79話
指定された属性球を4つ集めた拳児達。ダンジョンの機能の一部を復旧するという目的で収集を行った拳児達なので、いよいよ準備は整ったという事で、今後のダンジョンの流れも含めて再度ダンジョンの精霊も含めた準備会議を行う事となった。
ダンジョンの精霊が管理している長閑な農村の一つにある精霊の所有する家屋の中で拳児達と共にダンジョンの精霊、神殿からセシリアと御使いの身体を通して知識の神アウロラが出席している。ダンジョンの精霊の世話係として住居に居住するコボルトの一匹が全員分のお茶を淹れて一歩引いた所で、ダンジョンの精霊がお茶を軽く飲んでから全員に視線を向けた。
『さて、それで属性球は注文の4つ揃ったという事ですので、いよいよ儀式を行う必要がありますね』
『思ったより早く集まったのが良い。早ければ早いほど混乱は早く沈静化できる』
精霊の言葉にアウロラが白鳩の身体を通して口を開き、ついでにお茶に添えられていたクッキーを嘴で軽く突いてから食べている。その様子に微妙な笑みを浮かべながら、恵が口を開いた。
「それで、具体的にはこの後は何をすればいいの?」
『儀式の概要はこちらに。基本的にはダンジョンの外部に存在する混沌の力を効率良く消費循環する事で、溢れすぎている混沌の力にある程度の指向性を持たせて運用する機能を解放する事が今回の目的です』
『このダンジョンに備えられている機能は混沌の力と相性が良い。未だ世界を漂う大量の混沌の力を一部でも制御して指向性を持たせる事で、混乱しか呼ばない純エネルギーを魔力や自然の力に還元する為に、ダンジョンの機能を利用する』
恵の問いかけにダンジョンの精霊が和紙に近い紙を束にしたモノを取り出してテーブルに広げ、その内容を理解しているアウロラが説明を行う。ダンジョンの機能を利用するという話自体は前もって聞いていたのだが、一部に引っかかりを覚えた綾子が問いかける。
「どうしてそんな機能が封印されてたの?」
『昔は正常に運用されていたけれど、ダンジョン外部の土地は常に領土権争いが起きていた。何度も国体が変わる中で力を操るダンジョンの機能を悪用しようとする輩は枚挙に暇がない。だから神とダンジョンの精霊で誓約を行い、外の人の事は無視して機能に制限をかける事にした。ダンジョンという存在自体が外の土地に人間からすれば大量に資源の手に入る宝の山である事は変わらないけれど、過剰な力を求める野心的な勢力からの介入は、これでかなり減る事になった』
「あぁ、莫大な力を操れるというのは確かに魅力的だものね」
アウロラの説明にマリエルがゆっくり頷きながらお茶を口にし、隣に座るニアもうんうんと無言で頷く。どこの世界も力を求める野心家というのは必ず居るものだと思いながら、拳児もクッキーを口にしてから呟いた。
「それで、俺達の役割は?」
『本来は特にありません。儀式を行うだけであれば神殿と協力して外部の神殿とダンジョン内部で儀式を行えば良いだけですから。外部の儀式では混沌の力を集め、ダンジョン内に通す。ダンジョン内に入ってきた混沌の力を儀式を通してダンジョンの機能を通して指向性を与えて外部とダンジョン内に解放して循環させるだけなので』
『けれど今回は高木の件があるから、何らかの作業が必要になるだろうとは思う』
「ですよねー」
精霊とアウロラの言葉にフランが半ば諦めた苦笑でずずーっとお茶を口に流し込む。きっと色々何かやる事が当日になって分かるのだろうと、その場の全員が納得していた。その様子を見ていたダンジョンの精霊が、相変わらずのバリトンボイスで言葉を続ける。
『つい最近、他のダンジョンで機能制限の解除がありました。緑のダンジョンに連なる傍系のダンジョン、その中の白ですね』
『緑のダンジョンの傍系の白……スルードニフ連邦のいずれかの共和国が今は存在しているはず。こちら側とはほぼ交流の無い国だから私から見ても管轄外。ちょっと管轄の神に軽く確認してみる』
「神に管轄とかあるのか」
『神話や伝説が国由来の話である以上、その話が存在する地方が神の管轄になっている。私のアウロラという神を知らない国では、私は存在しないのと同じだから』
「なるほど、そうなのですね」
アウロラの説明にレテスが初めて知った事実として感心しながら理解して大きく頷く。自分の事を知らない国や人は自分の管轄外というのは、確かにそうなのだろうと納得するしかない。国の為政者などが知らない神なぞ、アウロラの言う通り存在しないのと同義だ。その理屈に納得してから、恵が口を開く。
「その連邦のどっかのダンジョンの機能制限が解除されたって事は、それが高木さんの仕業という確率は?」
『大いに有り得るかと。傍系ダンジョンなので機能としては本家より数段劣りますが、エネルギーの循環を行う機能は備わっているので、恐らくこちらの儀式当日にダンジョン経由で混沌の力をこちらに流し込んでくるかと思います』
「じゃあ高木さんの誘拐というか、誘導を行った神殿の裏切り者がその連邦の国の人だったって事か」
『恐らく。組織的に動いているだろうから、その連邦国自体が神に操られている可能性が高い』
「なんか、めんどくさい話になってきたな……」
ダンジョンの制限解除とそれを行ったであろう高木、そして高木を誘導して連れ去った神殿の裏切り者がどこかの国の組織ぐるみでの行動という線が繋がった事で、一気に話にきな臭さが漂うようになった。当日は色々とあるだろうなと拳児が考えていると、ダンジョンの精霊が全員を見渡して言った。
『という訳で、当日はある程度の混乱は予想されますが、そこまで大事にはならないかもしれません。当日はここに居るセシリアさんがダンジョン内で儀式を行い、ダンジョンの精霊である私がこの村落で儀式を行う事を許可し、準備を行います。その護衛という形で、皆さんは参加して下さい』
「そうね、当日何が起きるかは分からないけれど、私達は私達のやれる事をしましょう」
ダンジョンの精霊の言葉に綾子が同意しながら告げると、全員で顔を見合わせながら大きく頷いた。必要な属性球は全て揃った。後はもう、儀式を執り行うだけな為、出たとこ勝負ではあるが、なるべく穏便に事が済むように祈るだけだと拳児は思うのだった。




