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私だけが一回目

 まあ、ヒエラルキーが上がらないのはいいとして、できたらもうちょっと楽になんないかなあ。



「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私は中世ファンタジー世界で聖女をやってます。クラウディア・べーゼンドルフといいます。」

「クラウディア様ですね。ご用件をお伺いします。」

「はい。ぶっちゃけモテないんですけど、どうすればいいのでしょう。」

「それはモテている方にお教示いただくのがよろしいのではないでしょうか。」

 正直、私に聞かれても困る。


「それが、私の努力ではどうにもならない感じなんです。」

「それは、どういうことでしょう。」

「はい。この世界、どうやらループしているようで、他の人はこの時間軸を何回も経験しているみたいなんです。」


「ああ、最新アトラクションの一つですね。これってかなりコストが掛かってるんですよ。」

「でも、私だけ初めてなんです。王子も悪役令嬢も市民もみんな、過去の記憶があるんです。」

「その中でクラウディア様だけが初心者な訳ですね。」

「その通りです。」

「でも、ヒロイン補正は掛かっていますよね。」

「はい。ピンクの髪と高度な聖なる力、ちょっと引くくらいの美貌など、てんこ盛りですね。」


「それならモテるんじゃないですか?」

「みんなやる気が無いんです。ああまたか、って感じで。」

「まあ、そうなりますよね。」

「私が何をやってもノーリアクションです。」

「転びましたか?」

「あれって転びたくなくても足が絡まるんですね。」

「はい。設定ですから。」

「それでも、親切な女子生徒は起き上がるのに手を貸してくれます。」


「王子様は?」

「いかにもよくあることって感じで冷静ですね。」

「しかし、人としてはどうでしょう。」

「まあ、王子ですから。手を貸さなかったからといって、どうということはないのでしょう。」


「悪役令嬢の反応は?」

「悪役令嬢こそ、私にも婚約者にも無関心です。一度だけ呼び出されていろいろ聞かれましたけど、私が無害と判断されたのか、それ以降は全く関わりが無いんです。」

「どうせループしますもんね。」

「ええ。どんな結末でも気にしないとおっしゃってました。ただ、痛いのと怖いのでなければどうでもいいとおっしゃってました。」


「でも、聖女の力が必要な場面はあると思いますよ。」

「彼女が闇落ちすればですけど。」

「無いですね。絶対に。」

「そうなんです。ですから存在価値も低めです。」

「何度もループしているうちに、最も平穏無事な方法を編み出したのですね。」

「はい。ですから、権力争いも戦争も無い平和な世界です。でも、皆さん活気はゼロです。」

「それはそうでしょうね。どうせ何回も続く同じ時の一回に過ぎませんから。」


「でも、私にとっては一回目ですよ。」

「何回もやってれば慣れると思いますよ。」

「それでは地獄と何も変わりません。」

「そんなことはありませんよ。何回でも違う体験はできますし、ずっと若い訳ですし、シナリオを大きく外しても構わないのですから。むしろ、やりたい放題と言えます。」

「でも皆さん、やりたい放題というよりやる気を無くしています。」

「それは自分の身分と役割から離れないからです。聖女である必要がないなら、商人だって貴族夫人だって女優だって、何にでもなれるじゃないですか。」

「それはそうですけど・・・」


「身分社会や家族など、固定化された環境が産み出す閉塞感から抜け出せない人は、そうなるでしょうが、あなたはそういったしがらみに囚われる必要は無いのでしょう?」

「いいのでしょうか。」

「どうせ一定期間が過ぎればループします。」

「せっかく上手く行ってもループするから、やる気を無くすのでは無いかと。」

「そこは工夫次第ですね。そういった世界の特徴として、何かトリガーを引けば、ループから抜け出る可能性があります。あなたが一生懸命に生きなかった時に限って、ループから抜け出たら困るでしょう?」

「なるほど。それは困りますね。」

「ですから、ループから抜け出す要件を検証しつつ、最高の人生を目指さないといけません。」


「何か、元気が出てきました。まずは、何をすればいいのでしょう。」

「まずは、攻略対象への聞き取り調査からですね。」

「どのようなことを聞けばよいのでしょう。」

「まず、過去のあなたが何をしたのか。誰と良い関係になろうとしたのか。そして、毎回同じ日付でループしたのか。」

「なるほど。それで研究するわけですね。」

「はい。過去は全て失敗例ですので。」

「攻略対象を知らないんですけど。」

「権力者の息子であなたと同年代の方を当たっていけばいいですよ。宰相の息子とか騎士団長の息子などです。過去にあなたが言い寄った方はその可能性が高い方です。」


「なるほど。それとは違う行動をするのですね。」

「それと、その間に何が起きたのかも聞き取る必要があります。毎回同じ事が起きたのか、起きたり起きなかったりする出来事は無いか。皆さんの持つ記憶を集めるのです。」

「分かりました。それはやる気が出ますね。」

「皆さんもやる気が出るかもしれませんし、その中で人間関係も変化していくでしょう。」

「私、頑張ります。まあ、あのやる気の無い王子に惹かれるかは別ですけど。」


「ところで、クラウディア様は普段、どのようなキャラで活動しておられるのですか?」

「あざといキャラを目指しています。ダメでしょうか?」

「初回は自然体でもいいと思いますが。」

「いえ、違う自分になりたいんです。」

「なるほど。それで、あざといキャラは上手く行ってないんですよね。」

「はい。可愛い顔のキャラってだいたいこんなだよね、って声が男子から聞こえたことがあります。」

「人生経験豊富ですね。」


「あと、気を付けることはあるでしょうか?」

「階段とか噴水とか池の側を歩くときは注意して下さい。」

「そうでした。でも、こっちの階段って緩やかで段と段の間も広いんですよ。」

「そうですね。あの長くて重いドレスを着た女性が使うことを前提としていますからね。」

「あそこで転んでも死なないと思います。」

「でも、もし突き落とされた場合は、大げさな演技力が必要ですよ。」

「そうですね。やられっぱなしはいけないですもんね。」


「それと、教科書を破られないように気を付ける必要もあります。」

「こっちの教科書凄いんです。表紙が分厚いし、日記帳みたいに鍵が付いてるんです。」

「よかったですね。そういったテンプレに注意していれば大丈夫ですよ。」

「ありがとうございました。では、失礼します。」

 こうして電話は終わった。最後は元気になってくれたようで良かった。



「最近多いのよね。ループ世界。」

「よくあんな手の込んだことしますよね。」

「神はお手軽に作っちゃうけど、うちのエンジニアは大変みたいよ。」

「バグが多いんですか?」

「ええ。何年か前に時間の逆行が止まらなくなって過去に向かう世界になって、それは大変だったみたいよ。」

「凄いですね。」

「墓場からどんどん人が生き返るし、太陽は西から上がるし・・・」

「全知全能の神が半知半能程度の注意力で作ったら、そうなるでしょうね。」

「ナターシャさん。また入社時のような毒が出てきてますよ。」


 えっ? こんなに見た目純真無垢なのに?


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