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異世界レーサー

 さて、出勤すると久しぶりに班長に呼び出された。

 最近、無かったんだけどなあ。

どうせ可愛くない後輩のことだろうけど。



「今日もミチコ君は欠勤かね。」

「私に聞かれても分かりません。」

「困るんだよなあ。私の査定にも響く。」

「班長、頑張ってください。」


「だいたい、指導役がしっかりしていないのが原因だと思うんだけどねえ。」

「では、責任を取って辞職します。」

「そういうことじゃないんだよ。」

「班長、それはセクハラでパワハラです。」

「どこがだね?」

「その嫌らしい目つきと立場を利用して徐々に追い詰める口調です。幼女趣味があるんですね。いかがわしいです。不潔極まりないです。最低最悪の上司です。」

「分かった分かった。席に戻りなさい。」


 あの程度、苦情処理を生業にしている者からすれば楽勝だ。大声を出せばだいたい解決する。

 なんて思ってたらコールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界でF1パイロットをしてます。マエストロ・バルディリオスです。」

「マエストロ様ですね。お名前は本名ですか?」

「いいえ。本名はバレストロですが、登録名といいますか、芸名といいますか、一般的にはマエストロと呼ばれてます。」


「それに、さすがにF1レーサーの方は初めてです。」

「そうでしょう。異世界転生数あれど、さすがにここを狙った人はいないですよね。」

「はい。まさかここにも人がいたのかって感じです。」

「他に、誰もなったことのない職業ってあるんですか?」

「少なくとも、漁師と木こり、トリケラトプスと苦情処理になった方はいませんね。」

「恐竜無双って聞いた事ないですもんね。」

「はい。はえ縄無双もいませんね。」

「異世界に行ってまで苦情処理したい人なんていないでしょうからね。」

 いないのか・・・


「それで、どのようなお困りごとで?」

「はい。チームが今年不調で勝てないんです。どうしたらいいでしょう。」

「マエストロは何かチートをお持ちなのですか?」

「はい。身体強化と超絶反射神経、超集中を持ってますので、ドライバーとしては誰にも負けない自信があります。」


「でも、チームプレイですので、ドライバーの実力だけでは勝てない世界ですね。」

「はい。今年のマシンは失敗作の呼び声が高いですし、ピット作業もミス連発で、ドライバーの腕だけではどうにもならない感じです。」

「それは移籍するしかありませんね。」

「去年までは最強のチームだったんですけどね。チーフエンジニアが抜けた途端、この体たらくです。」


「来年度以降の展望も開けてないのですよね。」

「そうですね。人事も入れ替えて、それなりには頑張ってるんですけどね。」

「レースではどの位の位置を走っておられるのですか?」

「だいたい10番手くらいです。予選でもQ3にはほぼ進出できませんね。」


「それではポイント獲得ギリギリのラインですね。」

「はい。今年はランキング6位です。」

「マエストロなのに・・・」

「今年のマシンは走るエスカルゴって言われてます。」

「オシャレな名前ですね。」

「後続車に美味しそうに料理されてますよ。」


「でも、チーム批判はダメですよ。」

「はい。気を付けます。」

「せめて水属性魔法とかあれば、ライバルをスリップさせられたのですけどね。」

「神様に、魔法の無い世界だから与えられないって言われました。」

「でも、身体強化はチートすぎますよ。」

「ええ、力みすぎてステアリングをひねり潰したことがあります。」

「スタート前にライバルの車を蹴飛ばせばいいのでは?」

「スポーツマンシップ皆無ですね。」

「でも、勝つためには何でもするのが一流アスリートですよ。」

「風評被害が出ますから止めて下さい。それに罰金が科せられますよ。」


「それなら移籍しかありませんね。」

「私の能力だけではどうにもなりませんか。」

「チーム戦ですからね。ドライバー、マシン、スタッフの全てが噛み合わないと勝てません。」

「そうですよね。じゃあ、今シーズンは諦めた方がいいのでしょうか。」

「それでも、いいチームに移れるよう、全力で頑張って下さい。」

「そうですね。ファンの応援もあることですし。」


「もし、上手く行かない場合は、苦情処理など、初物に転職することもお考え下さい。」

「私がコールセンター勤めになったら、みんなビックリでしょうね。」

「きっと、電話が鳴り止まないと思います。」

「まあ、引退後は考えて見ますよ。」

「では、残りのレースもご活躍されることをお祈りしております。」

「はい。ありがとうございました。」



「それにしても、どこにでも転生者がいるのもですね。」

「はい。人跡未踏のジャングルの中で、いきなり中国人に会ったような感じです。」

「まあ確かに、あれだけいれば、どこにでもいそうですけどね。」

「ところで、ミチコはどこ行ったんでしょう。」

「さすがに、あんな天使は少ないですから、探すのは容易ではないですね。」


 でもきっと、今日もどこかで爆音を轟かせているんだろう。

 せめて一般道じゃなくてサーキット行けやって思うけど・・・


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