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迷宮白書  作者: 深海 蒼
第2 異世界陳列罪の章
89/91

89話


 拳児達は戦闘していた地点から15分程走って追跡を振り払い、軽く落ち着いてから拳児がギルドから受け取った荷物の中から麻袋を取り出して、パーツを持っていたフランと綾子に麻袋を手渡した。フラン達は急いで麻袋に持っていたモンスターの前足を収納して拳児に渡すと、拳児も持っていた後ろ足2本と胴体部分を別個の麻袋に分けてしまい、合計5つの麻袋としてまとめて拳児が持ち上げた。思わぬ荷物となってしまったがそのままレテスの魔力の流れによる感知で自分達からより近い転移装置まで移動して、全員でダンジョンの外に出た。


 ダンジョンを出た所で一旦全員がため息を吐き、マリエルが口を開く。


「いや、本当にアレは気持ち悪いわ」

「見るだけで寒気がしたね」


 未知のモンスターの外見に物申したマリエルの言葉にニアも同意する。それほどまでにあの異形のモンスターは不気味であり、嫌悪感を催すものであった。とりあえず無事脱出できた事にほっとしながらマリエルは大荷物となった拳児に確認する。


「それで、このままギルドカウンターに行けばいいの?」

「あぁ、とりあえずザバスさんにコレを見てもらおう」


 マリエルの言葉に拳児は抱えた麻袋を揺らすと、再びマリエルはため息を吐きながら選択の間からギルド内部へ通じる転移装置で転移を行い、ギルド本部である聖堂に戻ってきた。早朝から探索を開始した事で時刻はまだ昼の少し前という段階でそこまで人は多くない。その間にマリエル達は円形のカウンターに辿り着き、マリエルがギルド証を受付に差し出した。


「マリエル・ベル・エライのパーティーよ、ザバスさんに取り次いでちょうだい。未知のモンスターについての用事よ」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 言葉と共にギルド証を受け取った受付担当が水晶玉のような装置にギルド証を置いて軽く確認すると、頷いてからギルド証をマリエルに返却した。


「少々お待ちください、最優先でお呼びいたします。少しあちらの待合席で待機をお願いします」

「えぇ、分かったわ」


 受付担当の言葉にマリエル達は頷いて昨日と同じ待合席で待機する。それから5分もしない内に、ザバスとシモーヌ、そして初めて見るエルフと思わえる若々しい男性の姿があった。彼らの様子に気付いたマリエル達は席を立ってそちらへ進み、彼らの前で軽く会釈をする。


「まだ早い時間だけれど、モンスターを一体分持ってきたわ」

「分かった、本当に助かる。こちらはここのギルドマスターであるシャイクルドさんだ」

「お初にお目にかかる、フィーリアスの冒険者達。この度の助力、本当に感謝している」

「依頼を受領し、調査に協力しているだけですので。冒険者として当たり前です」


 ザバスの説明で隣のエルフの男性、ギルドマスターでシャイクルドが頭を下げると、マリエルも軽く頭を下げながら冒険者として満点の回答を行う。その様子に満足したシャイクルドが笑顔で頷くのを見てから、ザバスが麻袋を持つ拳児に視線を向けた。


「それが、一体分の素材か」

「とりあえず確保できました。確認したい事があるので解体場かどこか、広い場所で検証したいんですが」

「では解体場へ案内しよう、付いてきてくれ」


 拳児の申し出にザバスがすぐに移動を開始し、拳児達もそれに続く。まばらに存在する人の間をすり抜けてザバスに案内された通路の先には、確かに解体場というべき空間が広がっていた。ノコギリに串やチェーン、ナイフのようなものから大きな包丁のような刃物まで揃っていた。その中にあるパレットの一つに拳児は一旦麻袋の全てをドサッと置いた。それからすぐに、一番重量のあった胴体部分を麻袋から取り出す。


 背中から管のような4つの部位が突出しているゴブリンの胴体としか見えないモノを確認したザバス達がその実物を見て表情を凍らせる。


「なんと、不気味な……」

「実物はもっと醜悪ですね」


 取り出されたモンスターの姿にシャイクルドとシモーヌが怖気を抱えたまま口を開くが、拳児はそれを構わずにもう一つの袋の中から前足に相当する部位の一つを取り出した。その鎌のような部位を見て、ザバスが唸り声を上げる。


「これは、本当に凶器だな。切れ味も相当だろうし硬そうだ」

「えぇ。俺の棍棒で叩いても刃が欠けない、恐ろしい硬度を持った部位です」


 ザバスの言葉に同意を示しながら、拳児はその前足の一本をモンスターの前足に当たる部分にそっと置いた。その様子を見てフランが訝しげに拳児に問いかける。


「何やってるのよアンタ」

「検証。結果が分かればすぐに共有する」

「そう、分かったわ」


 フランからの問いかけに拳児が端的に応じると、フランはそれで納得して頷く。今の短いやり取りでもマリエルパーティーの面々は拳児が確認したい事があるという事を理解して、彼の行動に疑問を抱かなくなった。そうして前足が胴体部の横に置かれてから1分程で、胴体部分と前足部分の切り口から、まるで白い綿のようなモノがお互いに伸びてきた。その様子にギルド職員達は目を見張り驚き、マリエル達が関心を示す。そうして互いに出ていたワタ同士が接触すると、ゆっくりと胴体に引き寄せられるように前足が動き、また1分程で前足の接続が完全に完了した。その様子に拳児が確信を持って答える。


「やっぱりそうか」

「どういう事だね?」


 拳児の呟きにシャイクルドが疑問を浮かべながら問いかけるので、拳児が大きく頷いて答える。


「交戦した場所に死体が残っていなかった理由です。コイツを倒した冒険者が一旦外に出て再び中に入ると死体が消えていた理由。こうして接続部位が再接続して元に戻ってその場から退散したんでしょう。だから現場に死体が残らなかった」

「なるほど、そういう事なんですね……」


 拳児からの回答にシモーヌが感心したように頷く。そういう理由であれば死体が消えた事にも裏付けが取れる。そう思った矢先に拳児はもう一つの麻袋から同じく前足を取り出してから、綾子に声をかけた。


「綾子さん、申し訳ないけどそっちの接続された足を思い切り踏んでおいてくれない? 暴れても動かないくらい強く踏んづけていいから」

「了解、って事は動くのね」

「もしかしたら、ね」


 拳児に言われた事をすぐさま理解した綾子はピクリとも動かない片方の前足を踏んづけて、念の為自身の棍を用意しておく。そうして拳児がもう一本の前足を胴体の傍に置くと、やはり胴体と前足からワタのようなモノがゆっくり移動して接着し、正常に胴体と結合された。その状態になった途端、胴体部にあったゴブリンの頭が激しく動き奇声を上げる。


「ギェヒイイイ!!」

「うん、そうだろうな」


 首を激しく動かす胴体部分を確認してから拳児は再び取り付けた前足を棍の先に発生させた魔力の刃で断ち切る。すると再び胴体部分は動く事を一切やめ、完全に停止した。その様子を確認し、口を開く。


「とりあえずコイツは、この前足や後ろ足を切り飛ばす事で行動を封じ込められるモンスターです。一旦切断しても見た通り近くに切断したパーツが転がっていると自然とくっついて復活をする。胴体部分に関する攻撃はそれこそ吹き飛ばす目的か、完全に胴体を粉々にするつもりで攻撃しなければ意味がない。斬られても貫かれても怯まないし、コイツはそもそも痛みを感じているのかも怪しい」

「痛みを感じない……そんな生き物いるの?」


 拳児のモンスターに対する説明に対し疑問を覚えたニアに向けて、拳児が苦笑しながら頷く。


「そもそもコイツは単一の生き物じゃない。既に死んでいるはずの肉体に微生物が取り付いて変形させて動かしている、群体とも言える化物だ。胴体は本物のゴブリンのものだけれど、その死体に寄生して微生物が動かしているから腕を切り飛ばされても時間があれば再生する」

「死んでるのか? これが?」


 拳児の説明にザバスが疑問符を浮かべたままその化物の観察を行う。胴体部分のゴブリンは背中側を見なければ正常にゴブリンのモノとして見られる。そうして観察して、違和感に気付いた。


「腐敗も何もしていない。死んでいるのであれば腐敗しているものじゃないのか?」

「確かにゾンビは腐敗するでしょうけれど、これは先程も言った通り微生物。肉体に寄生する事でその肉体の新陳代謝を正常に行うので腐敗しないんです」

「そんな事が、あるなんて……」


 ザバスの問いかけに拳児が回答を示すとシモーヌが目眩を起こしたように額を押さえる。生命として余りにも異常な化物の正体に頭が混乱してしまっていた。そうして拳児の答えが終わった所で、マリエルが問いかける。


「で。コイツの正体、なんで詳しいの?」


 マリエルの真っ直ぐな問いかけに対し、拳児は肩を竦め、苦笑を浮かべながら答えた。


「俺のプレイした事のあるゲーム、ホラーゲームに出てくるクリーチャーと全く同じなんだ。ゲーム上ではゴブリンでは無く人間に寄生して襲ってくるヤツだったが、設定的にタンパク質であれば何でも寄生できる。だから今回、手っ取り早くモンスターに寄生して増殖したんだと思う」

「つまり、こいつ、異世界産かもしれないって事?」

 

 拳児の明確な答えにニアが半分呆れたような表情で問いかけると、拳児が苦笑のまま頷く。その様子にフランと綾子が頭を抱えるが、マリエルが拳児も含めた3人に軽く憐憫の情を浮かべながら口を開いた。


「とりあえずこの問題、絶対解決しないといけないわよ。あなた達の為にもね」

「あぁ、そのつもりだ。原因が何であれ俺の知っているモノが存在しているなら、俺の知識があれば攻略可能なはずだ」

「頼むわよ拳児。本当に今あなたの知恵が必須だからね」

「任せてくれ、マリエル」


 割と懇願めいた事を言うマリエルだが、その気持ちが分かりすぎるニアとレテスも拳児に視線を向ける。その視線に対し、拳児は胸を張って答えるのであった。

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