真の逆転世界
「あれっ?センパイ。今日のお夜食は牛乳と豆腐?」
「あら、あなたこそ夏休みは終わり?」
「あーしはもう大人なんだから、夏休みなんて無いよ。」
大人ならせめて仕事出てきやがれ。
なんて思っているとコールが鳴る。
ミチコの方を見るけど、取る気配が無いのでいそいで食べ物を牛乳で流し込み、受話器を取る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私は、ベックと言う者です。お願いです。助けて下さい!」
「どうなさったのですか?」
「アリの大群に襲われて死にそうなんです。」
「軍隊アリですか?」
「いいえ。アシナガアリです。」
「人間の脅威になる種類とは思えませんが、とにかくそこからお逃げ下さい。」
「そうは言っても・・・」
「水の中にでも逃げ込めばやり過ごせるのでは無いですか?」
「はい。頑張ってみます。」
しばらく受話器の向こうで必死な息づかいが聞こえていたが、何とか身の安全は確保できたようだ。
「ありがとうございます。何とか助かったみたいです。」
「それは何よりです。しかし、アリが凶暴な世界なんですね。」
「そうですね。この世界では最強クラスの生物です。まあ、最強はガガンボとかウスバカゲロウですけど。」
「随分変わった世界なんですね。」
「やつらは飛翔能力もありますからね。彼らが好き好んで人間を襲うことはありませんが、ぶつかったらまず助かりませんよ。何と言っても、ここは全てが逆転した世界ですからね。」
「もしかして、重力も?」
「何かしら違うのかも知れません。でも、無重力ではないみたいですね。」
「どうしてそんな世界をお選びに?」
「私は前世で何をやっても上手く行かなかったので、何もかもが真逆の世界を希望したんです。」
「そしたら、ガガンボが最強の世界に降り立ったと。」
神への説明不足だ。
口下手な人はどこに行っても損をする。
「では、他のほ乳類は?」
「細々と生きていますね。大昔はドラゴンも居たみたいですが、アリに絶滅させられたらしいです。」
「強いですね。アリ・・・」
「いや、単体なら人間でも倒せたらしいですよ。体長も30cmくらいだったそうですし。」
「弱いですね。ドラゴン。」
「全てにおいて逆なんです。人間だって夜行性で逆立ちですし。」
「文明なんてとても築けないですね。」
「もちろん、原始的な生活をしてますよ。昨日はトラを捕まえて食べました。」
「いっそのこと、四足歩行の方がいいのではないでしょうか。」
「でも、それでは逆転認定されないようですね。しかも、歩くときは後ろ向きなんです。まあ、顔は進行方向を向いてますけど。」
「足って、何かの役に立ってます。」
「相手を殴る時以外は役に立ってません。」
「イキってる人だけはいなさそうですね。」
「はい。陽キャは警戒心に欠けていると蔑まれる世界です。」
「魔法とかは無いのですか?」
「小さな火とか水滴は出せますよ。でも、弱小種として身の程を弁えろってことなんでしょうね。中型犬とほぼ同じ戦闘力しかありません。」
「中型犬って、弱いんですよね。」
「はい。ほ乳類でも中位くらいです。まあ、ほ乳類そのものが絶滅寸前の被食者ですから。」
「では、いつかは強者のエサになってしまうんですね。」
「そうですね。さっきみたいな怖い場面はしょっちゅうですけど、小さいことで悩まずに済むというのはいいところですね。」
「そうですか。最悪では無かったということですね。」
「まあ、普通に歩きたいですけど。」
「では、絶滅しないように頑張って下さい。」
「はい。家までアリに見つからないように帰ります。」
「では、お元気で。」
「ありがとうございました。」
こうして電話は終わる。
「へえ~、意外に元気そうじゃん。」
「まあ、家畜だって生きてる時は元気そうだからね。」
「でも、強力な捕食者を前に、無力な人間は何考えるんだろ。」
「少なくとも、仕事をサボることじゃないわね。」
「あーしは仕事をすることなんて考えたこと無いよ。」
「アンタは結構強いんだから、少しは考えなさい。」
「さっきは交換するタイヤのメーカーを考えてた。」
「オーバンドね。」
「それ、輪ゴム・・・」
「カブなんて、それで充分走るんじゃないの?」
「無理に決まってるでしょ!」
まあ、よう知らんけど・・・




