↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮白書  作者: 深海 蒼
第2 異世界陳列罪の章
86/91

86話


 イエイギナ王国の首都ヒッテリア。港と直通であるこの首都は船便も多く漁港も繋がっている街だ。多くの人とモノが行き交う街の冒険者ギルドとして、フィーリアスと同様に荘厳な面持ちをした建物が用意されており、その内部も広大なスペースが確保されていた。フィーリアスでも多いと思った建物内の人口はヒッテリアでも同じく多く、様々な人間が入り乱れている。そんな中でも中心とも呼べる場所に、ヒッテリア冒険者ギルドのカウンターは円形に配置されていた。カウンター毎に看板が上部に掲げられており、目視でどこにゆけば良いか分かりやすい構造だ。拳児達はその中の一つ、総合受付と書かれたカウンターに並んでいた。


「それにしても、ここも多いわねぇ」

「フィーリアスに負けない人口の多さね」


 列に並び始めたフランと綾子が話しながら待機を始め、少しずつ前に進みながら周囲の観察を行う。総合受付だからだろう、列の前の方には商人と思しき人間といかにも冒険者という出で立ちの人間が混在していた。多くの人が行き交う様を観察しながら少しずつ前へと進み、ようやく拳児達の番となった所で、受付の猫と思われる獣人の女性がにこやかな笑顔で拳児へと頭を下げた。


「いらっしゃいませ、ヒッテリア冒険者ギルドへようこそ」

「あ、すみません俺じゃなくてこっちにお願いします」


 自分に向けて頭を下げてきた女性に対し拳児は苦笑を浮かべながら手でマリエルに視線を向けさせて、マリエルは軽くため息を吐いてから用意していた自身のギルド証と丸められた羊皮紙をカウンターに置いた。


「フィーリアスから要請されて来たマリエル・ベル・エライのパーティーよ。書面を確認してちょうだい」

「こ、これは失礼しました! 確認させていただきます!」


 マリエルの如何にも不機嫌ですといった態度に受付の女性が慌てながら彼女に頭を下げてからギルド証を受け取り、そのまま羊皮紙にも目を通してから再度丸めて、羊皮紙はそのまま受領してギルド証はマリエルに返還された。


「確認しました。フィーリアス冒険者ギルド所属のマリエルパーティーでお間違えないですね。早速ではありますが、この後説明など必要な為担当のギルド職員をお呼びしますので、少々お時間を頂いてよろしいでしょうか」

「構わないわ。どこで待っていればいいかしら」

「ではそちらの広場の待合席にてお願いいたします」


 ギルドの受付嬢からの説明に従いマリエル達は受付から少し離れた場所に設置されたギルドの長椅子が並ぶ場所に全員で腰を降ろし、聖堂内を行き交う人々を眺めながらおしゃべりを始める。


「やっぱり他国でも男がリーダーっていう事が多いのかしらね」

「そうですね、私もフィーリアス以外の事情にはそこまで詳しくないですが、そもそも冒険者になる人の多くは男性ですから」

「それはそうだと思うよね」


 マリエルの少し呆れた言い方にレテスとニアも苦笑しながら同意する。レテスはフィーリアスでのギルド員時代を経ているから、ギルドで冒険者になる多数派は男性である事を良く理解している。その為自然の冒険者グループ、パーティーの多くは男性がリーダーとなり、今のマリエル達のように女性がリーダーとして登録されているケースはほぼ無かったのだ。その為ある意味マリエルパーティーはフィーリアスの冒険者ギルドでは色々な意味で目立っており、ギルド職人からは本人達の知らない所で期待を寄せられている状態でもあった。それを本人達が知る事は今後も無い事であるが、グレスからも期待と関心を持たれているのはこうして他所のギルドに派遣されている事からも明らかであった。


 冒険者の男女比率の話などを雑談として行っていた拳児達の所に、1人の大柄でクマと思しき獣人の男性と、分厚い本を両手で持ち歩いてくるエルフと思われる女性がやってくると、拳児達は雑談を止めて視線を向け、マリエルが彼らに向けて口を開く。


「ギルドの職員さんかしら」

「あぁ、良く来てくれたな、フィーリアスの冒険者達。俺の名前はザバス、こっちの女性はギルド図書館の司書と館長をやっているシモーヌだ」

「シモーヌです、よろしくお願いします」


 マリエルの言葉にザバスと名乗ったクマの獣人とシモーヌと呼ばれるエルフの女性が頭を下げた所で、マリエル達も軽く会釈をしながら席から立ち上がる。


「それでは、説明をお願いします」

「あぁ、こちらに付いてきて欲しい」


 全員席を立った所でザバスが前を進み、聖堂内を案内してくれる。マリエル達は黙って彼らに付いていくと、カウンターから離れて周辺の喧騒が聞こえなくなる程度の距離に離れた個室の一つに案内されて、静かに内部に入る。どうやら応接室のようで、円形のテーブルに椅子がいくつも置かれた部屋に入り、ザバスが黙って着席を促してきた為それぞれ距離が離れすぎないように静かに着席する。彼らの様子を見たザバスも席に座り、シモーヌは部屋の隅にある紅茶セットを用意して静かにお茶の準備をしていた。そんな彼女に軽く視線を向けてから、ザバスがマリエル達に向けて口を開く。


「改めて、今回は来て頂いて助かる。実は既に他所のギルドから2組のパーティーが来ていたんだが、少々トラブルがあってこれ以上の協力が望めなくなってしまったんだ」

「トラブル……契約の不履行とか?」

「いや、そうじゃないんだが……」


 ザバスの言葉にマリエルが訝しげな表情を浮かべてながら問いかけしたが、彼は随分歯切れの悪い言い方でマリエルの発言を否定したので余計マリエルが怪しむ結果となってしまった。そんな所に紅茶を用意したシモーヌが各人の前にティーカップを置きながら説明を行う。


「近隣の2個所から派遣されてきた実績もある冒険者パーティーだったのですが、探索中に問題となっている異形のモンスターに太刀打ちできずに作戦を離脱してしまったのです。メンバーも欠けてしまったという事で、こちらとしても引き止める訳にもいかず」

「なるほど、そういう事ね」


 シモーヌの説明にフランが納得しながら差し出された紅茶を飲み、その香りを楽しんでいる所でマリエルが口を開く。


「ここのギルドに居る冒険者でも太刀打ちが出来なかったの?」

「正直に言えば、既に多くの犠牲が出ている。問題が大事になる前に内々で処理をしたかったが、それが叶わず他所の協力を得るに至ったのが今の時点だ」

「なるほど……相当強いんですね」


 ザバスの苦悩を浮かべた言葉にレテスが納得しながら口を開き、それを見てザバスも頷く。


「最初の犠牲が出てから噂があっという間に広がり、ギルド側でも懸賞金を出したが芳しい成果を得られず、犠牲が大きくなった所で他所に救援を求め、救援に来てくれた他所のギルドメンバーにも犠牲を出してしまった。こちらも協力は惜しまなかったんだが、何とも残念な結果となってしまった」

「割と大事になっているんですね」

「あぁ、大事だ」


 ザバスが言いながら紅茶を飲み、シモーヌが全員に紅茶を渡してから着席して自身も紅茶を一口飲んでから、口を開く。


「協力と言ってもこちらとしてはお金を出すのと情報を渡す事しか協力出来ないのが歯がゆい所ではあります。このギルドにも当然精鋭と呼べる程の実力がある冒険者も居ますが、その方々が協力してくれるかどうかは別問題ですので。強制する訳にもいかないので、被害の噂が大きくなった所で、ダンジョンのその地域には誰も寄り付かなくなってしまったんです」

「懸賞金を出してもダメなのか、本当に大事だな」


 シモーヌの説明に本当に大事が置きている事を理解した拳児は、そのまま紅茶を飲みながら話を続ける。


「それで、具体的な情報は?」

「あぁ。簡単に説明するが今まで見た事の無いモンスターがこの1ヶ月の間に多数目撃されるようになった。最初は様子見というか、何も仕掛けてこない状態だったが、目撃報告から一週間もしてからその異形のモンスターが冒険者を襲い始めた。また他にもダンジョン内の他モンスターすらも襲っている光景を見た者も多い」

「ダンジョンの中で食物連鎖が起きる事例はいくつでもありますが、目撃証言からするとどうもそういった単純な話でも無いそうです。こちらが目撃されたモンスターの事例です」


 ザバスとシモーヌの説明に相槌を打ちながら話を聞き、シモーヌが携えていた本のページを開いて中身を拳児達に見せる。全員で本の中身を確認したが、そこに書かれていたのはモンスターの絵で、一言で言えば文字通り異形のモンスターとしか形容出来ない格好だった。


「なにこれ……気持ち悪い……」

「本当にこんなのがダンジョンに居たの?」

「あぁ、多数目撃されている。恐らくゴブリンに近しいのだろうが、我々が知っているゴブリンとは酷くかけ離れた容貌をしている」


 本のイラストを確認してニアとフランがその不気味さに苦い顔をするが、そのリアクションも理解できるといった様子でザバスは質問に頷く。同じように拳児もその異形のモンスターを見て不気味さを確認したが、それと同時に別種の怪訝な表情を浮かべた。そこに描かれていたのは、ゴブリンと思われるモンスターの背中から四つの大きな鎌のような手足が生えた、不気味なモンスターの姿であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。