生態系の頂点
私もそろそろ2年半経つ。
まだまだ新人に毛が生えた程度だけど、それなりに後輩もいて、それなりの存在感も出てきた。
この職場は比較的職員の入れ替わりが多いが、それでも平均勤続年数は7~8年といったところだろう。
日の出の魔女のような百年選手もいるが、私でも少しはヒエラルキーが上がって来た感じはする。
まあ、後輩がミチコなので、忙しさは相変わらずだけど・・・
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「我はガロン。ファンタジー世界で最強のドラゴンをやっておる者だ。」
「ガロン様ですね。それにしても、ドラゴンって凄いものをチョイスしましたね。」
「皆、人として良い思いをしたくて次の生を得るのであろうが、本当に何者にも脅かされずに安寧に長生きしようと思ったら、最強種になるべきなのだ。」
「おっしゃる通りですね。でも、知らない生き物になるのは勇気がいるのですよ。」
「まあそうだな。それで、散々偉そうな事を言った後で恐縮ではあるが、少々困ったことになっておってな。何か良い知恵があればと思うて話しかけてみたのじゃ。」
「承知しました。ご用件をお伺いします。」
「うむ。我は洞窟の中で暮らしておるのだが、出口が狭くて出られんのじゃ。どうしたら良い。」
「破壊できないのですか?」
「岩がとても厚くてな。押してもビクともせぬ。」
「魔術とかドラゴンブレスは使えないのですか?」
「何分狭くてな。そんなものを使ったら我が大怪我してしまう。」
「では、少しづつ掘り進めるしかありませんね。」
「身動きするのも大変でな。それも難しいのだ。」
「どうして、そんな所にいるのですか?」
「生まれた時からここだ。多分、ここで卵から孵ったのであろう。最初は小さかったから出口から出られたが丁度寒い時期でな。戻って寝て起きたら出られんようになっておった。」
「大人のドラゴンが出られないのに、卵はどうしてそこにあったのでしょう。」
「人間が運び込んだか、母は小さいのかは知らぬ。とにかく生まれてこの方、他のドラゴンに会ったことは無い。」
「ところで、お歳は?」
「だいたい200才だ。」
「その間、飲まず食わずですか?」
「いや、人間がお供え物をしてくれてな。それで何とかなっておる。」
「発見されているんですね。」
「ああ、今では著名な観光地になっておるらしく、参拝客は多いぞ。国王も即位したら挨拶に来るぞ。糞も清掃してくれるし、何とかなっておる。」
「人身御供とかされないのですか?」
「そんな物はいらぬ。我も元は人ぞ。人なんて食べたくないぞ。」
「それはそうですね。」
「我はリンゴが一番好きじゃぞ。まあ、一口で200個ほど食うが。」
さすがの巨大さである。
「しかし、至れり尽くせりならいいじゃないですか。」
「いや、最強種に生まれたからには、一度くらい羽ばたいてみたいし、ドラゴンブレスも放ってみたいではないか。」
「まあ、そうですね。でも、一度も使ったこと無いということは、そういう機能をお持ちで無いかも知れませんよ。」
「いや、その気になれば腹から湧き上がって来るものはあるぞ。多分、使えると思う。」
「身体を鍛えてないから飛べないかもしれませんよ。」
「鍛えればいいのだろう?」
「みんな怖がって近付いてくれなくなりますよ?」
「自分で狩ればいいのではないか?」
「信仰の対象から恐怖のドラゴンになってしまいます。」
「我はそんな乱暴はせぬぞ。」
「でも、注意しないといけない点がございます。」
「何だ?」
「ガロン様が洞窟を掘り始めた時点で、人間は態度を変える可能性がございます。」
「恐れ始めるということか。」
「はい。人間と直接、言葉を交わすことはできますか?」
「いや、できぬ。身振り手振りだ。」
「では、誤解されてしまいますね。穴掘りを邪魔されたり、毒を盛られたり、軍を派遣されたりといった行動を取るかも知れません。身動きが取れない、ブレスが吐けない、食料や水も貰えない状態では、さすがに勝ち目は無いと思います。」
「それもそうだな。ならば、どうすれば良い。」
「狭くて不便だということを何とか伝えて、人間に穴を広げて貰うのが良いでしょう。」
「なるほど。それなら体力に不安のある我でも何とかなるな。」
「岩の硬さも推測できますし、ある程度広がれば、少しづつ自分で掘り進めることも出来るようになります。」
「何年かかるか分からんけどな。」
「あくまで少しづつです。人間に警戒されないように。」
「分かった。何とか伝えてみる。」
「でも、今の生活が一番良いと思いますけどね。食っちゃ寝なんでしょう?」
「最強種なのにな。」
「最初に言っておられたではないですか。何者にも脅かされずにのんびり暮らせてます。」
「全く自由が無いがな。」
「まあ、観光資源ですね。」
「全く、最強種とは言え、ままならぬものじゃ。」
「では、何とか外に出られるよう、お祈りしております。」
「うむ。祈られるのは慣れておるからな。感謝する。」
こうして通話は終わった。
「出られないなんて、ウケる~。」
「アンタが行って、出してあげれば?」
「え~ダリ~。」
「アンタと入れ替わったら良かったわね。」
「耐えられんねえっすよ。暴れられないなんて。」
「あなたなら暴れると思うわ。」
「まあ、ジャックナイフの二つ名は伊達じゃ無いからね。」
「ああ、あったわね。そんなの・・・」
理性的な最強種なら人にとっては良き隣人だけど、暴れ回る天使ってのは邪神と同じようなもんだからなあ。
こういうのが後輩にいると、私のヒエラルキーは上がんないよね。




