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私の理想の物語

 どうやら異世界転生者は、来世での一発逆転を狙ったところを詐欺集団に引っかかった被害者達ということが良く分かったところで、次のコールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私は異世界転生して2年になる、ジュリエット・アッシュフォードといいます。」

「ジュリエット様ですね。ご用件をお伺いします。」


「保湿美容液の作り方を教えていただけないでしょうか?」

「はい。それは構いませんが、そこは中世ヨーロッパ風世界ですか?」

「そうです。私は前世で投稿サイトに自分の作品を投稿していた者で、転生時に神様にお願いして、自作小説の世界に転生させてもらったのです。」

「ということは、オーダーメイドの世界ですね。」

「そうなるのですか?」

「はい。サービス精神というか、好奇心旺盛な神なら、そういった要望にも応えてくれるのでしょうね。」


「では、私は幸運だったのですね。」

「しかし、自作小説の世界では、ストーリーを知っているだけに新鮮味が無いのではありませんか。」

「確かにそうかもしれませんが、私はヒロインですし、ハッピーエンドなので安全に幸せになります。」

「そうですね。恋愛モノですか?」

「はい。タイトルは『追放された令嬢、知識チートで成功と王子をゲットする』です。」

「随分分かりやすいタイトル、ありがとうございます。それにしても欲張りさんですね。」

「可哀相なヒロインのサクセスストーリーですから、できるだけてんこ盛りにしてみました。」


「では、料理で王子の胃袋を掴む感じなんですか。」

「小説ではそうなのですが、肝心の私は料理が苦手です。いつもレンチンでしたから。」

「初手で躓いてますね。」

「まあ、料理は修行して何とかします。でも、最も利益を生む美容分野が問題なのです。」

「でも、実際に小説を執筆されたのなら、その当たりも勉強されたのでは?」

「はい。しかし暗記できるほど習熟していた訳ではありませんし、難しい原材料の名前までは覚えていません。その原材料の製造方法も・・・」


「そうですか。しかし、私がここで口頭でお伝えしても、きっと暗記なんてできないと思いますよ。」

「紙に書きます。」

「そうですか。では、一般的な保湿クリームですが、ヒアルロン酸、スクワラン、セラミド、アルガンオイル、シアバター、蜂蜜と水で構成されます。」

「ああ、もう無理そうです。」

「諦めますか?」


「いえ、では、ヒアルロン酸の作り方を教えて下さい。」

「まず、ニワトリのトサカを60℃に熱したパパイヤ酵素に6時間浸けた後、ミンチ状にして下さい。その肉を1時間程度沸騰したお湯で煮込み、ここに複合蛋白質脂肪分解酵素を加えて4時間ほど寝かせます。複合タンパク質脂肪分解酵素は原材料から余分な」

「すいません。もう結構です。」

「乳酸菌を使った方法もありますが、諦めますか?」

「はい。専門家でないと難しいのですね。」

「専門家も一日にして成らず、ですよ。研究を続ければ10年は無理で」

「いえ、この時代の花の命は短いんです。」

「それを長くするのが目的では?」

「それはそうなんですが、私が枯れた後では意味が無いんです。」

「まあ、王子様も王に即位してるでしょうしね。」


「私の考えたストーリーなのに、なかなか上手く行かないんですね。」

「作中ではどうやって作ってたんです?」

「はい。ヒロインの前世の知識でちゃちゃっと。」

「それは大きな落とし穴でしたね。」

「はい。ただの女子大生でしたから。」


「それで、この先はどういう展開を迎えるのですか?」

「はい。今は私を虐げてきた実家を飛び出したところです。これから事業で成功して貴族や王家と懇意になり、王子様と知り合う流れでした。」

「魔法は無い世界ですか?」

「はい。魔法で何でも叶う世界では、知識チートなんてすぐに模倣されると考え、設定に入れませんでした。」

「ヒロインをチートてんこ盛りにすればよかったのでは?」

「それでは虐げてもらえませんからね。」

「まあ、化粧品や料理以外にも知識チートが活かせる分野は無限に広がってますからね。」

「でも、何一つ作り方を知らないんです。」

「アイデア提供でもいいでしょうし、形の無いもの、例えばイベントとか執筆、芸術の世界だってありますよ。」


「何か考えて見ます。それと、私すら知らない設定がたくさんあるのですが・・・」

「それはそうでしょう。ストーリーライン以外の要素だって、その世界を構築するために存在しますから。」

「そうですね。でも、王子がイケメンじゃなかったです。」

「イケメン設定だったのでしょう?」

「はい。この時代においてはイケメンのようです。」

「せめて、コミカライズ作品であればよかったですね。」

「はい。とんだ落とし穴です。」

「では、王子狙いをやめて、他のイケメンにアタックされてはいかがでしょう。」

「でも、せめて伯爵以上でないと、実家にざまぁできません。」

「ご実家は子爵家でしたか。」

「はい。」

「まあ、とにかく何か知識チートができる分野を探し、そこで大儲けすることが先決です。ジュリエット様の物語は、まだ始まったばかりですから。」


「分かりました。何か成功するための打開策を考えて見ます。」

「もう、大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございました。」

「では、ジュリエット様のご健勝をお祈りしております。」

「失礼しました。」

 こうして電話は終わる。



「オーダーメイド世界でも上手く行かないものなんですねえ。」

「学園モノか聖女なんかの特殊能力持ちなら上手くいったでしょうにね。」

「でも、大まかな流れを知っているだけでアドバンテージです。」

「それはそうですね。思い描いたものとは違う道に入ったとしても。」

「そうであることを祈ってます。」


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