助けて下さい
さて、今日から9月。子供たちは2学期だ。
私たちも学生時代はそうだった。
年度始めも4月だし、その辺は日本と同じだ。
「あ~あ、夏休みも終わりか~。かったりーな。」
「そんなもの、このブラック企業にあるわけ無いでしょ?」
「センパ~イ、時間は無ければ作るものっすよ。」
「他人に迷惑掛けてまで作るものじゃないわよ。」
ここでいつものコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私は中世ファンタジー世界で王子をやっています。モーリス・ブラッドリーという物です。」
「モーリス様ですね。ご用件をお伺いします。」
「大変です!助けて下さい。」
「何があったのですか。」
「今、隣国に攻められて滅亡の危機なのです。」
「それは大変ですね。今の戦況はいかがですか。」
「すでに国境線を破られ、西の要衝で激戦が続いていますが、我々が劣勢です。」
「援軍や物資は充分にあるのですか?」
「それが、全軍を投入しても、敵の半数もいません。既に指揮官も失い、こちらが勝てる見込みはほとんどありません。」
「しかし、それほど強大な隣国があるなら、どうして備えを充分にしていなかったのです?」
「長年の友好国でしたし、元より国力差が大きかったので。それに、昨冬からの流行病で弱っているとこに来ての不意打ちでしたので。」
「講和はできそうですか?」
「何度も使者を送っていますが、全く応じる気配がありません。」
「戦って勝てないなら、交渉で戦いを終わらせるか、降伏するしかありません。」
「ああ、300年続いた我が王国が・・・」
「このまま戦っても無駄なら、民の為にも早く戦を終わらせるべきなのでは?」
「せめて、流行病さえなければ・・・」
「こういう流れは歴史上、よくあることです。」
「しかも、100年以上同盟関係にあったのに、突如攻めて来たんですよ。」
「兆候が何も無かったのですか?」
「ありません。開戦の前の月に妹が嫁いだばかりだったんです。」
「それはいくら何でもおかしいですね。失礼ですが、殿下の前世のお名前を教えていただいてよろしいでしょうか。」
「相川翔真です。」
「ええっと、B-CW7004、『私は、王子様と結ばれるまで、どんな困難にも負けません』の世界ですね。」
「何ですか、それ・・・」
「恋愛シミュレーションの世界ですね。」
「恋愛なんてしてる場合じゃありません。それに、私が困難に負けそうです。」
「恐らく、バッドエンドに向かっているのでしょう。」
「間違い無いです。バッド以外の何物でもありません。」
「ところで、殿下は恋愛をされなかったのですか?」
「婚約者がいましたよ。今は王妃暗殺未遂の容疑で収監されていますけど。」
「婚約破棄ですか?」
「恐らくそうなりますね。まだ捜査中で彼女の処遇は決まっていませんが、もし無実だとしても、これだけ醜聞が広がれば、過去の行いも含めて婚約継続とはならないでしょうね。」
「その場合、次の婚約者はどなたになるのですか?」
「さあ・・・国が滅びなければ考えますよ。」
「そこでヒロインです。」
「何故でしょう。」
「今回の流行病と戦争は、どちらも予想外の出来事だったのでしょう。」
「はい。この世界には昔から転生者が居て、彼らのお陰で現代日本の知識が多く取り入れられた、中世なのに妙に進んだ世界ですから。」
「衛生環境が整い、小国ながら豊かでそれなりの軍事力も保有していたと。」
「そのとおりです。」
「つまり、普通ならこういう事態には陥るはずがないのです。しかし、ヒロインが王子と結ばれそうにないため、世界がバッドエンド確定と判断したのでしょう。」
「では、最終的にはどうなりますか?」
「既に戦争が起きているとなれば、殿下の国が滅亡します。他の王族はともかく、殿下だけは確実に命を落とすのではないかと思われます。」
「何とかなりませんか。」
「ヒロインと結ばれれば、今からでもあるいは・・・」
「ヒロインってどなたなのでしょう。」
「ご存じないのですか?」
「はい。心当たりがありません。」
「しかし、王子ともなれば、色んなご令嬢に声を掛けられたのではありまあせんか?」
「まあ、声は掛けられますけど。私の婚約者は生まれた時から婚約を結んでいましたし、それが揺らいだのは、今回の母上の暗殺未遂事件が初めてです。」
「殿下の婚約者は悪役として設定されています。」
「じゃあ・・・」
「完全にクロですね。」
「いや、そういうことではなく・・・」
「かなり、悪役っぽい雰囲気はあったのでしょう?」
「はい。幼い頃から、コイツ、かなり腹黒いんだろうなとは思ってました。」
「でも、ヒロインに心当たりは無いと。」
「誰なんでしょう。」
「本来であれば、個人情報をお教えする訳にはいかないのですが、今回はNPCの方ですし、特別にお伝えします。ジェレミー・カウンシオール男爵令嬢です。」
「えっ!?本当に彼女なんですか?」
「はい、間違いございません。」
「いや、彼女は・・・何かの間違いではないですか?」
「いえ、モニターにお名前が明示されています。神託に等しい精度で正しい情報です。」
「でも彼女、かなりお年を召しておられますよ?」
「はい。38才ですね。」
「いやそれ、父の代のヒロインではないですか?」
「お父上は国王陛下ですよね。」
「そうです。」
「では違います。王子様と結ばれるストーリーですから、現状で殿下以外に考えられません。」
「そりゃあ、父は成人と同時に即位したそうですけど・・・」
「その時点では、まだストーリーの開始前だったのでしょう。その後、殿下がお生まれになったことで、恋愛対象が切り替わった。」
「そんな・・・あんまりです。」
「恐らく、王妃様もお若い頃は相当ヤンチャしてたと思われます。」
「先代悪役令嬢だったのでしょうか?」
「暗殺されかけるほどには・・・」
「では、私たちが結ばれれば。」
「流行病は嘘のように治まり、隣国も兵を退くでしょう。」
「でも、あんまりです。」
「仕方ありません。殿下にとってはバッドエンドだったかも知れませんが、今の婚約者と結ばれたところで、きっと幸せにはなりませんよ。」
「確かにそうですね。」
「それに、多少お歳を召したとは言え、お若い頃は飛び抜けてお美しかったはずですから。」
「分かりました。頑張ってみます。」
「はい。バッドエンド回避を心からお祈りしております。」
こうして、とても気の毒な通話は終わった。
「バグでなくて良かったですね。」
「正直、バグであって欲しいと思いました。」
「そうねえ。でも、上手く解決できそうで良かったわ。」
「まあ、問題は年齢だけであって、人間性は素晴らしい方でしょうから。ミチコなんかと一緒になる殿方こそバッドエンドです。」
「あーしはそんな性悪じゃないよ。かなり尽くすと思うんだけどね~」
「仕事を普通にしてから言いなさい。」
「へいへい。」




