有り難みが分かる
さて、私は今、スイカバーを食べている。
そう、ついに煮鶏で小型冷蔵庫を買ってきたのだ。
どうせ私の身長では足下に大きな余裕が出来るのだから、有効活用してやったのだ。
もちろん、電気は職場のものを拝借している。
電気があるのかって?電化製品があるんだよ?
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、アイル・ギャレットと言う者です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。では早速、ご用件をお伺いしますね。」
「私は中世ファンタジーの世界にやってきて2年になるのですが、どうしてもこの世界に馴染めなくて辛いんです。どうにかならないでしょうか。」
「アイル様は21世紀から転生されたのですか。」
「はい。2024年の名古屋からです。」
「そうですか。それぞれの世界により世界観はそれぞれ異なりますが、21世紀より便利で快適な世界は存在しません。」
「はい。生活魔法や魔道具があって、それなりに便利だとは思うのですが、スマホも電子レンジもネットもウォシュレットもテレビもバスも電車もありません。」
「それがファンタジー世界の限界です。雰囲気を壊しかねないアイテムは導入されていません。」
「娯楽がないのは辛いですね。」
「演劇か読書、後は手芸やお茶会くらいのものですね。」
「名古屋の家族や友達に会いたいです。」
「でも、向こうの世界では、一度お亡くなりになったのですよね。」
「はい。」
「一度転生なり転移すると、もう二度と戻れません。技術的には可能ですが、やってはいけないことになっていますので、そこで新たな人生を送っているものと、ご承知置き願います。」
「はい。そこは諦めます。でも、こっちでも友達とかなかなかできないんです。」
「そこは冒険ファンタジーか恋愛ファンタジーの世界ですか?」
「学園ハーレムモノの世界で、私は一応、ヒロインです。」
「それならヒエラルキーの頂点にいる勝ち組ではありませんか。」
「どうもこの時代の男性を好きになれないんです。」
「かなり21世紀ナイズされていると思うのですが。」
「はい。肝心な場面は現代日本人的でも違和感ないのですが、いつもは皆さん女性を下に見ているのがありありと分かるんです。」
「特に、男子オンリーの時とかですか?」
「そうですね。身分のせいか、基本的に皆さんオラオラです。」
「でも、21世紀であっても、男子だけで集まった時は下品で言いたい放題ですよ?」
「そうでした。普段大人しい男子が集まってもイキってますよね。」
「そこに突然陽キャか女子に遭遇!」
「一気に静まり返る男子達・・・」
「結局、そういうものは古今東西問わず、人間の真理なのです。」
「王子や宰相の息子でも同じなんですね。」
「攻略対象に興味が持てないなら、本物を探すしかありませんね。」
「食事も豪華で、一見すると21世紀と比べても遜色ないですが、ポテチとかカップラーメンとか炭酸飲料とかもありません。」
「スイカバーもですか?」
「もちろんです。」
「それはご苦労されていますね。」
「あと、A5ランクの肉もありません。よくよく見ると、食品管理の甘さも垣間見えますし。」
「しかし、上流階級ですよね。」
「そうであってもです。」
「まあ、ある程度は仕方ありません。保存料やパッケージ、冷凍食品加工技術などはさすがに設定されていないでしょうから。」
「保存魔法とかはあるんですけどね。」
「でも、冒険者が現地で捌いたものですよね。やはり、21世紀の畜産加工技術には敵いませんよ。そちらの世界で熟成肉なんか食べたら、命の危険がありますからね。」
「あと、魔法があるのにどうして皆さん、馬車なんでしょう。」
「雰囲気を出すためです。皆さんが海外旅行されるのと同じで、非日常を楽しんでいただくための舞台装置です。」
「水道もないんです。」
「ウォシュレットは絶対無理ですね。」
「シャワーすらありませんからね。」
「でも、バラの花びらが浮かんだバスタブで、召使いに洗ってもらうんでしょう?」
「私の家は男爵家なので、さすがにそこまで裕福ではないです。自分でできることはだいたい一人でやりますね。」
「なるほど、中世世界を楽しめていませんね。」
「ついでに恋愛もです。」
「まあ、男性の性格は、顔の良さでカバーしてるということで・・・」
「そうですね。一時的な恋愛関係なら築けると思います。」
「ご結婚は考えていないのですか?」
「結婚後もイベントがあるのでしょうか?」
「出産とかご主人の即位とかあるんじゃないですか。」
「いいえ、その、恋愛イベントです。」
「まあ、普通は結婚がゴールですね。」
「結婚って、スタートじゃないんですか?」
いや、恋愛ファンタジーの保証期間って、卒業か結婚までなんだよね。
「そこからは、ストーリーに縛られない、あなただけの新しいスタートです。」
「そうなのですね。」
上手く誤魔化せた!
「でも、思ってたのと全てが少しづつ違ってます。」
「そうですね。描写にも限界はありますから。」
「あと、顔の見分けが付かないのは困ります。」
「それは仕方ありません。」
「それと、なかなか右を向いてくれない方もいます。」
「左向きに描くのがが得意な絵師さんの仕事ですね。」
「ネコがみんな太りすぎです。」
「モフモフと言ってやって下さい。」
「デブデブです・・・」
「まあ、明らかに健康な状態ではありませんね。」
「王子様が決めポーズを取るときにシャララ~ンって効果音が鳴ります。」
「それはOFF機能がありませんので我慢して下さい。」
「せめてラ~ンじゃなくてラーンにはできませんか?」
「耳を塞げば問題無いと思います。」
「そういった細かな違和感が積み重なってるんです。」
「大変ですね。」
「21世紀がいかに恵まれていたかが分かります。」
「そうですね。あそこは神があまり余計なチャチャを入れてない世界ですからね。」
「前は頼りなく見えてた男子も、今にして思えば一番良かったです。」
「まあ、そちらにも居ないわけではありませんから、頑張って下さい。」
「分かりました。失礼します。」
こうして電話は終わった。
「あ~センパイ。スイカバーあーしにも頂戴。」
「いやよ。そのくらい自分で働いて買いなさい。」
「あーしの給料は全部バイクに消えちゃうんだって~。」
「知らないわよ。」
私ももうちょっとまともな天界に住みたい・・・




