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チートのはずなのに

 またミチコはどこかにバックレてしまった。

 他の職員ならトイレか給湯室だから、すぐに帰ってくるだろうけど、きっとミチコはバックレだ。



「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界で料理人をやってますコリーナと申します。」

「コリーナ様ですね。ご用件をお伺いします。」

「私、異世界で成功したくて料理人になったのですが、上手く行きません。」

 まだいたのか。料理チート希望者・・・


「お客様のお住まいは、中世でしょうか。」

「はい。ここで和食を広めたかったのですが、どうも皆さんのお口に合わないようで。」

 そりゃそうだ。21世紀ではそこそこ知られるようになった和食だが、それ以前は決して世界的な評価を受けていた訳では無い。


「中世の方の慣れ親しんだ味と和食では、かなり味に差異があると思われます。」

「はい。生魚などは全く不評です。」

「それは21世紀人でもかなり評価が分かれる物です。」


「うどんも作ってみたのですが、非常に食べづらいと不評でした。」

「麺をすする訳にはいきませんものね。それに、フォークで食べるには太すぎます。それより、醤油やみりんはあるのですか?」

「いいえ。ですから手に入る食材で、似た物を再現しています。」

「砂糖だって、そう簡単に手に入るものではないでしょう。」

「そうなんです。だから、私の作る料理は高くて不味いと言われてるんです。」


「それならいっそのこと、洋食を広めるべきでは?」

「この時代には無い物が多すぎるのです。胡椒や油が貴重品なのはもちろん、トマトや唐辛子、米、チョコ、ジャガイモなんかもありません。」

「せめて、大航海時代以降にするべきでしたね。」

「港に行けば大きな船はあるんですけどね。」

「ああ、あれはセットの一部です。」

「荷物の積み卸しはしてましたよ。」

「毎日、積み卸しをしてます。」

「どうしたらいいのでしょう。」

「まずは魚の干物とか、パスタとか、麦を米の代用品として工夫するとか、そういうことで乗り切るしかないですね。」

「そうですね。本物の和食は数百年先の後輩に委ねないといけませんね。」


「それで、お客様は今、どのように?」

「はい。酒場で料理を作っています。この時代の料理なら楽勝です。」

「料理というほどのものでもないでしょうからね。」

「はい。野菜で装飾を作ったりして、こちらは評判いいんですよ。」

「リンゴでウサギとかですか?」

「花びらとか白鳥とかを包丁で。」

「確かに、それなら和食の技術が活かせますね。」

「でも、中世はやめておくべきでした。」

「はい。行くなら18世紀末くらいが良かったですね。」


「それでも和食が受け入れられるのは難しいです。」

「ようやくお分かりになりましたか。あれは20世紀末からの世界的な変化の賜なのです。健康食ブームが無ければ、日本食はずっとアジアのローカル文化に過ぎなかったのです。」

「そうですね。西洋とはあまりにも違いすぎますものね。」


「ライスボールは味のない食べ物と認識されていましたし、箸は未開の食器でした。」

「それは前世で料理を習っている時に聞いた気がしますね。でも、料理やお菓子で成功している方は沢山います。私と何が違うのでしょう。」

「世界にはリアル度という指標があります。別名、ご都合主義度といいます。」

「ああ、何となく分かりました。ヨーロッパなのにトウモロコシが自生してたりするんですよね。」

「しかも、都合良くそれを活かした料理が発達していないんです。」


「菓子なんて特にそうですね。」

「はい。砂糖が平民でも簡単に入手できるくらい入手が簡単にもかかわらず、クッキーくらいしかありません。」

「クッキーはあるんですね。」

「それすら無いと、ご夫人方がお茶会できませんから。」

「何故か紅茶はあるんですよね。」

「キャラバンが陸路で運んでいるのだと思います。」


「そういった世界を選べば良かったです。」

「まあ、真面目で誠実な方が陥りやすい選択ミスですね。」

「何だか、ガッカリしてしまいました。」

「そうでもありませんよ。あなたが培って来た技術や発想は、必ず活かされる場があるはずですから。」

「それを考えよ、と。」

「はい。現代社会はタイパ重視で、何事もお手軽なことが好まれますが、そんな時代にあっても、本当に成功している人は努力と忍耐でのし上がった人たちです。」

「なるほど、チートが無くても努力次第なのですね。」

「そちらの世界でも、チート無しで戦っている人ばかりでは無いですか。」

「そうでした。」

「お客様ならきっとできます。」

「分かりました。ありがとうございます。」

 こうして、最後は何とか良い感じにまとまった。


「良かったですね。」

「はい。でも、ミチコがどっか行ってしまいました。私にとってはよくありません。」

「あの子にも困ったものよね。」

「彼女だって弁当屋の娘なんだから、良いアドバイスができるはずなのに。」

「そういう意味ではありませんの・・・」


 何故だろう、私はよく、残念そうな目で見られることが多い・・・



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