91話
イエイギナ王国の首都ヒッテリアにあるヒッテリア大迷宮。そこに現れた未知のモンスターが拳児の世界のゲームで登場したクリーチャーと同一と考えて良い存在だった事で、拳児達の住んでいた世界からの概念か何かの流入という可能性が突然姿を現した。とにもかくにも問題を片付けなければいけないと思った拳児達としては、精力的にこの事件に対して解決を目指す事を決めた。
ヒッテリア大迷宮のエリア『ナアト森林』のニ回目の探索を行っている現在、拳児達の腹時計が昼を告げてきた事で一旦休憩を行い、平らな通路にシートを敷いて昼食用のサンドイッチを齧っていた。滞在拠点となっているシカローネホテルで提供されているルームサービスは一流ホテルそのものと言って良い質で、一市民としては贅沢な肉や野菜がぎっしり詰まったボリュームで美味しく食べられてるものだった。
全員で具材ぎっしりのボリュームあるサンドイッチを完食してからお茶を軽く飲み、マリエルが自分で書き込みを行っていた羊皮紙を全員に見えるように広げてから声をかける。
「ここまでネクロマンスとの遭遇は4回、いずれも全部ゴブリンの死体を操る鎌の集団ね。8体、5体、10体、6体といずれも団体行動なのは間違い無いわね」
「そうですね、胴体は全てゴブリンでした」
マリエルの言葉にレテスが同意を示す。ここまでの遭遇で現れたのが全て同一個体という事でまだ検証の余地はあるが、少なくともネクロマンスがかなり増殖していて大量のゴブリンがその犠牲になっている事は事実ベースとして話をして問題無いと思われる。そう考えながらマリエルは線を引きながら遭遇した地点を線の上にポツポツと点を置いていく。
「通路の形状は少し蛇行しているわね。けれど方角としては北に進んでいるわ。目の前に通っている通路しか歩いていないから他の分岐は無かったわね」
「進行方向からネクロマンス達は現れたから、この道をそのまま進めば本体に到達できるかしら」
「可能性はあると思う」
マリエルの言葉に追加するようにフランが話を補強し、拳児もそれに同意を示す。同じ方角に進んでいる所で正面から全て遭遇しているという事になるので、正面こそがネクロマンスの拠点、もしくは本体の場所であると考えて良いだろう。自身の考えも補強しながら拳児が話を続ける。
「このまま先に進むのは問題無さそうだな。あとは他の種類のクリーチャーが出てくるかだけれど」
「実際に出てこないと分からないよね」
「それはそう」
拳児の懸念の言葉にニアが付け加えると綾子が同意する。確かに出てこないと本当に別種の個体が存在しているのか分からないので、そろそろ出てきても良いのではないかと拳児はなんとなく思っていた。ゲームであればまだ序盤ではあるが、そろそろ新モンスターが出てくる流れなのは間違いないので、このまま探索すれば先に進めるだろうと確信していた。
全員で顔を突き合わせて昼食後の会議を終えてから再び探索の準備を行い、前へと進み始める。いつも通り前衛に拳児とフラン、綾子を出して後衛には遠距離用の3人だ。拳児達が再び前進を開始してから15分程で、蛇行する通路の右手側、北の方角の藪がガサガサと音を立てたのと同時にニアが警戒の知らせを告げる。
「足音複数! 鎌よりも重そうな足音が複数ある!」
「いよいよ新種のお出ましかしらね!」
ニアの連絡にマリエルが応じながら魔法陣を展開する。全員で再び待ち構えながら藪の様子を見ていると、確かに鎌よりも大きな足音を立てる存在が、拳児達の目の前に現れた。鎌を引き連れてやってきたのは、腹が酷く膨れて破裂しそうな姿をした顔が豚の人型モンスターだ。膨れ上がったその腹は、拳児の言う通りオレンジ色に輝いている。本当に目の前に現れた、想定されていた新種の登場に対し、マリエル達女性陣はとにかく嫌悪感を丸出しにしていた。
「いやぁぁキモーイ!!」
「怖いっていうかキモい!! ホンット無理!!」
虚ろな目をした豚顔と酷く膨れ上がった腹を見てマリエルが叫び、綾子も嫌悪感丸出しで応じた。女性陣からあからさまに嫌われたそのオークの姿がおよそ3体存在しており、同時に鎌はそのオーク達の左右を固めるように2体ずつ、計12体という最大の軍勢で拳児達の前に姿を現した。
オークを元にしたと思われる新種のネクロマンスの登場に対し、拳児は内心で自分の想定がそこまで外れていないという事を理解しながら、自分で魔法陣を構築する。棍を杖のように構え先端に魔法陣を生成、そこから魔法を放つ。
「ストーンショット」
言うと同時に可能な限り速度を上げた石が射出され、3体いたオークの中から一番真ん中のオークの腹に見事命中する。それを受けたオークの腹はその弾力で一瞬衝撃を吸収されたかと思われたが、そのまま内側に大きく凹むのと同時に、オレンジ色の腹が先程までよりも強く輝いた所で、拳児が慌ててもう一つ魔法陣を展開する。
「マジックシールド!!」
「なになになに!?」
後列の全員を庇うように展開されたマジックシールドの中にフランと綾子が少し慌てながら収まるのと同時に、とてつもない衝撃と爆発が周囲に響き渡った。爆発魔法エクスプロージョンでも相当な魔力を注がなければ出ないような爆発により周囲の木々がミシミシと音を立て、強風が吹き荒ぶ。それらをマジックシールドで遮断しながら堪えて衝撃を逃がし、それらが全て抜けた所で、拳児はマジックシールドを解除して、目の前の光景に呆れた顔をして呟く。
「やっぱ爆発物を一緒に置くのって危なすぎるよな」
「……そうね。ここまでの爆発を起こすとは思っても見なかったけれど」
拳児の呆れた口調にマリエルが同意しながら、彼の横に立って周辺を見渡す。そこに広がるのは周囲から若干陥没した地面と、完全に粉砕された鎌の死体とオークの頭に見えるパーツの破片だけだ。動いている個体が一切見えない状況になった事にマリエルは呆れながら言う。
「この爆発が人めがけて起きたら本当に人間1人なんて粉々じゃない。何考えてるのこいつら?」
「多分効率しか考えてないんだと思うぞ。一体の爆弾で複数人を死体に変えられれば効率良いだろ」
「バカなのねこいつら、バカなんだわ」
まるっきり効率の事しか考えていないと思われる拳児の言葉に同意するようにマリエルが散らばった破片達を眺めながら呟く。確かにこの爆発が複数人を巻き込んで発生すれば死体が複数出来上がるのは目に見えているが、それ程までに死体を製造したいという執念を感じる事で、化物の考えている事を理解しようとするのは無駄か、とマリエルは自分の中で折り合いをつけた。そのまま拳児と共に爆発地点へと移動し、周辺を確認して落ちているパーツを拾い上げる。
「オークの頭ね、頭しか残らなかったわ」
「あの爆発で一つでも頭が残ったのは幸いだな」
たった一つ残された豚の頭を拾い上げたマリエルがそのまま荷物袋から麻袋を1枚出して、頭を収納してから背中に背負う。他の面々も爆発地点を確認しつつクリーチャーの破片を確認していた。
「鎌、これはダメね」
「流石にここまで木っ端微塵だと再生しないみたいだね」
ゴブリンの頭だけ残った鎌の破片と、刃の部分のみ残った欠片を見てフランとニアが爆発の激しさを認識する。本当にここまでの爆発を生物が起こせるという事も驚くべき事だが、そのメカニズムについても一考の余地がありそうだと綾子は考えていた。
「多分、内圧が相当あったんだと思う。拳児君の説明だと爆発と同時に微生物を撒き散らすらしいから内部の圧力が腹膜の限界までかかっていた所で、拳児君の魔法で強い衝撃を受けて破裂。その衝撃を受けた他の爆弾も衝撃が連鎖して爆発、と」
「まぁゲームでも同じようなシチュエーションで同じ事して切り抜けてるから、プレイヤー側としては便利なギミック程度のモノなんだよね」
綾子の説明に納得しながら拳児は自身のゲーム体験を語り、周辺で使えそうな物が他に無いか確認し、それが無さそうな事を理解してから軽くため息を吐いて呟く。
「爆弾、捕獲を試みるか?」
「任意で爆発される可能性があるんじゃないですか?」
「それもそうなんだよなぁ」
少し検証を試みたいという拳児の願望に対してレテスが苦笑しながら任意起爆の可能性を考慮して止めると、拳児も大人しくその提案を引っ込める。ゲーム内でも自らの意思で爆発していたクリーチャーなので、捕獲された所ですぐ爆発、となる可能性の方が高いだろうという事だ。とりあえす収穫はマリエルが確保したオーク1匹分の頭しか無い事に納得する。
「マリエル、どうする?」
とりあえず情報を収穫したマリエルに対して拳児が問いかけると、マリエルは肩にかけた麻袋をポンポンと叩きながら答える。
「ギルドに持って帰りましょ。それと爆発の威力を確認する為に散らばった鎌の破片も少し集めましょうか」
「じゃ、状態の良さそうなパーツから少し拝借しますか」
マリエルからの連絡に応じ、残された鎌のパーツを少し拾い上げて麻袋に仕舞ってから、この日の拳児達は探索を無事に終える事が出来た。




