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迷宮白書  作者: 深海 蒼
第2 異世界陳列罪の章
90/91

90話


 ギルドの解体場で未知のモンスターの解明が完了した所で、シャイクルドが口を開く。


「異世界、という事の詳細は必要無いが。君はこいつの対処法を理解しているという事で間違い無いな?」

「一応は。もっとも物語の中で出てきたモノとコイツが一致しているというだけで、それそのままかと言われると確信はできませんが。今の所同一のモノであると思います」

「物語……空想の産物という事ですか?」

「そうですね」


 シャイクルドの言葉に応じた拳児にシモーヌが問いかけるが、正直にその答えに応じる。その言葉を確認してザバスが再度問いかけた。


「空想の産物がこの世に現れたという事か。その物語の結末は?」

「シリーズモノなので全部説明するとアレですが、最終的に主人公が単身で戦い続けて勝利して終わる感じです」


 ザバスの問いかけにも拳児は素直に答えるが、物語上では解決したという事にシャイクルド達は一旦安堵した。それから再びシャイクルドが確認する。


「それでは、こいつらの最終的な目的は?」

「物語の上ではですが、こいつらはマザー、母体と呼ばれる存在の為に自分達をタンパク質に寄生されて大量のタンパク質を集める事だけが目的です。そのマザーがそんな大量のタンパク質をどうするつもりなのかは物語上では書かれてないんですよね、主人公が解決しちゃったので」

「そうなのか。ではとりあえず目先の目標は決まったな。この化け物達の全滅だ」


 拳児の答えに納得したシャイクルドがザバスとシモーヌに視線を向ければ、彼らは静かに頷く。ギルドとしての方針を決めた所で、シモーヌが拳児に確認を行う。


「現れる怪物は、この一種類のみですか?」

「いえ、複数種類が居るんで、ちょっと思い出しながら共有しますね」


 シモーヌからの質問に拳児が自身の記憶しているクリーチャーの中から登場したヤツを順番に口にする。


「まず基本形のコイツが一番多く出現します。呼称は見た目通り蜘蛛、もしくは鎌です」

「コイツが基本形か」


 解体場の中で四肢をもがれ微動だにしないクリーチャーにザバスが視線を向けながら呟く。


「次に多いのは爆弾と呼ばれるヤツです。胴体か腕部分に大きなオレンジ色のコブがあり、目標に近づくと爆発を起こして微生物をばら撒きます。爆発自体の衝撃が大きくて人間の全身を吹き飛ばす位の威力です。コイツは近づかれる前にオレンジのコブを遠距離で破壊すれば勝手に死んでくれます」

「オレンジのコブ……なるほど」


 次に出てきたクリーチャーの説明にニアが頷きながら記憶に留める。そのまま拳児は説明を続けた。


「3種類目としては子供程度の大きさをして、背中から3本の触手を出して、そこからまたオレンジのコブを飛ばして爆発させてくるヤツが出てきます。呼称は触手と呼ばれてました」

「遠距離攻撃、という事ですか?」

「はい。遠くから爆発するコブを飛ばしてくるので、それを避けるか撃ち落とすかですね。倒し方はその触手を全部切れば動かなくなります」


 新たなクリーチャーの説明にレテスが問いかけると拳児は素直に頷く。それからすぐに、拳児は次の説明を行う。


「4つ目は壁と一体化したような化物、文字通り壁と呼ばれる存在です。これは物語上の都合ですけれど主人公が先に進まないよう重要地点を守っている壁になっていて、定期的にその壁からさっきの触手を吐き出します。壁の場合は取り付いている死体の胴体が見えてそこにやはり爆発するオレンジのコブがあるので、そこを撃てば爆散して倒せます。その場から動かないので遠距離から攻撃すれば問題無いですね」

「一番倒しやすそうねそいつは」


 壁の存在に対してフランが呟く。文字通り壁となっているだけの存在であれば倒すのは容易いだろうという事はこの場の全員に共通認識として覚えられた。そのまま拳児は説明を続ける。


「で、5番目。こいつが一番注意が必要です。大きさは一般的な魚、エイと同じ程度で尻尾までは含めれば大体1メートルも無い程度のサイズで、地面を蛇行しながら動くクリーチャーです。今までのモノよりかなりサイズは小さいです」

「ふむ、そいつの特徴は?」

「そいつがタンパク質に尻尾から直接微生物を注入して変異を起こさせます。濃度の濃い大量の微生物の注入により、注入された存在は一瞬でクリーチャーに変異させられます」


 シャイクルドの問いかけに拳児が素直に答えると、その場の空気が一瞬で凍りつく。微生物を直接注入してくる化物の存在に、全員言葉が出なくなってしまった。それを認識しながらも、拳児は続ける。


「こいつは人間に取り付いて背中に回って尻尾を脊髄に刺してから注入します。脊髄から送り込む事で全身に素早く微生物を浸透させる為です。通常のクリーチャーと接触した程度では変異する事は無いですが、コイツが注入してくるのは本当に濃度が濃いから変異は瞬時は起こります」

「……随分厄介なヤツが居るモノね」


 拳児の説明に綾子が苦笑しながらなんとか返事を返すと、拳児も苦笑して続ける。


「俺が思うに、多分最初に現れたクリーチャーはそいつなんだと思う。一体のモンスターを変異させてそのモンスターに周囲のモンスターを始末させて死体に変える。それから取り付いて死体に微生物を注入して変異させてクリーチャーにする。それを繰り返せば大量のクリーチャー軍団の完成だ」

「確かにそれは理に適ってますね。通常のモノでは変異させられないなら、変異させられる存在が居なければ増えるのはおかしいですし」


 推測に対してシモーヌが自身の考えも纏めて納得する。それに同意を得た拳児が、再び話を続けた。


「で、ここまでは大体人間サイズですが、人間よりも巨大な存在が2体居ると思います。一つは人間を丸々飲み込める程大きなヘビのような存在。そいつも外側にオレンジの爆発するコブがあるので、そこを複数個所狙い撃てば行動停止させられます。もう一つはクリーチャー複数体が人間の倍くらいに合体した巨人。そいつは強い衝撃を与えれば合体が解除されるので、解除された所で各クリーチャーの腕や足を切り取れば行動不能になります」

「随分種類が居るものだな……」

「まぁ、物語上同じ相手ばかりなのもつまらないので多いんでしょうね」


 ザバスの言葉に現実的な回答を示してから、拳児が言う。


「で、最後マザーなんですけれど、これ物語に出てこないんですよね、出てくる前に主人公が解決したので。なのでもしかしたら、そのマザーは存在しないかもしれません。あくまで推測ですけれど」

「なるほど、分かった。他には種類は居ないか?」

「俺の知っているのはこれで全部ですね」


 シャイクルドからの問いかけに拳児は素直に全部のクリーチャーを吐き出した事を告げる。その事に納得したシャイクルドは、再度拳児に確認を行う。


「では、この化物達に関する話はこれで全部か?」

「いえ、ここまでに上げた化物の話の中で、まだ話してない内容があります」

「ふむ、というと?」

「行動不能になる条件と、奴らの感知系ですね」


 シャイクルドの言葉にまだ話していない事を告げてから、拳児は纏めて話を行う。


「まずこいつらを行動不能にする条件は、腕と足を破壊する事です。可能であれば切り離すのが一番ですね。オレンジのコブを持つ奴らはそのコブを破壊すれば勝手に爆発で全身が破壊されるのでそういうのはコブ狙いで。通常のヤツは右腕と右足、もしくは左腕と左足のような片側の手足を破壊すれば這いずる事さえ出来なくなるので動かなくなります」

「なるほど、確かに行動不能にするならそれが一番手っ取り早いね」


 拳児の説明にニアが同意した所で拳児が続ける。


「で、こいつらの感知系、人や生物を何で感知しているかは、一つは音です。耳がとても良い化物なので聴覚が発達しています。あと生物の体内に存在する電気を感知できる能力を持っています。生きている生物であれば体内に電気が必ず存在するので。逆に目や鼻は全く機能していないので、それらの情報は感知しません」

「なるほど、だから雷を」

「そうなんだよ」


 納得を見せるレテスの言葉を引き継いで、拳児が喋る。


「つまりコイツに雷、電気系の魔法や巨大な爆発などで攻撃して感知系を鈍らせてから手足を切り取れば相手の動きは乱れて倒しやすくなります」

「それが攻略法か! なるほど!!」


 自身のゲームでの経験を踏まえた攻略法を提示した事で、シャイクルドは喜色を浮かべて納得を示した。確かに感知系を鈍らせてから攻撃するというのはモンスター相手であれば割と一般的な討伐方法だ。その攻略法が分かっただけでも、シャイクルド達はフィーリアスからやってきた冒険者達に感謝する必要を素直に認める事となった。


 ヒッテリアのギルド員達が喜びを現した所で、マリエルが拳児に問いかける。


「でもそいつらって、拳児達の世界でも空想の産物なんでしょ? なんでそんなに詳細な設定があるの?」

「あー、それはなんというか。世の中には設定厨なるものが居てだな」

「ややこしい複雑な話を解明しようとする奇特な存在が居るのよ世の中には。フィクションだろうとそういうのは手を抜かないし、だから作る側も細かい設定を用意してたりするの」

「こう、知性の高い人達って大変そうね……」


 困った表情で話した拳児の言葉を遮ってズバッと正直に話すフランにマリエルが呆れた声色で呟く。マリエルから見れば拳児やフラン達は自分よりも知性溢れる存在な上、その程度の知性が最低限求められる世界という事なので、他の一般的な人間も自分達よりは知性の高い世界となっている。そういう相手を唸らせる物語を作るには、同じ程度かそれ以上の知性を持って創作しなければいけないというのは、中々に苦行ではないかとマリエルは単純に思っていた。


 物語の設定とその謎を追求する設定厨の存在を説明した拳児達に対し、シャイクルドが情報を共有する。


「とりあえずの対処法は了解した。既に多数の化物が存在している上で対処法が分かった為、こちらのギルドに所属する冒険者にも依頼を発注して対処に当たらせる事にしよう。勿論君達も今後も対応に当たって欲しい」

「それは勿論です、ギルドマスター」


 シャイクルドからの言葉にマリエルが軽く頷くのを見てから、シャイクルドは拳児に視線を向ける。


「それで、その化物の正式名称はなんなんだ?」

「あー、物語の中ではクリーチャーやモンスター、それと死体を操る事からネクロマンサーと呼ばれてましたね」

「ふむ、なるほど」


 シャイクルドからの質問に自分が覚えている限りの情報を提供した拳児の言葉に頷き、シャイクルドが頭を捻ってから口を開く。


「では今後、この化物の通称は『ネクロマンス』とする。モンスターでは通常のモンスターと同じだしな。これを討伐、全滅させて、これ以上の混乱を起こさないようにギルドは行動しよう!」

「私達は引き続き、このネクロマンスを討伐していきます」

「あぁ、頼む。今回は貴重な情報提供をありがとう、本当に助かった」

「依頼通りの仕事ですから」


 ギルドマスターからの言葉にマリエルが再度軽く頭を下げてから言うと、シャイクルドはザバスとシモーヌに視線を向ける。


「ではザバスは依頼の詳細な詰めを行って明日までに依頼を掲示する準備を頼む。シモーヌは今ここに居るネクロマンスを模写してから、先程までの説明を全て記録しておいてくれ」

「分かりました。説明に関しては聞きながら筆記していたので問題ありません」

「そうか、よろしく頼む」


 各人に的確な指示を出したシャイクルドは、そのまま拳児達へと視線を向けた。


「では、本格的な作戦は明日以降となる。もう少し協力を頼むぞ、フィーリアスの冒険者達」

「えぇ、お任せ下さい」


 シャイクルドからの期待の視線を正面から受け止め、マリエル達は薄く微笑みながら作戦の成功の為、より一層頑張る事を決意するのであった。


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