そんなことでいちいち国民を虐殺していては、総理大臣なんてできませんよ。」

「確かにそうです。」

「それに、次に隣国の民が同じように扇動された場合、次は隣国を滅ぼしますか?」

「どうなんでしょう・・・」

「何万、何十万の命をすり潰すだけの価値が、一公爵令嬢にあるとでも?」

「確かにそうですね・・・」

「今は大きな力を得て、全能感に浸っているのでしょうが、振るった力は形を変えていつか必ず返って来ますよ。」

「そうですね。」


「あなたの力で無理でも、皇子の協力があれば何とか変えられます。」

「正当と過当の線引きは、やはり返すものの大きさですか?」

「そうですね。やり過ぎは後悔を超えて、報復に対する報復を呼びます。例え報復相手が死んでも、その周辺は黙っていないものですよ。ありますか。その生涯を通じて血で血を洗い流し続ける気概が。」

「私にはありません。」

「でも、逃げればあなたも裏切り者扱いです。ならば今、止めるしかありません。」


「分かりました。無理なら穏便に寿退社でもします。」

「そうですね。成否は周囲の人間次第です。」

「ありがとうございます。命がけで頑張ってみます。」

「主人に敵認定されないように気を付けて下さい。」

「はい。それでは失礼します。」

 こうして電話は終わった。



「あ~しもやっちゃうなあ。肩が触れたらあの世に送ってやんよ。」 

「アンタはサイコじゃなくバーサーカーだけどね。」

「違うのかなあ~。」

「危険性は同レベルね。」

「でも、いいライバルになりそうだった。」

「アンタ、半年後は研修でそこに行くかも知れないんだからね。」

「あーしが行って滅ぼしちゃうような所はないっしょ。」

「そう祈ってるわ。」


 ミチコの派遣先に生きる皆さん。ご愁傷様です。


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