時の旅人
さて、10月になった。そう、私の懲役もやっと残り半分になったのである。
いやまあ、まだ半分とも言えなくはないが、それでも嬉しい。
「あら、今日はご機嫌ね。」
「分かりますか?これからどんどん乗っていきますよ。」
「じゃあ、来年は主任の昇格試験を受けてみてはいかがかしら。席は空いてる訳だし。」
そう、他の先輩方も受けない。
ここは昇進を巡っての足の引っ張り合いも、手柄の横取りによる査定アップ狙いとも無縁な世界だ。
ただし、傷の舐めあいはある。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、時空トラベラーをしてますジョン・ファクターと言います。初めまして。」
「こちらこそ初めまして。しかし、時空トラベルをしている方は初めてですね。」
「そうでしょう。私は転生時にタイムマシンを神様からいただき、いろんな時代を旅してきたんですけど、故障してしまって困ってるんです。どうにかなりませんか。」
全知全能め、ポンコツを渡しやがって・・・
「大変申し訳ございませんが、形あるもの、いつかは壊れるものでございます。恐らく修復はできないかと。」
「この世界に閉じ込められてしまったのですか・・・」
「そうなりますね。ところで、今はどちらに?」
「江戸におります。」
よりにもよってそこかい・・・
「それは大変ですね。」
「どうにかなりませんか。」
「今、西暦で言えば何年でしょうか。」
「1718年です。」
「絶賛鎖国中ですね。長崎にいけば、あるいは出国できるかも知れませんね。」
「あまりに遠いです。歩くのは無理ですし、タイムマシンを放っていいのでしょうか。」
「収納できない大きさなのですか?」
「はい。乗り物タイプです。」
「では、やむを得ませんね。そうやって捨てられたオーパーツはいつの時代でもあるものです。それが一つ増えるだけです。それより、お客様の命を優先して下さい。」
「分かりました。でも、お金持ってません。」
「何か他の時代で手に入れた物でも売ってお金を工面するしか無いですね。」
「そうですね。しかし困りました・・・」
「それにしても、タイムマシンなんて、よく思い付きましたね。」
「私は前世で23世紀に生きていたんですが、タイムマシンなんて無かったんで、憧れだったんです。」
「それで色々行ったと。」
「はい。フランス革命もこの目で見ましたし、ジョージ・ワシントンには直接会いましたよ。」
「それは良かったですね。」
「それで、もうちょっと足を伸ばしてエキゾチックな気分を味わおうとしたんですが。」
「故障してしまったと。」
「英語が通じないのはほとほと困ってます。」
「前世は日本人では無かったんですね。」
「はい。アメリカ人です。」
「まあ、とにかく日本国外に出てしまえば何とかなると思いますよ。」
「これからどうしたらいいのでしょう。」
「23世紀で培った知識を活かして大金持ちになるしかありませんね。」
「ならば、アメリカに渡るのが一番ですね。」
「問題は、アメリカが遠いことです。」
「香港かマニラに行けば、アメリカ人はいるでしょうか?」
「まだアメリカが独立する前です。」
「そうでした。」
「それでも、船員として働きながらヨーロッパを目指すことはできるのではないでしょうか。ロンドンにたどり着いてしまえばこっちのものです。」
「きっと古語なんでしょうね。」
「その上、アメリカンな英語ではありませんからね。」
「まあ、見た目は同じでしょうから頑張ってみますよ。」
「そこで大活躍する訳ですね。」
「前世は証券マンだったのですが、役に立ちますかねえ。」
「その時代ならエンジニアか医者が良かったですね。でも、教師とか予言者にはなれそうですね。」
「未来を教えちゃっていいのでしょうか?」
「小説の世界に転生した方は、比較的簡単にバラしちゃってるじゃないですか。」
「ああ、そういった物語もありましたね。」
「自分が直接関与できない未来の出来事を知っていたとしても、実際は何も出来ませんよ。それがたとえ大統領や王であったとしても。」
「そんなものですか。」
「はい。社会の流れなんて、そんな生半可な力で動かせる物ではありませんので、ご安心下さい。」
「分かりました。では、何とかこの時代を生き延びてみます。」
「はい。ジョン様に神の祝福がちゃんとした形でありますように。」
「ああ、タイムマシンは神がくれた物だったのに・・・」
「では、お気を付けて。」
「はい。ありがとうございました。」
こうして電話は終わった。
「神の作った物なのに、壊れてしまいましたのね。」
「神でも人でも、知らない方の親切なんて、疑って掛かるくらいが丁度良いのかも知れませんね。」
「でも、神はともかく人は親切な方が多いと思いますわ。」
「そうでしたね。とくにおばあちゃんは信頼度抜群です。」
「でも、マシンよりチート能力の方が壊れないからいいのですね。」
「チートだって壊れてますわよ?」
「そうでした。元々壊れてましたね。」
「大事なのは、目の前に居る神が何を専門としている神かを知っておくことですね。」
「副班長。貧乏神の専門って何でしょう。」
「貧乏ね。」
神だってガチャで決まる。
そう考えると異世界転生を断るというのが最適解なんだと思う。




