エルフ歴20年
社会天使3年目にもなると、学生時代の思い出はかなり忘却の彼方に近付く。
楽しかった夏休みを思い出し、羨ましく思う気持ちもまた、薄れてくる。
でも、休みが欲しいという切なる願いは、相変わらず落ち続けている。
これは何とも悲しい気持ちだ。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私は、ファンタジーの世界でエルフをしている、ベロフという者です。」
「ベロフ様ですね。ご用件をお伺いします。」
「最近、私の世界にやって来る転生者の方がとても多い気がします。何とか以前の水準に戻してもらうことはできないでしょうか。」
ああ、私は初めてだが、こういったベテラン転生者からの要望は多いと聞く。
「申し訳ございません。最近、そういった要望が大変多いことは承知しているのですが、何分、異世界への転生希望者も多いため、どの世界も大変混雑しております。誠に申し訳ございません。」
「そうですか。残念ですね。」
「ベロフ様はエルフということですが、そちらの世界に長いのですか?」
「はい。もうかれこれ20年になります。」
「それはベテランの域に達してますね。何かきっかけがあったのでしょうか。」
「はい。神様から勧誘を受けまして、せっかくのチャンスなので、第二の人生を新しい世界で送ろうと思ったのです。エルフは、指輪物語のファンで憧れがあったので。」
「そうですか。正統派の方だったのですね。」
「今の日本ではファンタジーの小説やアニメが人気のようですね。」
「はい。転生希望者が激増しているのはその影響です。アニメだってジャパニメーションなんて言葉があるくらい世界に影響力がありますので、世界中から希望者がいるような状況なのです。」
「そうですか。天界も大変なのですね。」
「それで、具体的にどのようなことでお困りなのでしょうか。」
「私、男なのですが、皆さんにがっかりされるんです。」
「ああ、エルフと言えば女性ですからね。」
「当然、男性もいます。」
「全くもってその通りです。」
「第一、エルフが村や森から離れて暮らすなんて、日本人が海外で暮らすようなものです。そういった危険な所に出て行くのは、ほぼ男性に決まっているじゃありませんか。」
「まあ、そういう風に出来てますもんね。」
「なのに、男?って感じなんです。」
「もちろん、ベロフ様は弓を使いますよね。」
「まあ、多少は・・・私もエルフに憧れた一人ですから当然、弓の練習をしたんですが、上達することは無かったですね。まあ、戦うことは稀ですが、ナイフを使ってますよ。」
「きっとそこもガッカリされると思います。」
「でも、エルフが全員弓使いなんてことはありません。狩に罠だって使うんですよ。それに、みんな草食だと思ってますけど、胃は一つしか無いんです。魚とか肉だって食べますよ。」
「ヴィーガンではないんですね。」
「ああ、私たち的にいうベジタリアンですね。」
「正確に言うと違うものなんですけどね。」
「どちらにしたって間違ってます。後、意外に耳が小さいとか言うんです。尖ってるのがエルフです。耳の大きさは象に求めて欲しいですね。」
「いろいろ偏見があるんですね。」
「あと、無欲とか人間嫌いとか魔法に長けてるとか、一体誰がそんな勝手な創作をしたんでしょうね。」
「全部違うんですね。」
「人間嫌いはそうなりつつあります。」
「でも、エルフに関するイメージは時代によって変わるものです。ベロフ様はきっと長生きしますので、まだまだ変化し続けると思いますよ。」
「ところで、日本ではエルフが人気なのですか?」
「はい。主役を張ることもあるくらいですよ。」
「でも、エルフになった転生者は私一人です。」
「まあ、転生者には見た目補正処理が施されますので、わざわざエルフにならなくても、大抵は美男美女に生まれ変わりますからね。」
「でも、長生きできますよ。」
「でも、みんな肉や魚は食べたいでしょうから。」
「食べますって・・・」
「そうですよね。肉を食べないんだったら狩も弓も必要無いですものね。」
「せめて、実態をちゃんと知らせて欲しいです。」
「難しいですね。向こうでは空想上の存在ですので。」
「そうですね。一人でも実物がいれば、分かってくれるに・・・」
「男? ってなりますよ。」
「もういいです。」
「まあ、海外に行ったときのテンプレ対応みたいなもんです。それを楽しむ心の余裕を持って下さい。」
「避けられないですものね。」
「それか、耳の大きさを変える魔法でも編み出せば良いと思います。」
「いや、故郷で浮いてしまうので結構です。」
「そうですか。それでは、お元気で頑張って下さい。」
「はい。失礼します。」
こうして電話は終わった。
「エルフも大変ですね。妖精だったら、元々が多様だったのですけどね。」
「でも、私たち天使も結構、実態とは違うテンプレが定着してますよね。」
「ええ。だからナターシャさん。もっと純真無垢にならないといけませんよ。」
「いくら何でもミントちゃんみたいにはなれませんよ。どっちかというと、ミチコや日の出の魔女寄りなんですから。」
「そう言えば、ミチコさんは今日も夏休みかしら。」
「真面目に学校に通ってなかったクセに、学生気分が抜けないんだそうです。」
「あの子も天使にしては黒いわね・・・」
「私はまだ、結構白いと思います。」
「だいぶ、くすんでるわよ?」
それはブラックの飲み過ぎだと思うわ。
明日から牛乳を加えてみようかしら。




