手違い
「飛べない天使は、天使以下だ。」
つい、さっきのお客さんの言葉が口を突いて出てしまう。
いやいや、翼は無くてもバイクはある・・・ってこれ、ミチコだな。
なんて思ってると、次のコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「もしもし。私は異世界でやり直し令嬢をやってます、クリスティーナ・パルケットと申しますわ。」
「クリスティーナ様ですね。やり直しということは、悪役令嬢か何かですか?」
「悪役では無いと思うのですが、婚約者と妹に嵌められて処刑された者です。」
「それでは、ご用件をお伺いします。」
「私、先ほども申しましたとおり、一度処刑され、8年前にタイムリープしたのですが、私だけ8年前の年齢なんです。」
「お客様だけ?ですか。」
「はい。他の知り合いは全てあの時の年齢のままなんです。妹も年上になってしまいました。これって手違いか何かでしょうか。」
「バグの可能性がありますね。お客様の前世でのお名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「夏川夢乃です。」
「ナツカワ様、B-UX9051、『義妹に裏切られた令嬢の華麗な復讐劇』の世界ですね。」
「華麗、なんですね・・・」
「華麗な復讐はできそうにもありませんね。」
「妹が姉になりましたからね。でも、屋敷では私が姉と呼ばれています。」
「それは間違い無くバグですね。担当部署に報告し、すぐに周正を掛けますので、ご不便をおかけして大変申し訳ございませんが、しばらくお時間を頂戴できればと思います。誠に申し訳ありませんでした。」
「いえ、その、バグと分かっただけで安心しましたので。」
「では、遅くとも一ヶ月以内には原因を突き止め、正常化するよう努めます。」
「いえ、待って下さい。」
「他にもお困り事が?」
「いいえ。これがバグなら修正しないといけないものなのでしょうか?」
「でも、姉さんと呼ばれるのは不便ではありませんか?」
「まあ、周囲からは不思議ちゃん家族認定されていますが、このまま続けて問題が無いのであれば、私はこのままがいいのです。」
「でも、元婚約者は8才上ですよね。」
「はい。私が8才で彼が16。義妹が14です。」
「婚約者候補からは完全に外れますが。」
「はい。他にも、既に物故した実母の扱いとか、おかしなところは放置されていますが、それでもいいのです。」
「その方がメリットが大きいのですか。」
「はい。元婚約者は第一王子ですが、とんでもない性悪で、二度と会わずに済むならそうしたいですし、義妹もここまで年が離れればライバル視しなくなると思うのです。」
「しかし、バグを放置すると後で取り返しの付かない事態になる恐れがあります。」
「それならそれでもいいです。どうせ一度死んだ身ですし。」
「分かりました。それでは、お客様のご希望に沿いたいと思います。」
「ありがとうございます。それと、これから起こりうるバグの影響って、分かる者なんですか?」
「いいえ。もしかしたらエンジニアなら傾向など分かるかも知れませんが、私では何とも。今は、どのような状況ですか?」
「はい。今は8才で婚約者はいません。前の世界では10才で婚約しました。」
「義妹さんとの関係はどうですか?」
「今のところ、顔を合わせることもありませんね。前は私物を奪われ続けたのですが、今さら子供用を奪っても意味ないですから。」
「奪うのが目的なら、取りに来るかも知れませんね。」
「むしろ、私の物が今後、お下がりオンリーになりそうです。それを見て悦に入るパターンなら考えられます。」
「王子とは、まだ出会ってないですよね。」
「今後、義妹が婚約者になれば何度かは会うことになると思いますが、他にも候補者はいますからね。」
「義妹さんの関心もそちらに移るかもしれませんね。」
「そう願ってます。」
「他のご家族との関係はどうですか?」
「父は相変わらず妹にべったりで、義母は無視ですね。
「後継者は?」
「前回も遠縁から養子を迎える予定でしたので、今回もそうするかと。義妹が王子を射止められない場合は婿を取るかと。」
「あなたに婿入り、ということは無いのですね。」
「義母が反対すると思います。」
「では、今後の身の振りが一番の懸案になりますね。」
「はい。別に平民でも構いませんから、できるだけ早く家を出たいですね。」
「家長からどこかに嫁ぐよう、指示があるのではないでしょうか。」
「前回だって王子と婚約しましたものね。他の同年代の子供のことは、改めて調べたいと思います。」
「それがいいでしょう。不自然な事が起きれば、それがバグの影響ですし、その傾向を掴めば、先の事が予測できるかも知れませんね。」
「そうですね。タイムリープしたお陰で、さらに良い条件でやり直せそうです。」
「そうですか。それでは、クリスティーナ様のご健勝をお祈りしております。」
「ご丁寧にありがとうございました。失礼します。」
こうして電話は終わった。
「しかし、ある日突然、姉が妹になっても気付かないものなんですね。」
「間違い無くバグの影響ですね。記憶の消去は行われているのでしょう。」
「それでも、脳の機能が正常なら、気づきますよね。」
「でも、そこまでバグってる方が、やりやすいかも知れません。」
「しかも、彼女は復讐なんてしなさそうですし。」
「ええ、最終的に彼女が見る風景は、どんなものなのでしょうね。」
過酷な世を生きる彼女に、せめて幸あれと願う。




