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紅のブユ

 さて、私はこの2年半でそれなりに強くなった気がする。

 主に精神面であるが、班長や副班長に対抗できるだけの力を得ることが出来たと思っている。

 いや、思ってるだけなんだけど。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「俺は異世界でブユとして空を友としている、マルコ・ロッシだ。」

「マルコ様ですね。それにしても蚋ってまた、珍しいものになりましたね。」

「ああ、人の世を倦んでな。今ではこれが俺の本当の姿よ。」

 人の世を倦むなら、わざわざ前世の記憶なんて引き継がなきゃよかったのでは?


「でも、他にも選択肢はいろいろあったのではないでしょうか?」

「いや、ブユなら人にリベンジできる。今ではみんな俺のことを紅のブユと呼ぶ。」

「あの、耳の大きなネズミほどではないにしても、あそこもかなり権利関係が厳しいと思うのですが。」

「いや、全然違うだろ。あっちはブタ、こっちはブユだ。」

「でも、ブユって黒っぽかったですよね。」

「獲物の血で紅に染まってるぜ。」


「それで、普段はどのようなことをされているのですか?」

「仲間と編隊を組んで人を襲ったり、ライバルのモスキートを撃ち払ったり、空賊らしく太く短くやってるぜ。」


「やはり、蚊はライバルなんですね。」

「ああ、しかし飛行技術は俺に敵わないし、奴はエンジンがな。」

「とても羽音が大きいですものね。」

「ああ、それにヤツの強度じゃあ機体がしなって速度が出ねえ。まあ、お互い紙装甲だから、人間様の攻撃が当たれば一発だがな。」

「でも、ライバルの出すあの音はなかなかいい演出です。ドイツの爆撃機だって、音で敵を恐怖に叩き落としてました。」

「スツーカだな。だが、モスキートの方は恐怖じゃなく相手の闘志を湧き立たせるから、逆効果だ。」

「そうとも言えますね。でも、どうせならアブであれば、もっと防御力が高かったと思います。」

「いや、あんな図体の頑丈さだけに頼る臆病者は、大人しく果物でもかじってりゃいいのさ。」


「しかし、リスキーな生き方ですね。」

「男ってのはそういうもんだぜ。浪漫を追い、仲間と共に大空を駆け巡る。それこそ生きる醍醐味よ。」

「大空っていうほど高くないですが。」

「飛ばねえ虫はただの虫だ。」

「飛ぶ虫も普通の虫だと思います。」

「お嬢さん、空はいいぜ。」

 知ってる。


「ところで、ご用件は何でしたっけ。」

「そろそろ翼がガタついてきてな。どっかいいメンテができる工場知らねえか?」

「ああ、劇中にありましたね。」

「できれば人間じゃない経営者のところで。」

「ただ単に、太く短かく生きた結果じゃ無いですか?」

「ただ寿命で朽ちるなんて御免だぜ。どうせなら、最後に一花咲かせて、華々しく仲間の元へ行きてえもんだな。」

「すごく格好いいです。やってることが衝動に基づく吸血でなければ。」

「いや、カッコイイとは、こういうことさ。」

 何か、違う・・・


「まあ、昆虫の翼を直せる工場はありませんので、工夫して乗りこなして下さい。いいパイロットなんでしょ。」

「ああ、大事なのはインスピレーションだ。」

「では、お元気で。」

「アデュー、マドモアゼル。」



「今の、中学二年生?」

「いえ、中年おじです。」

「かなりの重症患者とお見受けしましたわ。」

「90年代はあれでも良かったんだと思います。」

「数ある作品の中から、あれを選ぶんですものね。」

「女には絶対分からない心理です。」

「ブユは男性でも・・・」


 人間、ロマンを追い過ぎると、碌なことにならないのは古今からの理だ。

 でもあいつら、寿命短かったよねえ・・・


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